happy wedding!
投稿日:2010/05/12 20:08:36 | 文字数:2,920文字 | 閲覧数:657 | カテゴリ:小説
友人が結婚する、と聞いて書いた作品。
部屋の中に明るい声が響く。
「メイコ姉、可愛い!」
「そう?」
鏡の中に映る自分が信じられなくて、気の無い返事をしてしまった。ぎこちなく体を動かしてみる。ふと鏡に、まるで自分のことのようにはしゃぐミクが映った。
「ロボットみたいな動きになってるよ」
メイコ姉でも緊張するんだね、と言われて苦笑する。
「貴女も着てみたら分かるわ」
「私は似合わないよ」
「そう?私はミクのほうが似合うと思うけど……」
慎重に、指先だけ触れてみる。絹特有の手触りが、更に緊張感を増した。締め付けられる感覚に、吐き気までしてくる。
こんなにも、追い込まれるなんて。
だから嫌だったのだ。自分には自分のテリトリーがあり、向き不向きがある。それが個性であって、マスターも分かっていると思ったのに。
「ミクが歌ったほうが似合うわ」
「あの歌はメイコ姉の歌だよ」
「そう?」
「うん、マスターの思いが伝わったもの」
そう笑顔で返すミクに、困惑した。ウェディングソングなんて、自分よりミクのあどけない声色のほうが似合っている。
それなのに自分が歌うなんて、とんだお笑い草だと思った。歌撮りよりも先にPVを撮ると言ったマスターの真意も見えなくて。
今日歌う必要は無い、と言い聞かせて。メイコは立ち上がった。
「……大丈夫?」
「うん、平気よ」
笑顔を見せるとミクはほっとしたらしく、「マスター呼んでくるね」と部屋を出て行った。
一呼吸置いて。メイコはもう一度、鏡の中の自分と向き合った。
*
がちゃりと扉が空いて、反射的に立ち上がった。
「あれ、マスターは?」
顔を出したミクにそう聞かれてカイトはゆっくりを座り直した。
「今会場の確認に行ってる。……めーちゃんは?」
「今支度終わったとこだよ。私マスターのとこ行ってくるね」
蒼いツインテールを靡かせてミクは駆け足で去っていった。若干興奮しているのか、身体全体から感情が流れ出しているようだった。
カイトはため息を吐いて、手をぎゅっと握る。興奮しているのは自分も同じだ。
始め皆で曲を聞いたとき、歌うのはメイコ以外にないと感じた。柔らかいバラード。すぐに頭には教会の鐘と純白の姿が思い起こされた。
しかし当の本人は自分の曲だとは思わなかったらしい。
「こんな曲、私のイメージじゃない」
頑なに、そして感情的に拒む彼女をカイトは初めて見た。そんな彼女にマスターは一言告げる。
「貴女は自分の中のイメージでしか歌えないの?」
いつも優しいマスターが厳しい声を出したのは、そのとき一回しか聞いたことがない。
そして、俯くメイコの姿も見たことが無かった。
先にPVを撮る、というマスターにも驚いた。歌を撮り終えてからイメージを膨らませながらPVを撮るのが普通なのに。
歌ってる姿を撮る訳じゃないから大丈夫、とマスターは話していた。
困惑したままメイコは今日を迎えたが、カイトにはマスターの思惑が少しだけ理解出来た。
目の前の扉を見つめる。意を決して、カイトは扉をノックした。
*
こん、こん。
ノックの音が部屋中に響いて、メイコは手にしていた口紅を危うく落としかけた。固い声ではい、と返事をする。がちゃりと扉を開ける音が聞こえた。
鏡に映ったカイトに、心臓の音がはね上がる。平常心を保とうと、唇に紅を塗って。いつまで経っても反応がないカイトに痺れを切らして振り向いた。
「……似合わないでしょ」
苦笑いを浮かべると、カイトは一つ、足を踏み出した。
「綺麗。本当に、綺麗だよ」
唇がそう動いた。声を、そして言葉を認識するまで時間がかかる。身体全体が、歓喜で震えた。
ああ、だから着たくなかったのに。
自覚する。
本当は、あの歌を歌いたがっていた自分に。
「……泣いてるの?」
そう言われて、頬に涙が伝ってることに気がついた。近づいてくるカイトから目を逸らせずに、伝う涙すら拭えずに。
「やだ、化粧崩れる」
強がった言葉を放つ同時に、カイトの細い指先が伝った涙を拭う。頬に、触れる。
「本当に、綺麗だよ」
抱きしめられて、耳元でメイコ、と名前を呼ばれる。それだけで、背筋が泡立った。心臓の鼓動が早くなる。
「やだ、似合わないよ。……ウェディングドレス、なんて」
純白の白。スカートはまるで羽のように広がっている。
「俺は、世界一似合ってると思うよ」
