案内された衣装室で思わず声を上げてしまった。色取り取りのドレスや着物が森みたいに並んでいた。

「凄ーい！こんなに?!」
「た、確かに迷うわねぇ…。」
「かくれんぼ出来そうだな。」
「ここから向こうは着物で、こっちからドレスになってます。」

服に興味がある方では無いけど、こんなにドレスがあると流石にわくわくしてしまう。値札付いてないけど高いんだろうな…。と、目の前に影が落ちた。

「着たいドレスはありますか？浬…花壇さん。」
「あ…えーっと…どう言うのが似合うかとかよく判らなくて…。」
「花壇ちゃんなら小柄だし、可愛い感じのドレスとか良さそうじゃない？ほら、
　こっちのとか。」
「えっ?!でもこんな綺麗なの私に…。」
「似合うと思いますよ？試着してみますか？」
「で、でも…。」
「ホラホラー良いじゃない、着せ替え気分で。」

チコリに押される様に試着室へ入った。どっちかって言うとこれじゃ私が着せ替え人形みたいな気がするんだけど…。渡されたドレスを着てみる。フワフワした軽い素材で窮屈さも無い、鏡に映った自分はいつもと違ってて、ついついくるくる回ってみる。

「ねぇねぇ、着れた？開けても良い？」
「あ、はい。」

ドアを開けて試着室の外に出てみる。何だか少し気恥ずかしいかも…。チコリもハレルヤさんも一言も発さず辺りが静まり返った。と、少し遠くからバタフライの甲高い声が響いた。

「可愛ーい!!何それズルーイ!!ねぇねぇあたしもドレス着たい!!」
「好きに選びなよ…って、此処で脱がないで!!試着室あるから!!」
「はーい♪」

バタフライのはしゃぐ声で緊張気味だった雰囲気が和んだ。皆目を輝かせてドレスを選んでる。そうだよね…折角だから楽しまないと！と、いきなり上からドレスが数着降って来た。

「ひゃっ?!」
「ちょっと着てみて頂けますか？」
「は、はい…。」

もう半分諦めてなすがままに着せ替え人形な気分だった。でもドレスなんて初めて着たから正直どう言うのを選べば良いんだろう？好きなの選んじゃって良いのかな？でも似合うかどうかって判らないし…。何着目かのドレスを着てみた時、ハレルヤさんの手が止まった。

「…チコリさん、このドレスどう思います？」
「ん？あ、良いかも。ピンク似合うし、アクセサリとかも合わせ易そうだし…
　ネックレスとかイヤリングとか。」
「アクセサリですか…ちょっと失礼します。」

ハレルヤさんの両手が髪と首に触れるや否や、後ろにグイと引っ張られた。

「触るな！俺のだ！」
「…へっ?!」

辺りが思いっ切り静まり返った。ハッと我に返った様に私を掴んだ腕が解かれた。振り返ると耳まで真っ赤になった密さんが目を泳がせていた。

―――Piriririririrr…Piriririririrr…Piriririririrr…

「は…はい…！あ…えっと…す、すぐ行きます！」

密さんは電話したまま逃げる様に衣装室を出て行った。頭から湯気でも出そうな私の耳に、辺りから笑いを堪える声がいっぱい聞こえて来た。