両親が帰ってくるという。
 連絡を受けて、リントはため息をついた。やっと帰ってきてくれてほっとしたような、まだ帰ってこなくてもいいような、微妙な心境だ。大体、いつ帰るかも、行き先も告げずに、子供を家において新婚旅行に行く夫婦なんて、何処の世界にそんなものがいるというのか。
 レンカにはまだ告げていない。伝えてしまうと、両親が帰ってくるまで、二人の間に妙な壁のようなものができてしまう気がしていた。
「リント君、ご飯できたよ」
 レンカが呼んでいる。リントは軽く頷いて、食卓に着いた。
 レンカは料理がうまい。多分、辛党だ。俺に合わせて、料理の味付けこそ甘くしているが、なんだかっていう辛い煎餅とか、わさびとか、そういうのが好きらしい。
 大して、料理が出来ない俺。超甘党。目付きの悪さは生まれつきで、それだけで柄の悪い奴に見られることがおおい。レンカの兄。
 レンカの肉じゃがを食べながら、リントは自分たちの関係をゆっくりと整理していた。
「今日はね、お肉が安くて…」
 うん、と適当に相槌を打ちながら、リントは食べることに専念しようとした。

 しかし、レンカが話すことが、彼女の興味を持つものが、一つ一つ、自分とは何一つ同じでないことに気がつくと、ふと、彼女を構成する全てを知ってみたいと、そんな風に思う。
 一人っ子だったリントの母は、彼が幼いときに交通事故でなくなった。まわりからは、子供だからわからないだろうといわれたが、子供ながらに、なんとなくだが、理解はしていた。もう母は帰らないのだと。
 以来、父は仕事に没頭するようになった。割合家は裕福で、生活に困ることはなかったし、リントは料理以外たいていのことはできたから、さしたる問題もなかった。しかし、リントの内面は、次第に乾いていった。
 別に欲しいものもない。どうせ壊れてしまうし。煩い虫みたいな友達を欲しいと思ったことは、少なくとも母が死んでからはなかった。共感してもらうことを望みはしなかったし、何より、詮索されたり、深く問いただされるのが嫌いになった。次第に孤立していく。
 ある日、新しい家族が増えた。母親と、妹。
 所謂初恋をいうやつを経験する。十四歳。
 まあ、もし仮に告白をしたとしても、兄弟でどうこうできるわけもないし、レンカは俺のことが苦手らしいし、今の微妙な関係が、しばらくは続くのだろうと思う。
 そんなことを考える。日曜日。

 グミは寝息を立てていた。
 その隣で、グミヤは苛立っていた。
 何故俺のとなりで寝る。態々俺の家の、俺のへ屋にやって来て、特に何をするわけでもなく、何故俺の隣で寝る。
 休日とはいえ、今日も今日とてグミの言動は理解不能だった。朝八時、突然家に押しかけてくる。しかも制服。十一時、勝手に俺の飯を食う。お陰で俺の昼飯はパァ。正午、本を読んでいる俺の隣にやってきて、少しは可愛いと思った途端、一瞬で爆睡。午後三時、今に至る。
 怒鳴りたい。怒鳴りつけて、ぶん殴りたい。…が、できない。
 どうしてもこの寝顔が、力の抜ける芙抜けた顔が、苦手だ。どうしても力が入らなくなってしまう。
「…」
 グミヤは何も言わず、開いた本に目を戻した。この本、二時間前に読み終わったんだけど…。別の本を読もうにも、一旦ここを立つと、グミを起こしてしまいそうで、不用意に動けない。
 腹も減ってきたな。そう思うのとほぼ同時に、腹がなった。俺のではない。グミの腹だった。
「…あ、お腹減ったー」
 むくりと起き上がって、グミが言った。
「…って、めぇは…」
 きょとんとして、グミはグミヤを見つめた。
「帰れ―――っっ!!!」

