あの後、2人一緒に練習部屋に戻ると、マスターはまだPCの前に座っていた。
「仲直りできたみたいだな」
開口一番そう言われて、カイトと顔を見合わせる。
何の事かと思いかけたところで、マスターの笑みにはっと気付いて、慌てて繋いでいた手を離した。
「なんだよ、そのままでいてもらって良かったのに」
「ほ、ほっといて下さい!」
本当にもう、無意識に手を繋いでたなんて…いつの時代の純情さんよ、まったく。
―Error―
第九話
気を取り直して歌った歌は、自分でもなかなか上手くいったと思う。
マスターも、私以上に喜んでくれた。
でも、カイトが聴いていてくれて、歌が終わってから、やっぱりめーちゃんはすごいって、言ってくれたのが、一番嬉しい。
調子に乗るに決まってるから、そんな事、絶対に言ってやらないけど。
「しかしなぁ。いきなりめーちゃんを拉致ったかと思ったら、あんな…やるな、おい」
「いつまで引っ張るんですか、それ?!」
カイトが真っ赤になって叫ぶと同時に、部屋の入口から、ひょこっと頭がのぞいた。
「何々?カイト兄さん、メイコ姉さんと何かあったの?」
「ミク?!」
ミクだけじゃない。リンとレンも、ミクの後ろでにやにやしている。
いつの間に帰って来ていたのだろう。全然気付かなかった。
「かっ、帰って来たなら、ただいまくらい言いなさいよっ」
「言ったよ?言ったけど返事がないんだもん」
「うわー、メイ姉ってやっぱり、ツンデレ?」
「違います!あまり大人をからかうんじゃありません!」
「そんな事よりさ」
話聞けよ。その前にこっちみんな。
「エラー、止まったみたいだね。良かった」
「だから余計なお世話…レン?」
私の声の低さに、何を感じ取ったか、リンとレンは互いに視線を交わす。
しまった、とかいう類の何かが、2人の顔にありありと浮かんでいる。
「エラー?!メイコ姉さん、エラーって、何が?!」
「なんでリンとレンが知ってるの?!」
「はいはい、2人して大声出さないの」
ミクとカイトの叫び声はスルーして、私は腕を組む。
多分だが、今の私は、さっきのリンとレン以上の笑顔を浮かべているのではないだろうか。
「あんたたちも、余計な事を言うんじゃないわよ。マスターには話してたから良かったけど、ミクは知らないんだから。驚かせちゃうじゃないの」
「ご、ごめんなさい」
「わかればよし。ごめんねミク。大したエラーじゃないから、大丈夫よ」
そうは言ったものの、ミクは疑わしそうな目をマスターに向ける。
そんな彼女に、マスターは肩をすくめた。
「めーちゃんの言う通りだ。もう解決したから、心配しなくていい」
「本当ですか?」
「…そんなに信用ないか?俺」
「いえ!そんな事ないです!はい」
少しばかり落ち込んだような声に、ミクは慌てて声をあげる。
それに乗じて部屋を抜け出そうとしたのか、鏡音2人と目が合う。
どういう事かは大体わかるけど、後でしっかり話を聞かせなさいよ。
そう視線に込めると、そっくり同じタイミングで、苦笑いを返された。
「あ~も~自信なくなってきた。散歩行ってくる」
「マスター、私はちゃんと貴方を信じてます!信じてますってばーっ!」
マスターも、心なしかふらつきながら部屋を出ていき、ミクが小走りになってついていく。
結局、部屋に残されたのは私とカイトの2人だけ。さっき2人きりになったばかりなのに、なんでこうなるかな。
「…あの、カイト?」
「何?」
即座に返ってくる、どこか硬い声に、思わず笑いだしそうになって、堪える。
「拗ねてる?」
途端に、恨みがましい目を向けられた。
が、それにはすました顔をしてみせる。
「何よ、私があの2人にエラーの事なんか、言うわけないじゃない。散々ネタにされるもの」
「でも知ってたよ、あいつら」
「心当たりがない事もないけど、私は無関係よ」
そう言ってやると、少しは機嫌を直したみたいだが、やはり不満そうな声で、ぼそりと呟いた。
「マスターには言ったんだ」
「まぁ…うん、あれは逃げ切れなかった。マスターだし」
「俺には言ってくれなかったのに」
その1言に、たまらずに吹き出した。
ダメだ。馬鹿だこいつ。
「あんたねぇ…そんなだから、いつまでたってもバカイトなのよ」
「な、だって!」
「あのエラーが何かわかってたら、カイトなら私に相談した?」
私の言葉に、カイトは何かを言いかけたまま固まって、面白いほど真っ赤になった。
「…ごめん」
「ううん、いいのよ」
申し訳なさそうなカイトに、なんとかそう言ってやる。
あ~ヤバい。笑いすぎて涙出てきた。
「嬉しかったから、いい。許す」
それだけ私の事、考えてくれたって事なんだから。
調子に乗られると困るから、もう1言付け加えるのも忘れない。
「でも、次からは勘弁してよ?」
「…うん」
バツが悪そうに笑みを浮かべたカイトを、軽く小突いて、立ち上がろうとする。
その前に、左手に微かな温もりを感じて、思わず目を瞬かせる。
「…手、繋いでもいいかな」
あのまま、マスターたちにからかわれっぱなしってのも、悔しいし。
この際、開き直ろうかと思って。
視線を宙に泳がせながら、そう言うカイトに、私は笑い声を漏らす。
「どうせ開き直るなら、これくらいしない?」
わざと、握られた左手の指を、カイトの右手の指と絡めて繋いでやると、目をまん丸くして見つめてくる。
でもすぐに、にこりと微笑した。
「…それで、どこに行こうか?」
なんか、前にも似たような事、なかったっけ。
…あぁ、あれだ。初めて会って、仲直りした時。
そういえばあの時も、お互い手を握って笑ってたっけ。
「正直、どこでもいいのよね。カイトは?」
それがこうなるなんてね。殴っといて良かったのかも。
頭の片隅でそう考えながら、カイトに問いを返した。
fin.
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ご意見・ご感想
華龍
ご意見・ご感想
初めまして。華龍と申します。
ここまで、読ませて頂きました
めーちゃんが可愛いです(*´∀`*)
ツンデレなめーちゃん最高です!!
ユーザーブクマさせて頂きますね!!
エラーにも様々な意味があるんだと(むしろ恋的な)知ることが出来ました!!
2010/05/01 15:05:34
桜宮 小春
華龍さん>お返事遅くなってしまってもうしわけありません! はじめまして!
ツンデレなめーちゃんとヘタレなカイトが私の中での理想ですw
ボカロは人間に限りなく近い、けれど機械、と考えていたら、こんなことになっていました^^;
楽しんでいただけたようで何よりです。
って、ユーザーブクマまで! ありがとうございます……!
2010/08/23 15:48:11