「……馬鹿」
抱きしめられた腕が熱い。この腕を一生放したくなかった。ずっと、封印してきたものが止め処なくあふれ出して。自分の感情が制御できなくなっていた。
ただただ、涙が流れる。その涙を、カイトが愛おしそうに口付けた。
「ほら、泣かないで?」
頭が真っ白になって、それでも分かったことが一つあった。小さく、カイトの耳元でその言葉を呟く。
嬉しそうに彼は微笑んで。近づいてくる唇に、メイコはそっと目を閉じた。
「化粧崩れるって言ったじゃない」
「俺の所為なの、それ」
へらりと表情を崩した弟に、メイコは笑った。
おまけ。
ガラスの向こう側では、メイコが目を閉じて気持ちよさそうに歌っている。ヘッドフォンから聞こえてくる声に、カイトは酔いしれた。
「やっぱり、似合ってる」
嬉しそうに呟くと、隣で座ってたマスターが横目で軽く睨んでくる。
「ていうかカイト、貴方は呼んでないわよ?」
「ええ、勝手に来ました」
「許してないけど」
「だってこの曲、俺宛ですから」
自信満々に言い切ると、マスターは深くため息をついた。
ヘッドフォンから流れる曲と歌詞は、どう考えても自分に宛てたものだというのに。
結婚相手に贈る歌。貴方を一生愛し続けるという思い。
これが自分以外に宛てたものだ、なんていう発想は、カイトには無かった。
「でも、PV先に撮るって言ったときはどうなるかと思ったけど……うん、良かったわ」
「やっぱりあれも作戦の内だったんですか?」
「当たり前じゃない。ウェディングドレス着て花嫁気分になったら少しでも気分乗るかなって」
軽い口調で言うが、マスターにはもっと深い考えがあったに違いない。
メイコが閉ざしている思い。そこに気づいていたけれど、結局マスターの手を借りてしまったことがカイトには悔しかった。
「悔しがってるなら次は自分の手でなんとかしなさい」
見透かされたようにそう言われて、カイトは苦笑する。結局、自分たちを作ったのはマスターなのだから、元々適わないって分かっていたけれど。
「……いいんです」
「何が」
「この間のPVは、予行練習ですから」
俺との、と付け加えると、隣から深いため息が聞こえてきた。
「こんな子に作った覚えは無いんだけどな」
「お褒めに預かり光栄です」
にこりと笑って。カイトは録音ブースから出てきたメイコに手を振った。
作品へのコメント1
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【カイメイ】恋をしたボーカロイド
「きーてきーて、お姉ちゃん!」
音を上げてドアが開く。けたたましくやってきたのはリンだった。
「どうしたの?」
私は読んでいた楽譜から顔を上げて元気な侵入者を見やる。
そうして、彼女はとても喜ばしいニュースを持ってきた。
【カイメイ】恋をしたボーカロイド
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悲しそうな顔をした道化師 ‐clown with an unhappy face‐
「こんばんは、――男爵令嬢様」
あなたは相変わらずお赤いのですわね。とても輝いていて眩しいですわ。
口元に扇子を当て、どこかの令嬢が嫌味ったらしく声をかけてくる。
「あら、リューネブルク子爵令嬢様。こんばんは。お褒め頂ありがとうございます、光栄ですわ。」
いくら私が低級貴族だからといって、礼儀も知らないわけではない。
悲しそうな顔をした道化師 ‐clown with an unhappy face‐
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メイコの不幸な一日
思わず「いたっ」と声が出た。ドアを閉めるタイミングが悪く指を挟んでしまったのだ。
挟んでしまった指を確認してみると、爪の先のマニキュアが禿げてしまっていた。
次第に熱を持っていく指先に息を吹きかけて冷ましながら考える。
今日はとにかく何をするにもタイミングが悪い。
夕飯の買い物に向かう途中、音楽を聞こうと思ったら昨夜プレイヤーの電源を落としそびれていたらしく充電が切れていた。お陰で折角昨夜遅くまでインポートしていた音源は聞けず仕舞いである。
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【カイメイ】Blue+Red×Halloween
Halloween Night!
