「それじゃあ、これから誰かが死ぬまでお世話になります。よろしくお願いします」
にこにこと笑顔を壊さず、少年は言った。きれいな敬語の裏に隠れた露骨に残酷な言葉が、その場の空気を鋭く凍りつかせてしまった。お辞儀の仕方も滑らかで、慣れた風である。
顔を上げると、少年は早速、とノートを開いた。
「それじゃあ、リン、この中から死の擦り付け合いをする人を選んでください」
リビングの中を見渡し、リンは困ったように首をかしげた。いまだに状況を理解し切れていないリンは、少年が何を言っているのか、わかっていないらしかった。
「…じゃあ、俺がやろうか」
手を上げたのは、孤児院で唯一の男手、ミクオである。
「ミクオ!」
ルカが苛立ったように声を上げた。
「なんなんです、ふざけないで下さい。私たちは子供の遊びに関わっている暇はないんです。さあ、帰ってください」
「そんな、殺生な!ここで帰ったら、僕、間違いなく辞令出ちゃいますよ!」
そう訴えかける瞳は、死神らしくないきらきらときれいな瞳だった。
「お願いします、ここで誰かが死ぬんです、それを確認しないといけないんですよ!」
瞳にうっすらと涙を浮かべて、少年は言った。
そこまでされると、なんだか自分がとても悪い事をしているような気がしてきて、妙な罪悪感に襲われる。
「いいじゃない、ルカ。いたずらなら何も怒らないし、いたずらじゃなければその子の言うことは本当なんでしょ。分かりやすくていいわ」
さっぱりとした性格のメイコは、少し面白がりながらそういった。しかし、ルカのほうはまだ納得はしていないようだ。
「ですが――」
「ほら、ミクオともう一人。誰にする?」
「出来るだけ年や背格好が同じくらいだといいんですが…。いませんね」
「見た目に一番あいそうなのは、そこの死神君くらいね」
皮肉をこめ、ルカが言った。すると、少年は待っていましたというように微笑み、ノートにリンとミクオ、自分の名前を書き記した。
「じゃあ、この三人で。…そうだ、自己紹介がすんでいませんでしたね。僕のことは気軽に、レン、と呼んでください。何かあればお力になりますから」
「そう出来るなら面倒ごとに巻き込まないでいただきたいですわ」
また皮肉。どうやらこのルカと言う女性は、よっぽどの皮肉屋らしい。
「今、ここに名前を書いた三人は現在から【契約者】と呼ばれます。契約者間で、【死の譲渡】が行われ、最終的に誰かが死ぬまでそれは続きます。いつ終わるかは、分かりませんから、思う存分死の擦り付け合いをしてください」
「なんだかあやふやなところが多いね」
「死神はまだ欠点が多いんです。僕は新米ですし、死神が契約者になるなんて、例外中の例外ですから」
そりゃあそうだ。
死神が死ぬ側に回るなんてこと、そうあっていいはずがない。
あきれたようにため息をつき、ルカは席をたって自分の部屋に戻っていった。
死神に似つかわしくない可愛らしい容姿と金髪と青眼、物腰の柔らかさを持ったレンは、普通に見ればただの、『いいトコのボンボン』としか思えなかった。
「じゃあ、死の篠譲渡方法を、お教えしますね」
すると、ミクオが答える。
「俺はいい。リンに死を擦り付けるなんて、出来ないからな」
「クオ兄…」
言って、ミクオは手をひらひらと振ってその場を後にした。着替えを持って、風呂へと向かっているようだった。
「じゃあ、私も晩ご飯の準備しようかしら」
少し気まずくなった空気に耐え切れないというように、メイコが席を立ち、キッチンのほうへ、そそくさと逃げていってしまった。
取り残されたのは、リンとレンである。
「――じゃあ、死の譲渡方法は、いいですかね」
「…あの、レン、ちょっと…」
コメント0
関連動画0
オススメ作品
Ray of Miku
やり直したいと願って 彷徨うキミが咲く
痛む疵を庇っては 降り注ぐ
手探りで奇跡を型取る 思索から
咽び泣きを聴いていた
濁っていた 空却って眩しく
さて こうなると分かっていたの?
変わらないこの想い 涙で花が咲く
不可能な事が 血潮揺らしていた
停滞を撃てと 唯一 その声...Ray of Miku
飛弥タ息
ミ「ふわぁぁ(あくび)。グミちゃ〜ん、おはよぉ……。あれ?グミちゃん?おーいグミちゃん?どこ行ったん……ん?置き手紙?と家の鍵?」
ミクちゃんへ
用事があるから先にミクちゃんの家に行ってます。朝ごはんもこっちで用意してるから、起きたらこっちにきてね。
GUMIより
ミ「用事?ってなんだろ。起こしてく...記憶の歌姫のページ(16歳×16th当日)
漆黒の王子
小説版 South North Story
プロローグ
それは、表現しがたい感覚だった。
あの時、重く、そして深海よりも凍りついた金属が首筋に触れた記憶を最後に、僕はその記憶を失った。だが、暫くの後に、天空から魂の片割れの姿を見つめている自身の姿に気が付いたのである。彼女は信頼すべき魔術師と共に...小説版 South North Story ①
レイジ
鷹が茄子をつかんで富士山に向かって
頂上の真上 火口に茄子
ありがとね
茄子を受け取った富士山は礼
もぐもぐ食べる富士山
うまかった ん?
富士山がおかしい 小刻みに震えている
長いこと出してなかった 我慢できん
爆発音響き 噴煙吹き上がる 噴石飛び出し
噴石と共に どら焼き飛散...縁起がいいはずの歌(Side R)
yjogw
何を言ったというの
言葉一つにできない心
何を考えてたの
誰も知らないあの歌のこと
誰の声
ずっと前
一ミリでもいい
背伸びしてよ
目を瞑ってきこえた歌は
ララバイ ララバイ ラララララ...[歌詞]目を瞑って
ひっせん
運命に逆らえなくてもー
革命を変えてみせる
たとえ たとえ たとえ たとえ
挫けても頑張るよー
涙が- 溢れて
僕は走り出したよ
君が追いかけて
どうしたの
星の流れを逆らえずに
現実逃避をしてしまう日...未完成革命 ft 初音ミク 鏡音リン・レン 巡音ルカ MEIKO KAITO
しのえ
クリップボードにコピーしました
ご意見・ご感想