* 14歳の誕生日
いやにキラキラと輝くスカイブルーの隻眼に、俺は辟易していた。
「リン、も一回言って。何だって?」
「ふぁから、ふぁしふぁふぁあふぁしふぁひのふぁんふぉーふぃふぇふぉ、」
「わかんねーから。」
リンは俺の買ってきた食料を、片っ端から口の中に放り込んでいった。一応俺持ち、二人分の朝食だったのに。なぜか俺が手出しする間もなく食料はリンの胃袋に納まっていく。
まだムグムグやっているにもかかわらず、行儀悪くしゃべりだすリンに俺は半眼で突っ込みをいれる。
「っくん。あのね、アシタはあたしたちの誕生日でしょ?」
「・・・・・・っ。ああ、そういえば、そうだった。」
このところいろいろあって忘れてた。
俺は壁掛けのカレンダーを振り仰ぐ。うん、確かに。明日は正真正銘、俺たちのバースデー。正月、ひな祭りにバレンタイン、メイデー、キリストの誕生日(クリスマス)、安息日、復活祭、ハロウィーンにブッダの生誕日、シャカの生誕日、節分、春分、秋分、みどりの日に憲法記念日、天皇誕生日、etc. etc…なんでもござれの鏡音家イベントのなかでも1、2をあらそう一大イベント!
「明日で14歳かぁ。」
「そう、14歳。」
リンはごく真剣な顔でうなずく。瞳のギラギラがマジメ感を見事に台無しにしているけどね。
「リンは重要だと思うの、誕生日。」
何を言い出すか。大体解るのでおとなしく首肯。
「重要だね、誕生日。」
「でしょ!?なんといっても14歳だからね。」
14歳自体に特別重要な意味を見出せはしないけどね。
「ということで、」
リンは得意げな顔で指を一本突き立てる。
「お誕生日パーティーよ!」
おー、パチパチパチ・・・・・・なんていう歓声に次ぐ拍手喝采が、リンには聞えているに違いない。流石に14回目の誕生日だ。リンが考えそうなことくらい想像がつく。
「じゃあまずは、ケーキ。用意しないとね。今日学校帰りに買ってくるわ。どんなの食べたい?」
「お誕生日のケーキと問われて、よく『イチゴのショートケーキ!』なんて答える子がいるじゃない。」
よく、いるか?
「定番じゃない?」
「だめよ、定番じゃあ。邪道だわ、定番。」
邪道ッスか。全国のショートケーキ好きを敵にまわしたな。
「お誕生日のケーキはもっとこう・・・・・・そう、夢が詰まっているべきだと思うのよねっ」
「・・・・・・ユメっていうと?」
「そうね。たとえば、ケーキにロウソクを立てるじゃない?で、ハッピーバースデーの歌を歌いながらそれを一気に吹き消すと、」
「その瞬間爆発するのっ!」
「却下」
リンは頬を膨らせて抗議する。
「ユメってか、なにその危ないギミック。」
「えー、だってぇ、ロウソク吹き消した後電気つけるまでの間って、なかなかイタくない?」
「パーンゆって破裂するなんてクラッカーで十分。ケーキにオーバーワークさせちゃいけません。」
「ブー・・・・・・」
「あとは、プレゼント?」
「レン、まだプレゼント用意してないんでしょ?さっきまで誕生日って忘れてたもんね。」
半眼のリンによる反撃。うぅ、その通りだとも。
「今日用意するさ。リン、何か欲しいものある?」
「えー。それをリンに聞くの?さーいてーい。」
~~~っ!
「あ~わかったよ、自分で考えますとも!」
「よろしいっ!期待してるぞ、レーン。」
とそこで時計確認。現在時刻は朝7時半、登校時刻。
今日はなんだか忙しい一日になりそうだ。
運命の日前日(イブ)、幸福な日常最後の日。俺の頭の中は、そんなくだらないことでいっぱいだった。くだらなくても真剣で、どんなケーキにしようだとか、どんなプレゼントで驚かそうだとか。
だからってワケじゃないけど、
「レン・・・・・・」
病室を後にする俺は、その呟きを聞き逃してしまったんだ。
「レン、いかないで・・・・・・」
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