鋼鉄の装甲を纏い、背の翼で飛翔し、巨大な砲塔を片手で振りまわす。
 その異様な姿の彼女、重音テトの、装甲に包まれたヘルメットのセンサーが、しかと俺を睨みつけている。
 「さぁ、消えるがいい!!」
 テトの叫びと共に、その手にある巨大な銃の砲身が光を放ち、モーターのような音を響かせ、光を収束し始めた。
 身の危険を察知した次の瞬間、視界が青白い光に覆い尽くされ、刹那の間、回避行動をとった俺の鼻先を高熱の光が通り過ぎて行った。
 俺の体が床に着地した瞬間、直線状に飛来した光は後方ですさまじい爆発音を上げた。
 着弾したハンガーの床は跡形もなく消滅し、半径二メートルにも及ぶクレーターのような弾痕が残った。
 重音テトの持つあの巨砲、恐らく実弾武器ではない。
 光線か、粒子だろう。
 そうなれば、あの攻撃には絶対に被弾するわけにはいかない。
 触れただけでもそこから蒸発を始めるだろう。
 「逃げ足の速い・・・・・・だが、次は外さん!」
 彼女の銃が、再び俺に照準を合わせる。
 それを阻止するため、俺はすぐさまテッドとの格闘で床に落としたサブマシンガンを拾い上げ、弾丸の限りを彼女に向け放ち続けた。
 だがその弾丸も、彼女の纏う装甲に遮られ、損傷の一つも与えることができない。
 「ふん、無駄なことを。今度こそ死ぬがいい!!」
 自信に満ちた声と共に、第二弾が発射される。
 「くッ!!」
 まさに紙一重で弾丸を回避し、背後にあるコンテナが消滅した。
 このままでは、最終的にあの光線の餌食となる。
 あるゆる手段を持ってして、せめて彼女にあの銃を撃たせることができないようにしなければならない。
 ダメージの一つでも・・・・・・。
 「くそぅ、当たらないな!」
 彼女の砲身が再び光を収束し、轟音を立てる。
 俺は一瞬の判断でバックパックから破片手榴弾を取り出し、ピンを抜き放った。
 三発目の砲撃が発射された瞬間、俺は回避と共に爆発一秒前の手榴弾を彼女の頭上に投げつけた。
 そして、前方と後方で爆発音が起こる。
 「きゃあッ!!」
 手榴弾の破片に無防備な翼を貫かれた彼女は、悲鳴と共に体を空中でよろめかせ、翼から血飛沫を上げた。
 すかさず貫通力の高いライフルを取り出し、一発、二発、的確に翼を撃ち抜いていく。
 「いやあぁッ!!」 
 悲痛な声を上げた彼女の体が、地上に墜ちた。 
 俺は追い打ちをかけようと拳を作り彼女に迫ったが、テトは即座に起き上がると旋風と共に再び上空へ舞い上がった。
 「小賢しい真似を!」
 彼女が龍の逆鱗に触れられたと同時に、風圧に怯んだ体を機械の腕が掴みあげ、空中へ持ち上げた。
 俺は抜け出そうともがいたが、次の瞬間には、俺の体はそのまま垂直に投げ落とされ、鉄の床へと激突した。 
 「ぐぁあッ!!」
 背中から全身に激痛が行き渡り、力が抜けていく。
 「手古摺らせるな!」
 目の前に、あの砲身が光を収束し、轟音を立てる光景が映った。
 こんな・・・・・・ところで・・・・・・?!
 死ねるか!死ぬ訳には!!!
 俺は己を叱咤し、激痛に悶える体を無理やり跳躍させた。
 そして見事、光線を回避し、地面へと降り立った。
 「お前の弱点は見切った。あとは・・・・・・。」
 台詞と共に再び手榴弾を取り出し、上空に放り投げる。
 「これだけだ!」 
 俺の叫びと同時に手榴弾が空中で爆発し、鋭い金属片を全方位に撒き散らした。
 「同じ手には乗らん!」
 テトが翼を翻し俺の頭上を鮮やかに飛び抜け、破片を回避する。
 俺は彼女の翼に向けライフルを発砲するが、先程のダメージがまるで嘘であったかのように、機敏な翼の動きで音速を超える弾丸を回避した。
 そして、再び光輝く砲身が、俺に向けられる。
 「今度こそ終わりだ!」
 「そうはさせん!!」
 俺は彼女の言葉に答えると、即座にスーツをストレングスモードに切り替え、今度は俺が空中高く舞い上がった。
 「何?!」
 余りにも突然であり、そして想像し得なかった現象に、流石のテトも驚嘆の声を上げた。
 俺はその隙にライフルを彼女の頭部を丸ごと覆っているヘルメットのセンサーに向け、数発の弾丸を放った。
 貫通力に優れたライフル用の弾丸は全てセンサーに着弾し、俺が跳躍から舞い降りた瞬間、彼女の頭部で盛大な花火が巻き起こった。
 「ちッ・・・・・・貴様という奴は!!」
 苛立ちの隠せない彼女は、迷う様子を見せることなく黒く焼け焦げたヘルメットを脱ぎ棄てた。
 「それでは頭がガラ空きだな?!」
 俺が余裕の表情でテトに言葉をかけると、彼女は怒りに顔を震わせ、全身の装甲を全て捨て去り元の姿へと戻った。
 「こちらのほうが身軽でいい。さぁ、ここからが本当の勝負だ!!」
 その瞬間、彼女の姿が目の前から消え去った。
 「?!」
 一瞬の出来事に、俺は思わず周囲を見回した。
 「どこだ!」
 「お前の上だ。」
 頭上の声に反応する余裕もなく、俺の体を太いパイプのような何かが縛り上げ、またしても俺の体が空中に釣りあげられた。
