恥ずかしさで本当ならば黙って立ち去りたかったが、生真面目なぼくにはそんな無作法な事は出来ない。失礼します。と頭を下げてスーパーの中に入ろうとしたら、背後から、猿じゃないぞ。と声が掛った。
「あげはは、あげは、だ。猿、じゃない。」
その言葉に振り返ると、サルの首から下げられた携帯電話から、鏡音レンがぼくを見つめていた。
 いつものように鼻先で笑ってやろうかとも思った。けれど、ぼくは素直に頷いてしまっていた。
「知ってるよ。そんなこと。」
そうぶっきらぼうに言うと、鏡音レンは、ならいいんだ。と小さな画面の中で大きな笑顔を浮かべた。
 いぶかしげな様子でサルは、ぼくと鏡音レンのやり取りを見つめていたが、すぐに気を取り直したように、じゃあね。短く言うと、踵を返して先を行くおばあさんと女の人を追いかけた。
 じゃあね。じゃあまたね。それは次があるというあいさつ。
 二学期になったらまた会うという、あいさつ。
 夏休みはあと一週間。あと一週間の中にサルの新しいあだ名を考えておかないといけないな。歌が好きなのならば、そう、歌や音楽にまつわる何か変な言葉はなかっただろうか。そうぼくは思いながらスーパーの中に入った。

 当初の目的を果たすべく、ぼくがスーパーのアイス売場の前で物色をしていると、背後から大きな手が延びてきた。
「俺のはこれな。」
そう言って大きいサイズのモナカアイスをつかんだのは、この暑い中、ぼくにアイスを買って来いと言った横暴な兄だった。
「おまえ、遅すぎる。何を油売ってるんだ。」
駄賃は無しだ。兄はそう言って、その名の通りの横暴っぷりをいかんなく発揮した。しかしここで何か異論でも言おうものならば、アイスすら買ってもらえないので、ぼくはふくれっ面をして抗議するに留めておいた。
「じゃあぼくはこれ。」
そう言ってチョコ味のコーンアイスを差し出すと、兄はさっさとレジに行ってしまった。小さな弟の歩幅なども考えて欲しいが、この兄はがさつなので、そんなこと考えもしないのだろう。
 そういえば、あのおばあさんと女の人は、サルのなんなのだろうか。サルは母親と二人暮らしだと聞いたことがあったけれど。近所の人か何かだろうか。
 丁度タイミングよくレジが空いていたので、すんなりと会計を済ませて店を出ると、ぼくら兄弟は早速アイスに齧りついた。外は相変わらず暑い。だけど、アイスは冷たくておしい。アイスを作った人は天才だと思う。あと、かき氷とカルピスを発明した人も。
 そんなことを思いながらぼくはアイスを食べつつ自転車を押して進んだ。兄はというと、どうやら徒歩で来たらしくぶらぶらとだるそうな足取りで、アイスをかじかじしながらぼくの横に並んで歩いていた。
 がじがじもぐもぐ。とその大きな体に見合った早いスピードで兄はモナカアイスを食べ終えた。ぼくはと言うと、自転車を押しながらということもあり、ゆっくりと味わったおかげでまだ手の中に半分残っている。ということは、だ。兄の倍の時間、アイスを楽しむことができる。これぞ頭脳の勝利と言う奴だ。
 そう思いながらぼくがゆっくりとアイスを堪能していると、ふい、と兄が横から押していた自転車のハンドルを取った。どうやら手持無沙汰になった兄は、ぼくの代わりに自転車を押してくれる気になったようだ。たまには兄らしいこともしてくれるのだな。そう感心しながらぼくがアイスを食べていると、あげはチャン。って呼べばいいんじゃないか。と突然言われた。
「あげはチャン。でいいんじゃないか?変なあだ名をつけるよりも。」
そう笑いをかみ殺した声で兄は言った。
突然そんな事を言われ、ぼくは目を丸くした。ハトが豆鉄砲を食らった時よりも丸い目をしていたに違いない。今後の資料のためにも写真を取っておくべきだったかもしれないが、当然のことながら、豆鉄砲を食らったハトに、そんな余裕はない。
「なん、、、それ、、、」
「壁に耳あり障子に目ありだ、弟よ。」
そう言って兄はにやりと人の悪い笑みを浮かべた。
「どうせおまえの事だから、二学期になったら今度はどんなあだ名で呼ぼうかな。なんて考えてたんだろう。そんな回りくどい事をするよりも、ちゃんとあげはチャン。って呼ぶべきなんじゃないか。」
「そんな、呼べるか。」
無茶にもほどがある。女子を、下の名前で、しかもちゃん付けで呼ぶなんて、難易度が高すぎるにもほどがある。
「しかしあれだなあ。おまえは本当に頭でっかちで阿呆な小学生だな。」
そう兄はからかうように言うと、ひらりと自転車にまたがった。
「じゃ。暑いから先に行くぞ。」
そう言うが早い、兄は自転車をこぎ出して颯爽と去っていった。
 あいつ、横暴にもほどがある。普通、後ろに乗せていくだろう、普通。

