あれからしばらくして、ルカとキヨは学校に来なくなった。
レンの電話が原因なのか、それとも別の理由なのか、いくら考えても出てくるのは不安だけ。
直接本人に聞けば解決するのだろうが、それが出来たら苦労は無い。
聞いたら、全てが終わってしまう気がしたし。
こうして悩みつづけ、月日が過ぎる。
あれ以来リン・レンとは気まずくて話をしていない。席替えで遠くになったというのもあるが。
そんな時だった。教室の扉が開き、担任が入ってくる。
いつもの光景だったが、今日はいつもと違う。
担任の後ろから見知った男性がついて来た。
「キヨ・・・」
つい声に出してしまったが、教室内はしばらく姿の無かったキヨの登場にざわついていた為目立たなかった。
レンは厳しい形相でキヨを睨み付ける。リンは俯いている。
私には最大級の不安が襲っていた。
それは担任が放った一言で確実なものになった。
「一身上の都合で氷山が今月いっぱいで中退する事になった。」
一身上の都合・・・何となく予想がつく。
やっぱりルカと何かあったんだ。
でも確認する勇気は私には無かった。
その日の放課後。周りのざわめきは止まらない。
キヨは友達は少ない方だから余計に気味悪がられてるのだろう。それを思わせる陰口が聞こえる。
私はそれが耐えられず、荷物を整理しているキヨを連れ出して帰ろうと近付いた。
けど、そんな私より早く近付く人がいた。
「キヨテル。話がある。」
怒りの表情を浮かべたレンがいた。
リンはレンの後ろで黙って俯いたままだ。
「ミク、お前も来いよ。」
絶対一波乱起こるから私が止めなきゃと思ったのと、真実がわかるかもしれないという思いで即答した。
私達4人は一言も交わさずレンを筆頭に人気のない道を歩いていた。
日も暮れ始めた時のこういう道は恐怖を感じる。
しばらく歩き、着いた所は廃工場だった。
立ち入り禁止の看板を無視してレンは入っていく。それに続くキヨ。
私も意を決して続こうとしたらリンに裾を引っ張られた。それでも俯いたまま。
「怖い?」
そう尋ねたら黙って首を横に振る。
「・・・ごめんね。止められなかった。私じゃ・・・駄目だったよ・・・」
「どうしたの?何があったの?」
「レンが・・・もう耐えられないって・・・」
どうして悪い予感は当たるんだろう。そんな悠長な事を一瞬考えてしまった。
「!?・・・早く止めなきゃ・・・」
全てを言い切る前に廃工場から激しい罵声と物音がした。
私は走った。恐怖とか不安を感じるより先に止めなくちゃと言う気持ちが前へ出てきた。
辿り着いた時、キヨが仰向けに倒れ、その上に跨るようにレンが胸倉を掴んでいた。
キヨは抵抗しなかった。レンは今にも殴りかかりそうな勢いだった。
「気は済んだか?」
「何っ!?」
「まだか・・・気が済むまで殴ればいい。」
「てめえ・・・」
レンは抵抗しないキヨの顔面に一発、また一発と食らわせた。
キヨの顔は次第に腫れていき、口から血が出ている。
「クソっ!てめえ!ミクの気も知らないで・・・」
それを聞いても私は動けなかった。
止めようと思っていた筈なのに、体が言うことをきかない。
「レン!もう止めて!」
レンの背後から、泣きながら、抱き締めるような形でリンが言った。
「お願い・・・こんな事したって・・・ミクちゃんだって傷つくよ。」
「リン・・・」
あんな熱くなっていたレンがリンの一言で急激に冷めていった。
「キヨ君。ごめんなさい。ミクちゃんもごめんね。・・・先帰るね。」
リンはすっかり放心状態になったレンを連れて帰っていった。
私の体はようやく動いてくれた。呼びかけても返事は無い。
息はしているから、とりあえず持っていた水で傷口を洗う。晴れている箇所に濡らしたタオルを置く。
兎に角目覚めるまでそばにいよう。というよりはいたかったという方が正しいかな。
こんな時に不謹慎だけど、こんな近くでキヨの温もりを感じたことはない。正直幸せだった。
「・・・うっ」
「キヨ?」
そうこうしているうちにキヨが目を覚ました。
「ミ・・・ク?・・・つっ・・・」
「今は無理に喋らないで良いよ。」
そう言って私なりの応急処置を済ませていく。「とりあえず私ん家・・・来る?」
というのも、いつの間にか日はすっかり暮れていて、辺りは暗闇が広がっていた。
私達の住んでいる所は近くに病院は無い。
歩いて行けない距離ではないが、こんな怪我をしているキヨを余り歩かせたくなかった。
まあ、何より一緒にいたいと思う私は最悪何だろうな・・・
私の問い掛けにキヨは黙って頷いた。
私の肩にキヨの腕を回し、ゆっくり家に向かった。
数分後、家に着いて救急箱を取り出し、出来る限り治療をする。
「ありがとな。ミク」
今まで一言も発さなかったキヨが言った。
「放っておける訳無いでしょ?」
・・・
再び訪れる沈黙。
レンは私の為にあんな事をした。でも・・・
「やりすぎだよ・・・でもあれは私のせいなんだよね・・・私が悪いんだよね・・・私が・・・」
「ミク、もう止めろ」
「ごめんね・・・私のせいで・・・ホントに・・・私・・・」
最近泣きすぎ。そんなことを思いながらも涙が止まらない。すると急に温もりを感じる。
「・・・キヨ?」
キヨが黙って私を抱き締めてる。今まで抱えていた悲しみ、苦しみなんかが叫びになって一気に吹き出した。
「うぁぁぁぁ・・・!!」
「落ち着いた?」
「・・・うん」
しばらく泣き叫び、落ち着きを取り戻した。
「レンが言ってた事、どういう意味?」
「キヨ・・・」
「「ミクの気持ちも知らないで」って・・・」
「・・・これが答えだよ」
キヨの顔に近付き、唇を重ねる。そして抱き付く。
顔は見ていないが、間違いなく硬直してるだろう。そんなキヨに私は追い討ちをかける。
「怪我が響かないなら、・・・私を抱いて・・・」
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