Halloween Night!
今宵はハロウィーン
Trick or treat !
精霊や魔女がやってくるぞ!
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Cafe・給料3か月分の贈り物・1
夜8時30分頃。テーブルの上、マナーモードにしてある携帯がぶるぶる震えているのを、しかし電話に出る事はせず留守電に切り替わるのを、メイコは床に座り込んだまま横目で眺めていた。
しばらくして点滅する光と共に、不在着信・一件。という表示がディスプレイに映し出された。そこにきてようやくメイコは携帯を手に取り、ボタンを押し、誰からの電話だったか確認をする。
相手はカイトから。しかしメイコは折り返しの電話をかけることなく、携帯をテーブルの上へ放り投げた。
はあ、とため息がメイコの形の良い唇から零れ落ちる。苦々しげに眉をひそめて、立てた膝の上に顔をうずめた。
カイトは、メイコと同じ会社で働く一つ下の後輩で、2年くらいの付き合いの恋人だった。
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【カイメイ支援】 PASSIONAIRE 【ver.text 03】
yanagiPの「PASSIONAIRE」が好きすぎて、ティンときて書いた。
「PASSIONAIRE」をモチーフにしていますが、yanagiP本人とは
まったく関係ございません。
ぼんやりとカイメイです! 該当カップリングが苦手な方は
ご注意ください。
【カイメイ支援】 PASSIONAIRE 【ver.text 03】
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カウンターの距離
グラスに入った氷が音を鳴らして割れる。琥珀色の液体を飲みきった彼女はカウンター越しに腕を伸ばした。
「もう一杯」
そう告げるメイコの顔は微かに赤く火照っている。もう二時間以上飲み続けている彼女は口調ははっきりとしている。が、いつもと言動が違って見えた。どうやら酔っているらしい。
カイトは磨いていたグラスを置いてそのグラスを受け取る。
「もうその辺で止めておいたほうが懸命ですよ?」
カウンターの距離
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Cafe・ただのいたずら
この作品は、以前書いた、カフェの話の番外編的な話です。
一連のカフェを舞台にした話を読んでいないと、ちょっと分かりにくいかもしれません。
それでも良いよ。または、読んだことあるよ。という方は前のバージョンからどうぞ。
Cafe・ただのいたずら
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【カイメイ】恋扉桜【短編詰め合わせ】
【恋】君の熱
幼い頃、俺は病弱だった。
今ではその面影は微塵もない健康体だけれど、中学校に上がるくらいまではしょっちゅう熱を出して寝込んでいて、両親が共働きだった俺の面倒を見てくれたのはいつも彼女だった。二階で向かい合わせの部屋だった俺たちの部屋は屋根を伝うと簡単に行き来が出来るようになっていて、お互いのために窓の鍵はいつでも開いていた。
「ただいま、めーちゃん」
玄関を開けレジ袋を放り、もどかしい気持ちで寝室の扉を開ける。
【カイメイ】恋扉桜【短編詰め合わせ】
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【メイコ+勇馬】Haughty or Cute ?【カイメイ】
「そんなぁ、ひどいですようぅ!!」
「はいはい、ごめんね~。それじゃ、カイトくん、もう一頑張りしよっかぁ。」
「鬼ぃぃぃ~!」
スタジオにカイトの悲痛な叫びが木霊した。
カイトの必死の訴えに聞く耳持たず、という風にがくぽとキヨテルは左右の腕を掴み、無理やり録音ブースにカイトを押し込めている。
【メイコ+勇馬】Haughty or Cute ?【カイメイ】
なめこと申します。
一応物書きです。
ボカロ歴は非常に浅いです。
カイメイ中心に自分の妄想を具現化しています。
ありがちネタ+パラレル設定多いのでご注意くださいませ。