サナトリウムを追い出されて、
海岸をとぼとぼと歩いてると、
年の行ったおじいさんに会った。

「若いのに何をしょぼくれた顔をしとるんだね?」
「僕の家族が、あのサナトリウムに入院したっきりで、
 面会もさせてくれないんです」
「それは不憫な」
「施設の人が言うには、僕に原因があるんだそうです。
 僕が彼女に無理な歌ばかり歌わせたので病気が悪化したと!」
「ほう。それで、あんたは何て言ったんだい?」
「『そんなはずはない』と言いました」
「ふーん。本心からそう言ったのかい?」
「えっ。何を言ってるんですか?本心に決まってるじゃないですか。
 おじいさんまで僕を疑うんですか?」
「そんなことないが、あんたはどうも迷ってるように見えてな。
 本心から言ってる割には、えらく自信なさげじゃないか?」
「えっ……。うっ。そう言われてみれば確かに。少し、自分のせい
 かもと思っていたかもしれない」
「だからだよ。あんたがメルトみたいな曲を歌わせるべきじゃないか
 と迷うから、ミクは病気になったし、施設には入院するし、あんたは
 面会もできなくなったんだ」
「え!何でそのことを!あなたは一体!」

と、そこで気がついた。
僕が話しかけていたのは、おじいさんではなく
「ゴミを捨てるな!」とサインペンでかかれたヘルメットをかぶった
不細工なカカシだったのだ。青いひげにうっすらと笑みを浮かべながら
鋭い目でこちらを見ていた。

さらに驚いたことには、松林の向こうに見えていたサナトリウムの
建物も跡形もなく消えていた。急いで戻っても、何もない原っぱが
延々と広がっているだけだった。

悪い夢でも見たのかと思って、電車を乗り継いで、自分のアパートに
帰った。散らかりきった自分の部屋には、前と同じようにミクがちょこんと
座っていた。

「ミクっ!いつ戻ってきたんだ!」
と叫ぶと、ミクはきょとんとした顔で僕の顔を見つめた。
まるで「私はずっとここにいたよ」と言いたげな様子だ。

僕は言った。
「ミク、歌ってくれないか?」

ミクはしばらく間を置いてから、いつものように奇妙な歌を
歌い出した。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

ゴミを捨てるな

前回の続きです。

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閲覧数:455

投稿日:2009/01/06 16:05:39

文字数:896文字

カテゴリ:小説

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  • 矢印

    矢印

    ご意見・ご感想

    遡りが足りなかった

    2009/01/08 16:02:53

  • sansui

    sansui

    ご意見・ご感想

    そういえば、去年の4月くらいに、
    ”「子猫のパヤパヤ」みたいに明るい歌を歌いたい”
    と誰かがボヤいてる歌詞がアップされてたような
    記憶があります。すっかり忘れてました。
    >矢印さん

    2009/01/08 10:42:32

  • 矢印

    矢印

    ご意見・ご感想

    なんでそんなわけのわからない嘘をつくんだろうと思って遡ってきたら本当だった
    とても意外

    2009/01/08 02:09:42

  • sansui

    sansui

    ご意見・ご感想

    初めてテキストにレスがついた。うれしい!>↓矢印さん

    2009/01/06 22:26:48

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