「ただいま…」


疲れの混じった声で帰宅を告げるが、返事が返ってくることはなかった。
両親は共働きの為、家にいないのは当然である。
しかし先に帰ってる筈の人物からの返事がない事に、レンにとって予想外であった。


「リン、いないのか?」


先程より声量を大きくして双子の姉を呼ぶが、やはり返事はない。
とりあえずは荷物を片付けようと、階段を上がって自分の部屋へと向かった。


(どうせ、部屋で寝てるだろうな…)


そう考えながら、自らの部屋の扉を開く。
そして目に入ったのは、制服のままで自分のベッドで寝ているリンだった。


「…寝てるとは思ってたけどさ、何で俺の部屋で寝てるわけ?」


呆れながら呟き鞄を放り投げて、レンは寝ているリンの側に腰をおろす。
リンがそれに気付く様子のないまま肩を上下させ、静かな寝息を立てている。


「………」


レンがリンの姿を眺めると所々、制服が乱れているのが見てとれた。
そこから、リンの寝相の悪さが窺える。


「…ったく、ちょっとは女らしくしろっての」


乱れた制服から見える胸元や太ももに顔を赤くしながらも、レンはそれを簡単に整え直してやる。


「ぅん………」

「っ!?」


リンの僅かな呻き声にレンは、びくりと動きを止めて慌てて顔を上げた。
目を向けた先にはリンの寝顔があり、レンの鼓動は一層高鳴る。
そのまま視線は唇に釘付けになり、無意識に手がのびそれを指の腹でなぞっていた。


「…っん………」

「………っ」


小さく漏れるリンの甘い声が、レンの理性を削り取っていく。
今の彼には、自身の行動を制御するだけの余裕は既になかった。


「ゃ…ふっ………ん…」

「リン…」


初めの内は拙なかった触れ方も、次第に大胆さを増していく。
彼女の名前を呼ぶレンの声は、どこか切なく部屋に響いた。


「リンっ…」


今のレンは呼吸すらままならないようで、息を荒くして必死に酸素を得ようとする。
リンに覆い被さるような体勢で、レンはゆっくりと顔を近付ける。


「リン…起きないのかよ」


そう声を掛けるレンの言葉にも、リンは反応を示さない。
更に顔を近付ければ、リンの息が顔に触れるほどまで間の空間は少なくなった。


「っ…!」


僅かに迷ったレンは、意を決して少ない距離をつめていく。
あと数センチで互いが触れると思われたが―――












「………レン…」










その声に、レンの動きが止まる。
体を離して座り直し、下を向いて深い溜め息を溢した。


「最低だな…俺………」


そう言って、己の卑怯さに自嘲の笑みを浮かべる。
片手で前髪を乱暴に掻き揚げ、奥歯を強く噛み締めた。


「なんで、リンなんだよ…」


レンは静かな声で、自らに問いかける。
何度も繰り返した、答えの出ない自問自答。
それは出口の無い迷路のように、同じ道を辿るような行為と同義だった。


「…なんで、姉弟なんだよ………」


昔は好きになれた、リンと同じこの髪の色が。
昔は誇らしかった、リンと同じこの顔立ちが。
昔は嬉しく思えた、リンと同じ巡るこの血が。



しかし好意に気付いたあの日から、全てが憎らしくなった。



リンと同じ髪の色が
リンと同じ顔立ちが
リンと同じ巡る血が



彼女と双子である事を
彼女と姉弟である事を

ただひたすらに呪った





レンは立ち上がって、扉に近づいてドアノブに手をかける。
ドアノブを握ったまま、顔だけをリンに向けた。


「…ごめん、おやすみ」


そう言い残して、レンは静かに部屋を出ていった。
暫くして仰向けに寝ていてリンは、寝転がってドアに背を向ける。



「…ヘタレン」



リンは消え入るような声で言って、ベッドのシーツを強く握りしめた。















(近いからこそ、触れ合う事は許されない)


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【学パロ】どうして君を【鏡音】

学パロ企画、お試しみたいな感じです。
妙に、シリアスに走った気がする…(-_-;)

閲覧数:1,060

投稿日:2010/10/31 10:40:49

文字数:1,641文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

  • 関連動画0

  • さくら

    さくら

    ご意見・ご感想

    あぁ禁断//

    シリアスでも甘いお話ありがとうございました^^

    2010/12/30 14:45:02

    • 欠陥品

      欠陥品

      読んで頂き、ありがとうございます♪

      気がついたらシリアスになってましたw
      学パロは、今後書いていきたいですね^^

      2010/12/30 16:27:29

オススメ作品

クリップボードにコピーしました