どうして・・・・・・。
どうして、わたしだけが生き残ったんだろう。
キクも、ワラも、ヤミも、タイトも、ミクオも・・・・・・。
誰も自分から死にたいなんて、思うわけがない。
ミクオだって、本当は、死にたくなかったはずなのに・・・・・・。
ひどい・・・・・・。
どうして、何もしていないのに死ななくちゃならないんだろう。
どうして、殺しあわなければいけないんだろう。
どうして、みんな仲良くできないんだろう。
わたしは・・・・・・これからどうなるんだろう。
閑散としたブリーフィングルーム・・・・・・。
三十人分程度の椅子に腰掛けているのは、俺と、麻田、気野、朝美、ミク、そしてGP-1。ディスプレイの前に立っているのは神田少佐である。
俺以外の六名全員の顔に、まるで生気が感じられない。
皆、憔悴しきった、絶望的な表情で俯いている。
恐らく俺自身もかなり酷い顔をしているだろう。
沈黙が始まってから、一分が経過していた・・・・・・。
「・・・・・・状況を報告する。」
突然、神田少佐の、しかしいつもの通りの響きの良いテノールではなく、疲労感に満ちた声が沈黙を破った。それと同時に、皆が顔を上げる。
「まず、今回のミクオによる反逆で発生した戦闘によって被った損害は、基地自体には軽度なもので済んだ。管制塔、射出滑走路も無事だ。しかし、犠牲者はこの基地のパイロットだけでも二十人以上、基地防衛に参加した人間も大半は戦死した・・・・・・。総数およそ三百人。戦闘中に脱出、生存できたパイロットは雪峰の一名だけだった。そして量産型アンドロイド部隊は全滅、ミクオはミクの報告によると自爆したらしい。ストラトスフィアは網走博士の自動操縦プログラムの解除、手動による進路変更の後、再び自動操縦に切り替え、ゴッドアイで脱出した。そのまま七十キロ離れた風葉防衛技術開発実験基地に強制着陸させた。首都まであと三キロ程度だったらしい。なお今回の事件は、戦闘自体はどうにか隠蔽できたらしいが、ストラトスフィアは少々マスコミにも感付かれているが、防衛省が機体の異常で一時的に高度が下がったという事を記者会見で発表してくれるため大騒ぎには発展しないだろう・・・・・・。」
長話が得意であるはずの少佐が、一旦大きく息を吐いた。
それこそ疲労感の表れでもあるかのようなため息を。
「今回の戦闘で、多くの尊い命を失ってしまった・・・・・・。それも重大なことに他ならないのだが、他に大きな問題が発生した。この基地は壊滅的な人員不足に陥ってしまったのだ。これによって、人員の補給がされるか、或いはこの水面基地を閉鎖し、残りの人員は別の基地へ異動となるかのどちらかだ。このことは、まだ上のほうも判断に困っているらしく、これだけはまだ不透明のままだ。GP-1の行方も、だ。それと・・・・・・ミクだが。」
少佐に名を言われると、ミクがゆっくりと顔を上げた。
彼女もまた、疲労と悲しみが入り混じった表情をしている。
「明日の朝九時に、基地へ迎えの車が来る。それで、一度帰宅するんだ。手続きやお前の情報の整理はついている。あとは、博士の言うことをよく聞くんだ。」
「・・・・・・。」
ミクは、ただ黙って少佐の話を聞いているだけだった。
大切な仲間を失ったのは俺だけではない。
ミクも、あれほど仲の良かった殺音ワラが死に、呪音キクも、病音ヤミも破壊されてしまったのだ。
いつもの活発で元気なミクの姿はそこにはなかった。
「もう、送別会までは無理だが、せめて、皆で見送りたい。」
そうだ。
俺は送別会の企画係。
本来なら、格納庫で機体を詰め、盛大なパーティーを行うはずだった。
しかし、今となっては、もう・・・・・・。
「勿論私もだ。司令は重症を負い、まだベッドから立ち上がれないが一人でも、多いほうがいい。」
少佐の言葉に反応する者は一人もいなかった。
そのまま、暗い表情を保ち続けている。
GP-1だけが、その状況を戸惑いながらも見守っていた・・・・・・。
部屋に入ると、いきなりソファーに倒れこんだ。
そのままじっと白い天井を眺める。
なんだか、もう疲れてしまった。
これから何があっても、別にどうでもいい。
ただ自由になれるという、それだけ。
自由のほかに、何があるんだろうか。
もう・・・・・・ワラには・・・・・・会えない・・・・・・。
「・・・・・・?」
そのとき、ドアのブザーが鳴った。
ひろき?
