ぱたぱたと、グミの上履きの音が鳴る。
「はは、きっついなぁ、グミさん」
 俺は呟いた。

 翌日。
「鏡音くん、貸してくれてる本、ちょっと時間かかりそうかも。返すの遅くなっちゃったら、ゴメンね」
 リンさんは俺に向かって言った。
「いいよ。あれ、結構長いし俺も読むの時間かかったよ。2週間だったかな、大体」
 俺の返事に、リンさんはありがとうと言って、グミさんの元へと戻った。
―――リンの気持ち、知ってる癖に。
 不意に、昨日の放課後にグミさんに言われた言葉を思い出す。
 早いうちに、伝えないと。俺はそう思った。
「レン、どうした? ぼーっとして」
 午後の体育の時間、クラスメイトで幼馴染の初音ミクオが言った。
「ん? 悪い、ぼーっとしてた?」
「ああ。そんなじゃ、ボールぶつかるぜ?」
 今日の授業はバスケ。今は俺のチームじゃなくて、他のチームがゲームをしている。
 はあ、と溜息をつく。
「溜息も付き過ぎ。今日何回目?」
 呆れた様なミクオの台詞。うるさいな、と返事を返す。
「鏡音ちゃんの件? ったく、早くしろよ。取られてもいいのかよ」
 他のやつに。ミクオは言った。あぁ、そういえばこいつには話しておいたんだっけ、リンさんのこと。
「何ならオレが言おうか?」
「馬鹿、やめろ」
 少しふざけたミクオに俺は言った。露骨に顔を顰めてみせる。つまらない奴だな、とミクオは言った。
 ちらりと別の方を見る。そこでは女子がバスケをやっていた。
「なぁ、女子では誰がいい?」
 隣で、クラスメイトが話していた。
「うーん、鏡音リンは? 可愛いじゃん」
「あ、確かに。でもさ、神威もいいじゃん? あのはっきりしたところが」
 わかる、と相槌をさらに打つ。
 はあ、とまた溜息をついた。苛々する。
 その様子を見ていたミクオがやれやれと首を振ったのが分かった。
 くるりと回れ右。ミクオに背を向けて、体育館を出るために扉へ向かう。
「どこ行くんだよ」
「サボる。保健室行ってくる」
 俺はミクオにそう言って、体育の教師に、「気分悪いので」と一言告げて体育館を出た。
 廊下を歩いて、保健室へと行く。保健室は体育館と近いから、すぐに着いた。扉を開けて、中に入る。どうやら先生は不在のようだった。並んで置かれているベッドの一つに近付いて、カーテンをシャッと閉めた。寝転がると、一気に眠気が押し寄せてきた。瞼を閉じる。すると、俺はすぐに眠りに落ちた。

「……くん。鏡音くん、起きて」
 聞き覚えのある声に呼ばれ、俺は目を覚ました。
 ゆっくりと瞼を上げ、声の主を見る。
「あれ、リンさん……? どうしてここに?」
 俺は尋ねると、「もう放課後だよ」と呆れたように笑った。
 どうやら俺はあれからずっと寝ていたらしい。疲れていたのかもしれない。
「これ、初音君が渡してくれって」
 リンさんは俺に鞄と袋を差し出す。受け取ると、中には丁寧に畳まれた制服が入っていた。そこで、俺はまだ体操着のままだということに気が付いた。ありがとう、とお礼を言う。
「ちょっと待ってて」
 そう言って、カーテンを閉める。すぐに制服に着替え、カーテンを開ける。リンさんは隣のベッドに腰掛けていた。
「鏡音くん、どうしてミクちゃんと別れたの?」
 不意に、リンさんは俺に訊いた。
「……理由、ミクから聞いてない?」
 聞き返すと、「別れたとだけ」と言う返事が返ってきた。
「知りたい? 理由」
 俺は目の前にいるリンさんに尋ねた。彼女は頷いた。
「……好きな人が、いるから。リンさんが、好きだからだよ」
 少し俯いた。リンさんが立ち上がったのは、見ていなくてもわかった。
 つかつかと、歩いてくる。とはいってもそんなに距離は無く、2、3歩程度だけど。
 ぱしっ。
 乾いた音がした。それから、鋭い痛み。
「そんなの……ないよ。だって、ミクちゃんは、鏡音くんのこと本気で好きだったのに……! 最低だよ、鏡音くんは。ねぇ、ミクちゃんはキミにはもったいないよ。そうでしょ? 酷いよ……」
 リンさんは言った。今にも泣きそうな、震えた声で。
「そうだよ、俺は、最低だよ」
 俺は言った。まだ、リンさんの顔は見ていない。
「だけど……私も、酷いよね」
 ぽつりと、リンさんが呟く。
「……どういう意味?」
「だって、ミクちゃんが振られて、その理由を知って、嬉しいなんて、思ってる。私だって、鏡音くんが好きだよ。だけど、やっぱり、違う。違うよ。鏡音くん、間違ってる。私はそう思う」
 きっぱりとリンさんは言った。顔を見る。彼女は泣きそうだったけど、それを堪えてこっちを睨み付けていた。
「どうすれば……いい?」
 俺は、リンさんに訊いた。
「知らない。……帰る」
 くるりと俺に背を向けてリンさんは足早に保健室を出て行った。
 その背を見送った後、鞄から携帯電話を取り出す。時刻を確認すると、6時を過ぎていた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

彼女なんかより4 Len side

レン視点です。

作品情報を変えたときの不都合で3が変な所にあります。すいません。この話の前に3を読んでください。

閲覧数:206

投稿日:2012/07/22 03:17:46

文字数:2,036文字

カテゴリ:小説

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  • 目白皐月

    目白皐月

    ご意見・ご感想

     こんにちは、目白皐月です。

     その呟きが聞こえてしまっていたら、グミの上履きが飛んで来たのでは……というアホな突っ込みはさておき。
     難しい問題になってきましたね。だって、今更ミクとよりを戻すのは無理でしょうし(ミクだって突っぱねるでしょう)クラスの中でもひたすらぎくしゃくしてしまうかもしれません。
     というかレン……そこで君が「どうしたらいい?」なんて訊いたら駄目ですよ。

    2012/07/24 00:11:49

    • 水乃

      水乃

      こんにちは、目白皐月さん。メッセージありがとうございます。

       グミの上履き顔面命中ってところですかね。ありそうです。(笑)
       確かに難しい問題です。自分からミクを振ったんだからミクと「やり直そう」なんて言えないし、リンともギクシャク状態ですから……。
       ここまでレンがダメな子だとは思ってもみませんでした(笑)レンのへたれさには自分でもびっくりしてます。

      2012/07/24 04:54:20

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