『ヴォカロ町の迫撃砲』。





あたしが町の皆にそう呼ばれ始めたのはいつ頃だったか、ふと考えた。





大分昔のような気もするし、つい最近のような気もする。





いつの間にか広まっていたから、いつから呼ばれ始めたか、なんてことは覚えていない。










……でも、たった二つだけ覚えていることがある。





一つは、初めてそう呼んでくれたのは小さな少女だったこと。





もう一つは、初めて呼んでくれたその日が私の誕生日だったってこと。










『めえええええええええええちゃああああああああああん!!!!!!!』


朝、共有部屋に入った途端、二人の人影が体当たりをかましてきた。


「っとぉ……リン? レン?」

『めーちゃん!! 誕生日おめでと―――――!!』


そう言ってばっと渡されたのは、20本以上の日本酒やワイン、ウイスキーなどなど各種酒が入った袋。しかもよく見ればどれも有名な銘柄だ。

ああ、そういえば今日あたしの誕生日だったっけ。

……って。ちょっと待って?


「リン!! レン!! あんたらまさかこの大量の酒自分で買ったわけじゃないでしょうね!?」

「さ、流石にそんなわけないでしょー!!? ハクさんがさっき持ってきてくれたんだよ、『メイコさんに』って!」

「あら、そうなの?」


まさかあたしの誕生日を祝うためにわざわざ届けてくれるなんて。

普段積極的にミクやリン・レンと関わろうとしないあの子にとって、うちに来るというのはかなり勇気のいることのはずだ。


(……今夜あの子ん所行くか)


「メイコ姐? 何考えてるのー?」


はっとして顔を上げると、今度はミクがあたしのことを覗き込んでいた。


「はい! 誕生日おめでとっ!」


そう言ってミクが渡してきたのは……コルク抜きと徳利と金の盃?


「え……これ、あんたが?」

「ううん、コルク抜きはネルからで、徳利と盃はルカ姉から!」

「へ、へーぇ……」


なに、あたしのイメージ酒で固まってんの? もちっといいイメージはないのか。例えばこう天下の歌姫とか、敏腕町長とかさ。

そしてミク、リン、レン。あんたらからは祝いの言葉しかないんかい。まぁいいんだけどさ……。


「カイトはどうした?」

「カイト兄さんなら早々に出かけて行ったよ。何でも『何もプレゼント用意できなかったから、せめてめーちゃんの仕事を全部片づけてきてあげるよ』とか……」

「えぇ~……」


ああ見えてカイトは意外と万能だから、心配ないとは思うんだけど……なんだろうこの何とも言えぬ不安。やっぱりカイトだからか、あのバカイトだからか。





「……そういえば」

「ん?」

「確かメイコ姐が『ヴォカロ町の迫撃砲』って呼ばれるようになったのも、メイコ姐の誕生日の頃だったよね?」

「ああ……そういやそうだったわね。確かあん時は、ヴォカロ町の町長に任命されたばっかりで―――――……」



……あたしが一番、苦しんでた頃だった。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


―――――15年前―――――





「はぁあああああぁああああぁあぁああああああ…………………」


町はずれの丘の上で、あたしは寝っ転がって深い深いため息をついていた。


今日はあたしの誕生日。家族にも、町の皆にもいっぱい祝ってもらった。

なのになぜこんなため息をついているのかというと。



……今日からあたしは、この町の町長になる。

柄にもなくプレッシャーに押しつぶされかけていたあたしは、つい逃げ出してしまったのだ。


ケータイに何通ものメールが届いている。殆どはルカから。いくつかはミク達や、町役場の役員の皆から。

きっと怒ってるんだろうな。早く帰らないと。


でも―――――…………。





「…………ねぇ、メイコさんだよね?」





「ふわ!?」


突然目の前に少女の顔が現れ、あたしは思わず奇声を上げてしまった。うっわ恥ずい。

起き上がってみると、そこには中学生ぐらいの少女がいた。

セミロングの髪をツインテールに結び、紅のワンピースを着た、一見小学生とも取れそうな小柄な少女だ。


「……えーと、そうだけど……あんたは?」

「あたし、歌愛ユキって言います!」

「……え!!!?」


歌愛ユキ。聞き覚えのある名だ。

古い古い昔、共に歌っていた、あたし等よりも幼かったVOCALOID。

あの子と同じ名はともかく、同じ名字まで持っているというのか。こいつはびっくりだねぇ……。


「ねぇ、なんでこんなところで寝っ転がってるの?」

「……あんたには関係ないでしょ」

「教えてよー!じゃないと当てちゃうよ!」

「じゃあ当ててみなさいよ」


どうせ当たらないだろう。所詮は子供の考えること―――――



「町長のプレッシャーに負けちゃったとか?」



ドン☆ピシャ!!?