 テレビでは、例の昼ドラをやっている。テレビにつらいつく勢いでドラマに入り込んでいるリンは、一時間ほど前からテレビの前を動こうとしない。
「リン、カップケーキ焼くけど」
「あ、オレンジとチョコの奴! 後、ほら、あれ!」
「ああ、ハイハイ。ドライフルーツの奴ね。了解、了解」
 レンはそういうと、さっさとカップケーキを焼く準備を始めた。ドライフルーツと、オレンジピール、チョコチップをだしてきて…。
「レン、ジュース持ってきてよ」
「はいはい」
 生地をオーブンに入れてしまうと、レンは冷蔵庫を開いて、オレンジジュースをコップに注いだ。
 リンの隣に座って、ジュースを渡すと、ありがと、と言ってリンが受け取る。一緒に入れておいたジュースを飲みながら、リンと一緒に昼ドラを見る。

 ちょうど昼ドラが終わった頃、カップケーキが焼きあがった。
「おいしそう!」
 はしゃぎながら口をつけるリンに、レンは少し笑いながら、自分も別のケーキに手を伸ばした。
「今日の晩御飯、何?」
「おやつ食べながら、その話するんだ…」

 そんな日曜日。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

Some First Loves 6

こんばんは、リオンです。
今日は六人の休日の紹介です。
やっぱり休日に書いたほうが良かったでしょうか…(汗
ツンツンな甘党と、ぽわぽわの辛党のコンビすごく可愛いです。
レンカちゃんが食べてるもの何気なく食べたら、
大やけどするリント君が見たいです。切実に。

閲覧数:281

投稿日:2011/12/08 00:05:35

文字数:1,977文字

カテゴリ:小説

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  • 美里

    美里

    ご意見・ご感想

    こんにちわ!

    リント君、過去が辛かったんだね…。でも友達を虫って言っちゃだめだぞ!
    そんなときに現れたレンカちゃん。ますます微妙な心境に、といったところでしょうか。

    ミヤグミ可愛い!そしてグミちゃん可愛い!

    レンカちゃん辛党…!そしてリント君甘党!逆な気もするけど、合ってるような。なんだろう。

    次も頑張ってください!

    2011/12/08 19:49:00

    • リオン

      リオン

      こんばんは、美里さん。

      リント君はツンデレなので、虫は寧ろ褒め言葉です、素直になれないだけです。
      正直どう接していいのかわからない…。そんな感じです。この距離感歯がゆい^^;

      かぐみね全部可愛いです。もう何でこうも可愛いのかってもう…!(黙

      二人のギャップが大事です。辛党天然と、甘党強面のコンビ超可愛いです。つまり私の趣味です。

      一生懸命やらせて頂きます…!

      2011/12/08 21:05:03

  • アストリア@生きてるよ

    かわええのぅ……ww

    リント君なんだかんだで重っww
    ミヤグミ可愛い!ミヤグミ可愛い!((大事な事なので2回言いました(((ぇ

    何か読んでたらカップケーキ食べたくなって来ました……いいなぁリンちゃん!!←
    レンカちゃんの食べてるものを何気なーく食べてみると、大やけどするリント君……何と超甘党……2828…←

    リント「おい、1枚これ貰うぞ」
    レンカ「あ、お煎餅?いいけど……あっ、食べちゃった」
    リント「……うっ、辛ぁぁっっっっ!!!痛ったぁぁ!!水、水っっ!!」

    私はこんな感じだと萌えれます!!((何を言っとる

    2011/12/08 18:03:57

    • リオン

      リオン

      こんばんは、アストリアさん!

      リント君は真面目っこです。何でも深く考えちゃって、最後、「重い」って言われて終わります。
      ミヤグミ超可愛いです。何が可愛いって全てがかわいい。

      レン君のカップケーキは本当に美味しいと思います。リンちゃんは太らないように努力してます。
      リント君が超甘党なのもそうですが、レンカちゃんがそれを凌ぐ超超超辛党だからです。

      リント「もらうぞ」
      レンカ「うん…。でも、リント君、辛いの苦手じゃ…」
      リント「少しくらい平気だ」
      レンカ「でも…」
      リント「うるせぇ。……っ!!! ???っ! ! ????!?!!?」
      レンカ「リント君、そのお煎餅、一枚に唐辛子エキス500mlだよ…?」
      リント「それを早く言え…っ!!」

      実際はこんな感じです。勿論これでも私は萌えますが!!(殴

      2011/12/08 18:23:43

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