 俺の目の前に、重音テトと、彼女が持つ巨砲が現れる。
 彼女の足の間から伸びる、ドラゴンを思わせるような尾が伸びている。
 それが俺を縛り上げているのだ。
 「これなら外しようがないな・・・・・・。」
 そして彼女の巨砲は光線を発射しようと光を収束する。  
 「さぁ、これで最期だ。きれいな光を見ながら死ぬといい・・・・・・。」
 テトのサディスティックな笑みが、無様な姿となった俺を嘲笑う。
 最期・・・・・・?
 最期だと・・・・・?
 こんなところで・・・・・・?
 まだミクオの言葉の真偽を確かめていない。 
 まだミクが打ち明けると言っていた秘密も聞いていない。
 まだ任務を終えてはいない。
 そして、まだ・・・・・・。 
 その言葉が頭に浮かんだ瞬間、全身に未知なる何かを感じた。
 ナノマシンの身体能力の助長でもない。
 スーツのストレングスモードでもない。
 これは、力?
 「うぬぉおおお・・・・・・!!」
 「な、なんだ、貴様・・・・・・?!」
 体の奥底から湧き上がる未知なる力で、俺は尾からの束縛を、徐々にこじ開けていく。
 そうだ。まだ・・・・・・。
 あの言葉を・・・・・・!
 「す」から始まる言葉を・・・・・・!!
 その時、俺の中で何かが弾け、全身に広がった。
 体が痛みから解放され、無限に溢れ出る力で満たされていく。
 「ワァァァラァァァあああああ!!!!」
 その名を叫びながら、俺はテトの尾を引き千切り、次の瞬間には彼女の胴体を抱きかかえてそのまま地面に激突した。
 背後で、彼女の手から落ちた巨砲が音を立てる。
 そして俺は両手にサブマシンガンを持ち、起き上がろうとする彼女に一斉射撃を行った。
 重音テトの体から鮮血が吹き出し、何回も床の上をバウンドする。
 数百発の弾丸が、少女の体を削り、抉り、引き裂き、貫き、赤く染めていく。
 弾が切れ獣性が途絶えたことで、俺はようやく、自分が異常な興奮状態から目覚めたことを知った。
 そして、ゆっくりと、重音テトの体を見下ろした。
 血の池の中に、筋肉や内臓を弾丸に容赦なく引き裂かれぼろきれのようになってしまった、もはや見るに堪えない陰惨な姿の重音テトが横たわっていた。
 まるで、獣に食い荒らされたようだ。
 これが自分の行動の結果だと思うと、吐き気すら覚える。
 だが、俺はこうしなければならなかった。 
 生きるために、これは止むを得ない処置だったのだ。
 彼女には俺を殺そうとする意志があった。だから、俺が生きるためには彼女を殺さなければならなかった。
 そうだ・・・・・・間違っていない。
 だが、そんなものは自分の都合のいい解釈でしかないことは分り切っていた。
 俺は重音テトのしたいに背を向け、彼女が武器にしていた巨砲に視線を向けた。
 あの銃・・・・・・恐らくはレーザーライフルの一種だろう。
 内部の機関を回転させて作り出した陽子ビームを、アルミニュウムやベリリウム等にあて、その際に発生する荷電粒子を取り出し発射する、荷電粒子砲に分類されるだろう。
 あの光の収束と、何かが回転しているような轟音で大方判断できた。
 俺はその銃を手に取ろうと歩き出した。
 「それはお前にくれてやろう。」
 背後から声をかけられ、背中が凍てついた。 
 今、俺の背後からこんな近い声で声をかけられる、ということは、声の主は俺の真後ろに居るということだ。
 凍てついた背をどうにか動かし、静かに振り向くと、そこには無残な姿の重音テトが、首だけをこちらに向け、俺を見つめていた。
 「何を驚いている・・・・・・私はキメラだぞ。こんなちっぽけな銃弾ごときで殺せると思ったのか。」
 口がふさがらない俺に向かって、彼女は平然と口を聞いた。
 「まぁ、この姿では暫く動けんが・・・・・・とりあえず、私の負けだ。勝者のお前には、ご褒美にその銃をやる。」
 何か見てはいけない悪い物を見たような気がして、俺はすぐに銃に視線を戻し、それを持ちあげた。
 今までの銃ではとても考えられない未来的なフォルムに、青白く輝くイルミネーション。
 まるで、SFの世界から飛び出してきたようだった。
 「名前は、P-LARだ。大事に使え。」
 「礼を言う・・・・・・。」
 その銃をバックパックにしまい彼女の言葉に背で答え、俺はハンガーから先に進むべく歩き出した。
 「急げ。今ならまだ間に合う。」
 その言葉に、俺は思わず足を止め、振り返った。
 「なぜそんなことを言う。」
 「・・・・・・なんとなくさ。」
 テトは、笑いながらそう言った。
 すると彼女は唯一まともな形で残った右腕を微かに動かし、耳の無線機にスイッチを入れた。
 「テッド・・・・・・テッド。ああ、お母さんだ。悪いがあいつに負けてしまったよ・・・・・ああ、ごめんな。体中痛くて、もう動けない・・・・・・何だ、涙声なんか出すんじゃない。男の子だろ・・・・・・?ああ。すぐに、迎えに来ておくれ。」
 テッドと通信をする彼女が首で早く行くようにせかす。
 俺は無言で頷き、そのままハンガーを後にした。