「……ぐ……そうよ……そーよ!! なーに? 笑えばいいじゃない腰抜けってぇ……」


当てられて若干やけくそになってしまったあたしは子供のように駄々をこねた。子供の前で駄々こねるってどうなんだろうこれ……。

そんなふてくされたあたしを見つめていたユキは、しばらくしてから口を開いた。



「……笑わないよ」



「……あ?」

「あたしもね、ちっちゃい頃から怖いことや苦手なことから逃げてたんだ。ずっとそんなままじゃいけないことはわかってるんだけど、逃げてばっかりだった。……………でもね、そんなときは必ず思い出す言葉があるの」

「……何よ」





「『怖いことから逃げることは恥ずかしいことじゃない。だけど逃げたまま立ち向かわないのは醜いこと。どんなに辛くてもどんなに苦しくても、最後には歯を食いしばって立ち向かうのが一番かっこいいんだよ』……って」





「……えっ?」

「こないだ、ルカさんに教えてもらったんだ。刑事になったばかりのルカさんに」

「ルカに……」


随分と大人な言葉だ。あのルカが、そんなにも人を元気づけるような言葉を紡げるなんて。


「それ以来あたし、刑事目指してるの! そしてどんなに怖いことでも、頑張って立ち向かっていけるようになりたいなって! ……メイコさんも、これからずっと大変なんだろうけど、でもがんばろーよ! あたしも頑張るからさ!」


そう言って無邪気に笑った。


まっすぐで。純粋で。

迷うことのない瞳―――――。





……見習うべきかね。ルカの強さも―――――この子の強さも。





「……よっし」

「?」

「ユキ、見てな。景気づけのメイコバースト、一発ぶっ放してやる。そうしたらあたしはもう、ヴォカロ町町長だ!!」

「……うんっ!」


大きく息を吸い込んで。


足を肩幅に開いて。


天に向けて、声を上げる――――――――――





『キイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!!!!!!!!』





地面を揺らし、空気を震わすような音波砲を天に向かって放った。

渦を巻く音波砲は雲を貫き、巻き込んで、遥か空の彼方で轟音を鳴らした。



……ああ、やっと踏ん切りがついた。



「……うわぁあああっ……すっご~~~~~~~~~~~い!!!!」


耳をふさいでいたユキがきゃぴきゃぴとはしゃぎだした。


「すごいすごいっ!! まるで迫撃砲みたい―――――!!」

「迫撃砲ぉ?」

「うんっ!! メイコさんは『ヴォカロ町の迫撃砲』だよっ!! すっご―――――い!!」

「あんた、あたしを一体何だと……」


若干呆れてしまった。言うに事欠いて『迫撃砲』って……しかも中学生のくせしてよく知ってるわね。


だけど……悪い気はしない渾名かな。





「……迫撃砲……か。いいだろう……全方面から町を守るための迫撃砲に、成ってやろうじゃないの」





VOCALOIDとして。―――――ヴォカロ町の町長として。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「あの後ケータイに溜まってたルカのメールを見てみたら、どれもこれも心配のメールばっかりだった……役所に行っても、誰もあたしを責めなんかしなかった。結局あたしは、現実に目を向けずにありもしない虚構に怯えてただけだった」

「そう言えばそんなこともあったっけねー……」

「確かあの日、帰ってきためーちゃんに対してマスター爆笑してたっけね。『お前でもビビることあるんだなぁ(笑)』とか言ってさ」

「あー……」


いらん事まで思い出しちゃった。その反応に若干イラッと来たあたしはそのまま5時間飲みっぱなしコースにマスターつき合わせちゃったんだっけ。


「今となっては、超敏腕町長だけどね、メイコ姐!」


ミクが明るく笑いかけてくる。まるであの日のあの子のように。


「ふふ、そーねぇ。……それにしても」

「どーしたの?」





「……あの日以来、あの子にはあった事がないのよね……まさかまさか、ホントに歌愛ユキの幽霊かなんかだったんじゃないかって思うぐらい……もう一度ぐらい会いたいなぁって思ってるんだけど……今のあたしは、あんたのおかげでこんなすごい町長になったのよって、見せつけてやりたいのに……………」










