・第一話「クワガタにチョップしたらタイムスリップした」
そんで、一体ココはどこなんだ。ワケが分からない。私が一体何をしたっていうんだ。
私は歩みを速めながら懸命に考える。まず状況の把握に努めてみるが、考えれば考えるほど分からない。
別に、シュンカンイドウとか摩訶不思議な事が起こるような、そんな大それたことなんてしていないはずだ。
何かのスイッチを押したわけでもなし。変なもん食ったわけでも、他に何かきっかけがあったわけでもなし。
それに私もそんな中二的な特殊能力なんて、最初っからお望みじゃないし。
あ、でも瞬間移動とか出来たらいつでもアキバのメイト行き放題だ。時間も電車賃もかからなくて済むんだ。
それだったらちょっと欲しいかもな……。
………
ってイヤイヤイヤ、何考えてんだ私?こんな、自分でも分からない所に飛ぶなんて、そんな「どこだかドア」みたいな能力ほしくないよ。しかもこんな唐突に。
あ、ひょっとして、アレ?
自分の能力を、自分自身でまだ使いこなせていないとかいう感じ?才能に気付いたは良いものの、まだまだ未熟すぎて、力の加減が出来ていないとか。
ハハッ、現実では厳しいもんだね、超能力者もさ。
なんて、のんきな事を考えていながら歩いてはいるものの、正直風景には全く見覚えのないものばかり。
まるで迷子にでもなった気分。あ、というか迷子なのか、私?
昔にも迷子になった事はよくあった。
もしかしたら自分の知っている街からもうとっくに離れて、隣町まで来てしまったんじゃなかろうかと、その時は思えるほどだったが今はそんなんじゃない。根本的に次元が違う。
一瞬で、外国にまで来てしまったんじゃないか?そんな感じ。
周りの風景は、どう見てもあまり日本のものとは思えない。都会……東京とか新宿とかに似た印象は受けるのだけど、それでもやはりどこか違う。何かがずれてる。
ねぇ神様。私が一体何をやらかしたってんですか?これは何かの天罰ですか?それか夢でも見ているんですか?
弟の取っておいたプリン食ったのが悪かったんですか?
や、だってアレもう賞味期限近かったし。てか弟そのまま合宿行っちゃってたし。ここで私が食べずして誰が食べると言うんですか?
それか、弟のガンダ○のプラモ、派手にぶっ壊しちゃったのが悪かったんですか?
や、だってアレは仕方ないですよ。携帯充電器のコードに引っかかって、転んで怪我したのはこっちなんですよ?むしろ被害者なんですよ?
それかやっぱりアレですか?昆虫嫌いの弟に、あえて昆虫図鑑の蛾のページを見せまくったのが悪かったんですか?
蛾、可愛いじゃないですか。いや怖くないですよ全然。蝶とそんなに大差ないですって。私、モスラの事、最初は可愛いちょうちょだと思ってましたし。
私に言わせてみれば、世の中なんで蝶の方が優遇されて、蛾の方が忌み嫌われているのかが理解できないんですよ。
肌の色が生まれつき黒いからという理由で、黒人を差別するのは間違いなんです。人間みんな平等なんです。
同じ理屈で言えば、蛾も蝶も平等なんですよ。
……なんて、なに私は蛾と蝶の持つ権利(?)について熱く語っているんだ。
そうか、これは悪い夢なのか。ナイトメアってやつですか。
きっとほっぺをつねれば夢の世界から脱出できるはず。
ギュッ。
……イタイ。しかも目覚めない。
私はただいつもどおりに暮らしていただけ。何の変哲もない、ただただ無限ループしているような平穏な毎日を。
それなのにどうして、いきなり突然こんなワケの分かんない世界に飛んできたんだろう。
もうちっとほら、あるよね?