 「え・・・・・・?ふふ、あげちゃ悪いか?あの男になんだか手を貸したくなってな。ああ・・・・・・だって、あいつなら、ボスの考える未来よりも、もっと幸せに暮らせる未来が作れると思ったんだ。二人だけで、静かに暮らせられるような・・・・・・・あいつの目と、その力を見たとき、思った。ええ?ふふっ、まぁいいじゃないか。お母さんの勘を信じておくれ・・・・・・さぁ、ハンガーで待ってるぞ。そろそろ・・・・・・眠くなってきた・・・・・・。」

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

SUCCESSOR's OF JIHAD第六十八話「FOR FUTURE」

「FOR FREEDOM FUTURE」(short ver)
song by TETO KASANE


いくつもの光 降り注いで
ただそれを 見上げるだけで
手を伸ばす度に
光 消えて 闇が笑う
ああ またとりにがした

目が眩み 声はない
鏡に映る 自分の顔
手を伸ばすたびに
殴り 壊して 無き笑う
ああ けがれてる

きっと
今 君も
そうなんだろう ね
ほっとした よ
赤黒い渦の中に飛び込んで
気づいたよ あの幻想と
解ったよ 自分の姿
 
どこに行こうか? これから
もう気づいた からには
無くしたものが 多過ぎたね
じゃあ それを拾おうか
別にいいよ 放り投げても けど手は繋いでいて
生きている証だから

黒い雲は血雨を降らし
蒼の海は黒い川に
緑の森が灰の山に
大きな人は縮こまって

灰は、ふわっと 風に乗って
手の平に乗って

どこに行くべき 私
なにが欲しい 君
そうだ あの光の先
じゃあ、そこにいこうか
別にいいよ 遅くても だから手は繋いでいて
未来が見えるから

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投稿日:2010/01/14 18:51:15

文字数:4,442文字

カテゴリ:小説

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