ひろきならすぐに声がする。
「・・・・・・誰だ。」
声は聞こえなくて、そのままドアが開いた。
「ミク・・・・・・。」
「GP-1・・・・・・!」
ドアの向こう側にはGP-1が立っていた。
「どうしたんだ・・・・・・。」
「みくが・・・さびしそう、だから・・・ぼく・・・なにかみくにできることって・・・・・・ない・・・・・・?」
GP-1は、わたしのことを心配してくれているんだ・・・・・・。
「ありがとう・・・・・・じゃあ、そばにいてほしい。」
「うん。」
GP-1は部屋に入ると、ソファーのわたしの隣に座った。
「みく・・・・・。」
「ん?」
「あした、みく、どこかいくの?」
「ああ・・・・・・帰るんだ。家に。そして、それからはボーカロイドっていうものになるんだ。」
「へぇ・・・・・・かえる?」
「うん。」
「じゃあ・・・もう、あえない?」
「・・・・・・ああ。」
そうだ・・・・・・。
隊長達とも、GP-1とも、離れ離れになって、もう会えないかもしれない。
そう考えると、今こうしてGP-1といる時間が、すごく大切に思えてきた。
わたしは、GP-1の手に触れた。
あったかい・・・・・・。
「GP-1・・・・・・あったかいよ・・・・・・。」
「みく・・・も・・・・・・。」
「うん・・・・・・。」
わたしとGP-1は、そのまま手を握り合った。
GP-1の手の温もりを感じてると、少しだけ、安心した。
「GP-1は・・・・・・ミクオのこと、どう思っていた?」
何気なく、そんなことを言ってしまった。
「みくお・・・・・・いつも・・・・・・ないてた・・・・・・。」
「え?」
泣いてた・・・・・・。
「みくおも、ほんとは・・・せんそう、きらいだって、しってた・・・。」
「ああ・・・・・・誰だって、嫌いだ。」
「だから・・・ぼくに・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「だけど・・・ぼく・・・ひとごろしも・・・した・・・。」
「GP-1は、悪くない。」
「・・・・・・え?」
「悪くない。」
「ほんとに・・・・・・?」
「ああ。」
「あり、がとう・・・。」
GP-1は、わたしの肩に手をまわして、そっと抱きしめた。
体の温もりが、伝わってきた。
「みく・・・ずっと・・・いっしょに・・・いたいよ。」
「わたしも・・・・・・できれば、みんなとも離れたくない。だけど、行かなきゃならない。ごめん・・・・・・。」
「みく・・・・・・・・・。」
わたしの顔を、GP-1が覗き込んだ。
すごく、切なそうな目をして。
えっと・・・・・・こういう時は・・・・・・。
そのとき、またドアのブザーが鳴った。
今度はひろきか?
「あーミク。俺だ。ちょっといいか。あ、いや俺だけじゃないんだが。」
た、隊長?
「入ってくれ。」
「失礼す・・・・・・。」
ドアから入ってきた隊長がGP-1を見て立ち止まった。
「ああ、お取り込み中だったか、すまん。」
隊長は振り返って、部屋から出ようとした。
「ああ、いいんだ隊長。」
「いいのか?」
「ああ。」
「それじゃあ、失礼する・・・・・・。」
隊長のほかに、武哉と皇司と舞太が入ってきた。
「どうしたんだ?みんな突然。」
「お前、明日もう行っちまうんだろ。」
「だから・・・・・・思い出を残したくて。」
「なんかお話でもしようよ!」
みんな、わたしのことを思ってくれているのか?
そう思うと、また、目が熱くなってきた。
「お、おいミクどうした。やっぱ、まずかったか?」
「ううん・・・。いいんだ。隊長!みんな!」
「?」
みんながわたしをじっと見つめた。
「ありがとう!」
「ミク・・・・・・。」
「おや、ミクの部屋、お客さんがいっぱいだね!」
今度はやっとひろきが来た。
「ひろき!」
「お~いミクちゃん!お邪魔しマース!」
「パジャマしマース!」
「飛鳥!円!」
「げ。整備員のお笑いコンビ!」
「生きてやがったのか!」
「そうだ!みんなでウマウマおどろうよ!」
「ナイス名案!」
「うっふふ・・・・・・あっはははは!!!」
ありがとう・・・・・・ありがとう・・・・・・みんな。
みんなのことは、絶対に忘れない。
明日、ミクと共に、遂にこの水面基地を出る。
そして、その次の日には、クリプトンへと籍を置くことになっている。
軍とクリプトンは双方とも重要な係わり合いをもっていて、僕とミクの情報整理、操作は済んでいて、受け入れ準備は終わっているらしい。
今思えば、今まで本当にいろんなことがあった。
それに、ほんの数週間だけど、ミクは軍に入ったことで何か大切なものを手に入れた気がする。本当に大切な何かを。
ミクが兵器になるのは嫌だった。
でも、明日からはもう違う。
そして、ミクはボーカロイドになる。
人々に幸せな歌を送り届けるようになる・・・・・・。
でも、キクも、タイトも、そんなミクの姿を見せてやれない事が、凄く、悲しい。
いや、いつかどこかで、見ているかもしれない。
キク。タイト。ワラさん。ヤミさん。
僕とミクは、君たちの分まで、自由に、幸せになって見せるよ。
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