目の前にいきなり謎の宇宙人とか未来人とかがあらわれてさ、「君は地球人の中で特に優秀な逸材なんだ!君なら我がペルムボルクの星を救えるかもしれない!!一緒に来てくれ!」とか。
「私は未来から来た者だ。私と一緒に未来を変えてほしい、来てくれ」とか。
あるいは神様でもいい。「お前は過去に大罪を犯した。よって5年間、異次元の別世界へと流刑する。5年の間、その世界で自分の罪を見つめ直すといい」とか。
我ながら全部中二病的設定だけどさ。
てかなんだよ、ペルムボルクって。今考えたとはいえ、ひっどい名前。
でもさ、そんなネーミングセンスとかは抜きにして、そーゆー感じの設定は色々あるじゃんか、漫画とかで。
そういう第三者の存在ってか、段取りってか、もうちょっと手順踏んでもよかったんじゃ?
突然こんなとこにポツンと一人で投げ出されたって、意味が分からん。説明してくれる誰かがいないし。
「はぁ……」
歩くのをやめ、途方に暮れて溜息をつく。そりゃ溜息つきたくもなる。
こんな状況下でどう行動を起こせばいいってんだ。何の手がかりも無しに。しかも今、手ぶら状態。
せめてココがどこであるかわかればいいんだけど。
「ジョージ、ここ、どこなんだろーねー」
近くの公園のベンチに座り、肩に張り付いたクワガタに向かって呟く。かなり棒読み。
内心は焦っているはずなのに、何故か声は震えず、むしろ落ち着いていた。
ゆっくりと空を見上げてみる。
なんて無機質で冷たくて薄っぺらい色をしているんだろう。都会ですらこんなにくすんではいないのに。
やはり私は他の星にでも来てしまったんだろうか。もしかしてココが未知の惑星ペルムボルク?
なーんて一瞬アホらしい錯覚にすらとらわれる。
「何が起きたんだろーねー、ジョージ?」
私は、クワガタの黒く艶めく羽根を優しく撫でる。
クワガタは、逃げずにそれを受け止めた。
私はいつもと同じ風に、ペットのコイツと戯れていただけなんだ。
別に何もおかしなことなんてしてない。さっきだって、ちょっと頭を小突いただけ。
だけど、その瞬間何とも言えない場所、空間に包まれて気がついてみたらこのありさまだった。
ね?おかしな話でしょう?小突いた瞬間だよ。まぁ正確に言うんであればチョップだけど。
右手小指の第一関節が、こいつの頭に触れた瞬間の事で。
え、このクワガタが実は超能力持ちの昆虫なんじゃないかって?
そんな意味不明な設定、漫画にもないよ。ぜってーナイナイ。
こいつはまだ幼虫の頃、200円で買った安い奴なんだし。どこにでもいる普通の昆虫。
ねぇ、もうアンタでいいから、教えてよ。元いた場所に戻る方法を。
え、またチョップしてみたら戻るんじゃないかって?
だから、こいつは普通の虫なんだって。ん、でも試してみる価値はあるのかも。
んじゃ、ジョージ、ちょっと失礼。
「えい」
こつん。
……しかしなにもおこらない。
おまけにコイツ、何か悲しそうな目で私を見ている気がするのだけど、これは気のせいなのか?
別にそこまで痛くないっしょ!?ちょっと小突いただけだって。
あ、パワーが足りないからダメなの?もっと電波を受信しろ?
おk。了解だ大佐。
「おりゃ!」
こつん!(今度はちょっと強め)
……しかしなにもおこらない。
だーからそんな悲しそうな目を私に向けるなぁあ!私だってこんな事したくないんだ!
あとで昆虫ゼリー3個おごるから許して!
あ?もっと強く念じなきゃダメ?
おk、了解、大佐。ちょーっと我慢して、ジョージ。
「戻れ!」
ごつん!!