 いつか大人になったら兄にもあの鏡音レンにも負けない男になって、サルを笑わせることができるようになるのだろうか。
 暑さで溶け始めてしまったアイスを急いで食べながら、ぼくは相変わらず頭上から攻撃を仕掛けてくる夏の太陽を八つ当たり気味に睨みつけた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

夏休みのある一日・8

梅酒の話を書いたくせに夏バテをした私です。
夏休みっていいよね。
かなりの第三者的なガリ勉野郎視点なのですが、マスターつながりなのでこちらにアップしました。
てか小学生男子って何考えてるんだか分かんないよ。
これを読んだ小学生男子が、おれらはこんな阿呆じゃない。とか思ったらごめんなさい。

夏休みがせめてあと1週間延びればいいのに。は、学生のころ常に思っていたことです。
あ、宿題はちゃんと終わらせる子でしたヨ?

それでは読んでいただきありがとうございました!!

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閲覧数:197

投稿日:2010/08/19 12:43:36

文字数:2,090文字

カテゴリ:小説

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  • 時給310円

    時給310円

    ご意見・ご感想

    レンに恋のライバル出現というわけですね、わかりまs(ry

    どうもこんばんは、夏休み良いですよねー。
    1ヵ月以上も休みがあるなんて。それだけあれば、いま頭の中にある話をどれだけ作品化できることか……あ、でも時間の余裕にかまけてダラダラして、けっきょく出来ないかも。まさしく夏休みの宿題の如く。ちゃんと終わらせてたなんて凄いです、僕は31日に泣きながらやってるクチでしたw

    ……って、雑談はともかく感想をば。
    いや、むしろ小学生にしてはかなりの理論派ですな。さすがガリ勉。僕なんぞは高校生くらいになるまで、こんなに色々考えて生きてなかったかも。いかに自分が何も考えていなかったか分かります、はい。
    で、こんだけ頭良さげなのに、あげはに付けたあだ名が「サル」って……なにこの可愛いガキw なんだかムキになって勢いで付けちゃった感があって微笑ましかったです。
    無視しとけばいいものを、何かと構いたくなってしまう。それで相手の反応が思わしくないと、ムキになってしまう。いいかい少年、それはいわゆる1つのだねぇ……と説教してやりたくなります。(^^
    レンがなかなかに良い奴でしたね。ケンカはするが、それはそれ。相通ずるものがあったことを感じさせる最後の笑みが、良い雰囲気でした。
    なんだか取り留めのない感想になってしまいましたが、面白かったです。このシリーズ、段々と世界が広がって来て、個人的には大変嬉しいところw
    体調には充分気を付けられまして、これからも頑張って下さい! 長文失礼しましたー。

    2010/08/19 22:50:56

    • sunny_m

      sunny_m

      >時給310円さん
      読んでいただきありがとうございます!
      いやいや、ガリ勉君はまだ恋の土俵にすら立てていないですよ(笑)
      そして、なんだかんだ言っても私の書く男の子はヘタレ率が高いので、彼も今後、色々と頑張れるかどうか。
      しかも現時点では名前すら出ていないので、更にどうなることやら…

      小学生男子は、難しかったけれど楽しかったですね?。
      頭の良い小学生で男の子って、自分と逆の未知の生物だよ。と。
      だけど、頭いい人って変わり者が多いから、変な子でいいんじゃね!?
      と開き直って書いたら、結果、なんだかとってもアホの子になってしまいました。

      夏は暑いのが苦手なので(寒いのも苦手ですが)まだまだへこたれそうですが、頑張っていきたいと思います。
      それでは読んでいただき、ありがとうございました!!!

      2010/08/20 23:52:24

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