#2
俺たちは居心地の悪い教室を抜け出して、言われたとおりに職員室へと入った。
「「しつれいしまーす」」
二人の言葉がかぶる。
「いやいや!お前は言わなくてもいいだろ?」
俺はリンに突っ込みをいれる。
しかし、他人から見ると俺が一人で空間に対して突っ込んでいるようにしか見えないだろう。
「おい!鏡音!はやくこっちにこい!」
俺たちはゴツイ声に呼ばれて、渋々、声の発信源に近付く。
「まったく…お前は…最近、遅刻が多いぞ。前はそんなことなかったろ?」
俺たちは担任の愚痴のような説教を聞く。
「…お前…もしかして…まだ鏡音のこと気にしているのか?」
担任の顔が急にどこか寂しげな表情になった。
「いえ、そんなことは…」
俺は否定する。
リンはうつむきながら黙っている。
「…そうか…お前らは仲が良かったからな…事故からたったの三週間じゃ立ち直りきれないか…そうだよな。」
……
しばらくその場に沈黙がつづいた。
そして、担任は黙っていたこちらの様子をみて、はっと気がつく。
「おっと!思い出させるようなこといって、すまないな。」
「…いえ。」
俺がそう答えると
「鏡音、もう教室に戻ってもいいぞ。もう遅刻するなよ。」
と、意外にも早く解放してくれた。おそらく今日呼ばれたのは、遅刻が原因ではなく、彼なりに俺の事を気遣ったのかもしれないと感じた。
それをリンも感じ取ったらしく、
「「…はい。」」
俺たちは声をそろえて返事をして、職員室を後にした。
放課後、俺たちは一緒に下校している。…というより、せざるを得ない。
というのも、俺たちがお互いに離れようとしてもせいぜい100mがいいところで、それ以上離れようとしても体が前に進まない。これがどうしてなのかはわからない。
ただ、これもリンが幽霊だからということに関係あることはなんとなくだがわかる。
だからここ最近、リンとは一緒にいる時間が多かった。
「レン。今度の休みはどうするの?家にいるの?」
リンが横を歩きながら聞いてくる。
リンが幽霊といっても、見た目はどこにでもいる女子高校生で、飛んだり、透けたり、脚がなかったり、壁を通り抜けできる……なんてことはない。
リンと話せて、見えて、触れることのできる俺にとっては、リンは生きてそこにいるのと何ら変わりはなかった。
「んー。そうだな…どうすっかな。何にも決めてないな。」
俺は適当に答える。
「ねぇ、なら、一緒に隣町の水族館につれていってくれない?」
リンは少し照れながらいう。
「水族館?うーん…でも、俺一人じゃな…」
リンは他の人間には見えないので、客観的に見ると、俺は一人で水族館に行くことになる。
「いいでしょ?ね?お願い!」
「…んー、わかったよ。」
リンがあまりにも一生懸命お願いするので、俺は仕方なく承諾する。
「…あれ?」
その時、俺の脳裏にこんなことが前にもあったような…そんな気がした。
「どうしたの?」
リンが心配そうに俺の顔をのぞいてくる。
「いや…なんでもない。」
そうだ、デジャヴなんてよくあることだ。俺はそう思い、気にしないことにした。
「「ただいま。」」
俺たちは声をそろえて玄関をくぐった。すると、
「おかえり。」
母親が玄関で待っていた。これには少し驚いた。
「あんた…まだ事故のこと引きずっているんですって?先生が心配して連絡をくださったのよ。」
まったく…あの担任はゴツイ顔に似合わず、余計な細かいことをする。
「だいじょうぶだよ。ほっといてくれ。」
俺は適当な返事をして二階にあがろうとした。リンも無言のままついてくる。
「ちょっと待ちなさい!」
俺たちはそういわれて、脚を止めた。
「ほっといてよ!」
リンが怒鳴った。
「おいおい…お前がキレるなよ。母さん、大丈夫だからほっといてくれ。」
「…ごめんなさい。でも…心配なのよ。小さい時から一緒だった子が交通事故で急に亡くなったなんて…大人のわたしでも辛いのに…あんたがほんとに平気なのか心配で…」
母親は伏し目がちにいった。
「……」
リンがぼそっと何か言ったがよくきこえなかった。
「…ほんとにだいじょうぶだから。」
俺はそう言い残して、二階にあがった。
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もっと見る#4
俺は病院のベッドの上の眠っているリンをただ黙ってみていた。
あの後、男性が呼んだ救急車でリンは運ばれた。むろん、それに俺も乗ってきたわけだが、誰も俺の存在に気がついてはいなかった。
ガララッ!
「はぁ…はぁ…リン!!」
病室のドアが開いて、息を切らした母親が入ってきた。
「リン!リン!」
母親...笑顔の理由 #最終話
しるる
#3
次の日曜日、俺たちは約束通りに水族館に行くことになった。
けほっ!けほっ!
リンが玄関先で咳をした。
「おいおい。風邪か?幽霊も風邪ひくんだな。」
俺はリンを少しからかうようにいった。
「そんなこと…けほっ!…ないわよ。」
リンはそう言いつつも、咳をしていた。
「そうか?結構辛そうだぞ?…今日...笑顔の理由 #3
しるる
#あとがき「みんなにありがとう」
こんにちは、しるるです
【みんなでボーカロイド観察(仮)】見てくれてありがとうございます!!
え?みてない?
だったら、そっちを先に見てください!ww
↓
http://piapro.jp/bookmark/?pid=shiruru_17&view=text&fol...みんなでボーカロイド観察(仮)#あとがき
しるる
#27-2「かわりにみんなを守らなきゃ」
ミクとリンが自室に戻った後、続々と自室に帰っていった面々
そして、リビングにがくぽとルカだけになった
「がくぽさんも、怒ったりするんですね」
ルカががくぽにお茶を出して、そういった
「はは…面目ないでござる。2人がいない今、拙者がみんなを守らないといけないと...みんなでボーカロイド観察(仮)#27-2
しるる
#30-1「みんなとの別れ」
翌朝、天気は快晴
今日はミクがマスターと共に寮を出る日
寮のみんなは、ちゃんと全員が起きて朝食をミクと一緒にとった
そして、朝食を食べ終わると寮のインターホンが鳴った
それはミクのマスターである彼女がやってきた音だった
しかしその音は、みんなにとって、ミクとの別れが近い...みんなでボーカロイド観察(仮)#最終話ー1
しるる
#26-1「みんな、あいつの仕業」
テト達が去った日の夜…
夕飯を食べ終わって一息ついたころ…
リビングにカイトとミク、リリィがいた
「そっか…やっぱりそれじゃ、テトさん達は出て行ったんだ」
ミクがそういうとカイトは黙ってうなずいた
「でも…かわいそうじゃないですか?確かにあの人たちがしたことって、...みんなでボーカロイド観察(仮)#26-1
しるる
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