―――――――――――――――メイコは知らなかった。



メイコと話した翌日、少女『歌愛ユキ』は交通事故に逢い1年ほど昏睡状態になっていたことを。



何とか目を覚まし、一命を取り留めたものの記憶をほとんど失っていたことを。



ただ二つの記憶―――――『巡音ルカに大切なことを教えてもらった』『刑事を目指していた』という記憶をもとに、新しい人生を歩み始めていたことを。





そして今は―――――『相原夕希』という名で、ルカの下で働いているという事実を。










『ヴォカロ町の迫撃砲』と小さな少女の邂逅。二人は今も、町を守っている。





『恐怖に負けず、立ち向かう強い心』を胸に抱いて。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【めー誕】ヴォカロ町の迫撃砲【邂逅】

∠(°Д°)/めええええぇえぇぇぇえええええぇえちゃああああああああああああんんん!!!!
こんにちはTurndogです。

ヴォカロ町のめーちゃんの渾名は『ヴォカロ町の迫撃砲』。
そんなぶっ飛んだあだ名がついたころのお話です。
世間は狭いね☆ってところも書きたかったw
まぁ町一つで狭いも何もない気がするけどww

因みに本編でも何度か言ってた気がするけど……ルカさんの後輩『相原夕希』のモデルはボカロ小学生『歌愛ユキ』です。
今回の話はこの辺の地味設定を存分に生かして世間を狭くしました(何が目的何だか

ところでめーちゃん来年で10周年の王台に乗るじゃないですか。
日本にVOCALOIDが上陸してから10年……V3が続々出てきて、カイトやミクすらもV3になる中、V1でありながら未だに存在感を放つめーちゃんマジ姉御。

【追記】
ピアプロブログにV3めーちゃんの情報が来てるじゃないですかー!!(°∀°)
デモ曲を聞いてみると今までのめーちゃんをしっかりと残したV3の明瞭ボイスに仕上がっててすっげい!これはメイコ親衛隊が鬨の声を上げるぞw
よっしゃ次はルカさんだな!(おい

閲覧数:183

投稿日:2013/11/07 01:37:16

文字数:4,446文字

カテゴリ:小説

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  • イズミ草

    イズミ草

    ご意見・ご感想

    おおお!!
    メイコさんかわいい!!
    なんだか邂逅……感動的でした!
    なんだか私のクオリティの低さと、ノープラン感が否めませんなぁ……
    ターンドッグさんや、しるるさんや、ゆるりーさんみたいに
    濃いものをかけるようにかんばらねば

    2013/11/09 19:39:00

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      うちのめーちゃんだって可愛くたっていいじゃないか!←

      こっちはヴォカロ町という下地があってこそですから……w
      完全な土台ナシからだとなんもかけないですよー。

      2013/11/11 12:08:50

  • しるる

    しるる

    その他

    ちっちゃいころって、ユキちゃんはずっとちっちゃいよね?ww

    迫撃砲って女の子に名づけるユキちゃんのセンスは、誰譲りだろうかww


    せやねん!V3やねん!
    めーちゃんはカワイイのだよ
    べたうちであれだからねぇ、すごいよねー
    しかし、ルカよりリンレンの方が先だろうねぇ 
    それともApendって、すでにV3なの?

    2013/11/07 04:17:52

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      ヴォカロ町では「ユキ」=「夕希」は大人なんです!w
      だから15年前は中学生ぐらいってことでいいんです!(え?

      そりゃーアレでしょう……時代?
      (※ヴォカロ町の世界は第9条が消えた戦争し放題の日本です)

      カイトもなかなかだしミクさんも素晴らしかったがめーちゃんのブレなさがすげえw
      しかもブレてないのにはっきり明瞭だから更にすげえw
      まぁ……先にリンレンかなぁ……
      いや! 今度の誕生日でルカさんがAppend発表されると信じているっっ((((

      リンレンAppendは2ですよー。
      だがルカAppendは必ずV3だと信じてっっ(しつこい

      2013/11/07 17:45:30

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