「もしもし?」
少し、警戒しながらルカがそう言うと、受話器の向こうからもしもしルカさんですか?と耳に優しいほんの少し低い声が聞こえてきた。
「お久しぶりです、鳥海です。」
記憶の中と変わらない丁寧な調子に、温かな感覚がルカも胸のうちに広がった。唐突に、何の前触れもなく繋がった鳥海と言う存在がなんだか懐かしくて、少し切なかった。
今、大丈夫ですか?という鳥海の言葉に、大丈夫ですよ。とルカは微かに笑みながら言った。
「それで、どうしたんですか?」
そうルカが問うと、鳥海は来週の金曜日の夜、ルカさんは暇?と訊いてきた。
「もうすぐ、店を開店してから3年目だから、今度の金曜にお祝いをすることになったんだ。店のスタッフと、あとは常連さんが来てくれる予定なんだけど、ルカさんもよかったら参加して欲しいな。と思ったんだ。」
「参加、したいです。」
そう反射的に言ってからルカはしかし、あ。と声を上げた。
来週の金曜は、夕方から撮影が入っていた気がする。ルカは、ちょっとまってください。と言って傍らから手帳を引き寄せて、スケジュールを確認した。来週の金曜日。案の定、既に予定が書き込まれていて、ルカは肩を落とした。
「ごめんなさい。やっぱり駄目でした。仕事が入ってました。」
ため息交じりのルカに、電話の向こう側からも、そっかー仕事か。とトーンが落ちた声が聞こえてきた。
「久しぶりに会えると思ったんだけどな。」
残念がる鳥海の言葉に、本当ですね。とルカも頷いた。
「本当に、こうやって話するのも久しぶりですよね。鳥海さん、元気でしたか?」
ルカの言葉に鳥海がうん。と頷いた。
「ルカさんも元気そうだよね。」
鳥海の、まるで見てきたかのような言葉にルカが、え?と首をかしげると、あちこちで君の映像を見るから。と鳥海は言った。
「頑張ってるね、ルカさん。ああ、でも頑張りすぎて無茶してない?」
そう茶化すように言う、鳥海の言葉に、ルカが無茶ですか?と首をかしげていると、笑いをかみ殺した声が耳元に響いてきた。
「寒い中、凍えながら歌ったりしてない?」
その言葉にルカも、ああ。と笑った。
「そんなことはもうありませんよ。スタジオの中は暖かいし、沢山の人によくしてもらっています。」
「そうだよね、あの頃とは違うよね。」
懐かしむのとは違う、ほんの少しだけかすれて湿り気を帯びた鳥海の言葉に、ふとルカの胸の中で何かちいさくも弱い音が鳴り響いた。
あの頃と違う。と言われて、冷たくて少し痺れるように痛い、掠れた感覚が広がってゆく。見知らぬ土地に放り出されたような、心もとない感情。不安に押しつぶされて、泣き出しそうな気持ち。
なにこれ。と吃驚して、しかし次の瞬間、ルカは、ああそうか。と気がついた。
私、淋しいんだ。淋しく思っているんだ。
くるくるとまわり続けてここまで来て。ふとくるくるとまわる足を止めた瞬間。中心の場所から、鳥海のいるはじまりの場所から、あまりにも遠くに来てしまっていることに気がついてしまった。
今、自分がいるこの場所は自分が望んだ場所なのに。軸がぶれても目がまわってもくるくるまわり続けて、たどり着いた所なのに。それなのに、振り返って、淋しい、だなんて。なんて子供じみたわがままな感情なんだろう。
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ぽしゃ
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