……しかしなにもry
「戻れ!戻れ!!」
5分後。
「戻らねえと、てめーのハサミもぎ取って荒川の上流から流すぞコノヤロー!!!」
自分で言っておきながら意味が分からない。なんだかもうそれどころじゃない。
すると、
「君!そこで何をやっているんだね?」
振り向くと、まず目に入ってきたのは男性警官の制服だった。
騒ぎを聞きつけて駆け付けたのか、それとも周りを歩く人達におかしく思われて、通報されたんだろうか。
そんな事はどうでもよかった。
というか、どうでもよくなった。目の前の光景を見た瞬間に。
まず目に入ってきたのは警官の制服だったが、それも一瞬で別の場所に目が移った。
警官の制服よりも恐怖が残るほどインパクトがありすぎて、もうそっちにしか目が釘づけになってしまった。
「きゃぁぁああああ!?!?」
だから思わず、振り向いた瞬間に叫んでしまった。いい年して恥ずかしげもなく。
私の目が移って行った場所……それは警官の髪型だった。
とにかくひどい髪形をしている。
スポーツ刈りでもない、オールバックでもない、リーゼントでもない、スキンヘッドでもない、ドレッドヘアでもない。
この髪形をどう呼んでいいのか、何て名称なのかすらわからない。というか名称なんてないだろこれ。
そのくらいひどい。極悪な魔女だってこんな髪形はしていまい。
例えて言うなら……現代生け花が妥当か?
そ、そう!現代生け花!!その表現が恐ろしくぴったり合ってしまう。
ストレートにしたらおそらく腰の下あたりまであるだろうその髪は、整髪料やら何やらで塗り固められたのだろう。
頭の上で四方八方にねじれていたり、突き出ていたり、弧を描いていたり、歪んでいたりで、ここまでいってしまえばもう、一つの美術作品と言っていい。出来れば今すぐにでも写メりたいところだ。
警官はあまりにも自分の姿を見て叫ばれるものだから、しばし拍子を抜かしたようだった。
「……?私の顔に何かついているかね?」
顔じゃなくて髪だよ!お前アホか!そんな髪型人前に見せられたら誰でもこう言う反応するわ!
ダメだ、突っ込みどころが多すぎて言葉にならない。
「あの、それ…、なにかギネス記録にでも挑戦してるんですか?」
やっと出てきた言葉がそれだった。
「は?一体何なんだ君。『墨田区の公園で、叫びながら昆虫を襲っている少女がいる!』なんて通報があったもんだから、一応来てみたら……いたずら電話かと思ったのだがね」
でしょうね。そんなシュールな光景があったら私も見てみたいわ。さっきまでの私がそうだったけど。
というかもう、私には髪型の事しか頭に入ってこない。
20代前半くらいの男性警官で、結構イケメンに見えるのだが、髪型のせいでかなりのイメージダウンだ。
「よくそんなんで、公務員務まりますね。注意とかされないんですか、その髪型」
「はぁ?髪型?全く、君は何を言ってるんだ。髪型だって?別になんてことないだろ。これは公務員の模範で――」
「ちょ、ちょおっとストップ!!今なんて言いました?模範?公務員の?」
「あぁそうだ、公務員は皆こんな感じだ」
………。
さすがに、言葉を失った。
私はとんでもない所に来てしまったらしい。
「それはそうと君、どこの高校だ?ここらじゃあ見かけない制服を着ているな。どこに住んでる?」
「え、えーっと……まぁあの、色々ありまして、あはは」
無理に苦笑いしたのが間違いだったか、その表情を見て警官の顔に曇りが宿る。
「ふむ、ちょっと一度交番に行こうか。それといい精神病院を紹介する」
「ちょっと待ってくださいお巡りさん!?精神病院って、私は別に危篤じゃないです!いたって普通の女の子ですっ!」
「公園のベンチに座って、叫びながら昆虫を虐待しているのが普通の女の子なのかい?」
「あ、あはは、やだなぁ。ただクワガタにチョップしてるだけじゃないですか」
「何があったらそうなると言うんだ?」
「う……」
言葉に詰まった。もはや何も言えなかった。説明しても精神異常者だと思われるだけだ。
何を言ったって分かってもらえるはずがない。
というか私に説明してくださいよ。何も分からないのはこっちなんだから……。
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