凪いだ海と、抜ける様な青空、デッキの手すりにもたれ掛かると風が髪をサアッと舞い上げた。
「下向いてると誰かさんみたいに船酔いするぞ?」
「大丈夫ですよ、私船には強いみたいです。」
「そっか…。」
トカゲさん…ううん、啓輔さんは、そう言うと、静かに、そして少し悲しそうな目で私を見た。
「鳴兎から…聞きました…貴方の事。」
「うん…教えた。」
そう言うと啓輔さんは私の目の前に少し古びた封筒を渡した。綺麗な字で『啓輔へ』と書かれている。
「手紙…?」
「うん…父さんが俺に宛てた手紙。そこに…少しだけ、ほんの少しだけ…父さんが
居るから…。」
少し緊張しながら、その手紙を開いた。
啓輔へ
お前に手紙を書くなんて初めてかも知れないな、俺も少し緊張してる。
でもびっくりさせてやろうと思って、電話じゃなくて敢えて手紙を選んでみた。
実はずっと探していた娘が見付かったんだ!啓輔、前にも話したお前の妹だ!
お前の演奏会と日にちが重なっていたから、お前には悪いけど一足先に日本へ
迎えに行く事にした。きっとすごく可愛いぞ?何てったって俺の娘だからな!
俺と鈴音は少々複雑な事情でこうして今一緒に居る。お前と妹も厳密に言えば
異母兄弟な訳だが二人共俺達の大事な宝物だと思ってる。だからムシの良い話かも
知れないけど、どうか仲良くしてやって欲しい。
追伸:お前の誕生日には戻れるから、そしたら四人でパーティーやるぞ!
父、秀輔より
「日本へ…?」
「…日本へ向かう飛行機が…そのまま事故で…二人共…。」
「会いに…来て…くれたの?お、お父さん…私の事…迎えに来てくれたの…?
私の事娘だって…家族だって思って…くれてたの…?ねぇ…?」
「ああ…。」
「…私を愛してくれてたって思って良いの?!」
「ああ…!」
「…っ!…ぅっ…!…っ!」
「浬音…。」
「――ぅぁあああああああああああああああああ!!!!お…父さ…!!お母さん…!!
お父さ…ふっ…うっ…うぁああああああああああああああああああああああ!!」
「浬音ごめん…!ごめん…!会わせてやれなくてごめん…!ずっと…ずっと助けて
やれなくてごめん…ご…め…!!」
叫ぶ様に泣き続けた。涙が止まらなかった。お父さんにも、お母さんにも、もう会えないのが悲しくて、寂しくて、私を迎えに来てくれた事が嬉しくて、ただ嬉しくて、しがみ付いて泣き続けた。
「…お兄ちゃん…。」
「え…?」
「啓輔お兄ちゃん…。」
「うん…うん…!」
「お兄ちゃん…お兄ちゃん…お兄ちゃん…!」
私が泣き止むまで、お兄ちゃんはずっと抱き締めててくれた。涙で真っ赤になった目で、それでも凄く優しい笑顔で。
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