思えば今まで予想外のことが起こりすぎた。
施設に侵入するなり倉庫連が爆破され、倉庫連から技術研究連に逃げ込んだと思えば正体不明の味方、シックスに遭遇し、成り行きのまま敵部隊と死闘を繰り広げた。
ようやく地下一階にたどり着き、人質が捕らわれている電子演算室に向かおうとすれば失神した兵士達が累々と倒れ、俺を迎えたのは目標である人質ではなく電撃を纏った謎のアンドロイドFA-1こと雑音ミク。
またもや命を賭けた戦いを繰り広げ、突然乱入したシックスの部下によって戦闘は終了。そして意味の分からないままヒデオカメラ誘導の対戦車ミサイル、ニキータを手渡された。
やむを得ず、地下一階にいるもう一人の人質、鈴木流史の元へ黴臭いダクトを潜り抜けやっとの思いで接触すれば、彼はテロリストに協力していたどころか日本軍を乗っ取ってしまうプログラムを開発し首謀者に送信。その直後意味不明な言葉を残して、発作的に死亡した・・・・・・。
紛れもなく普通じゃない。
今までに起こったことは、俺の予想をことごとく裏切ってくれた。
普通に潜入し、普通に敵の目を欺き、普通に人質を救出・・・・・・する筈だったのだ。
予期せぬ出来事が起こる。これが実戦というものなのだろうか。
VR訓練でも、突然新たな指令を与えられることはあったが、それとは度合いが違う。一体ここで何が起こっていると言うんだ。
混乱する俺を唯一慰めてくれたのは、あのワラの笑顔だけだった。
とにかく、今は少佐へ現状を伝えるべきだ。
「少佐。聞こえるか。」
『デル。何があった!君と一緒にいた人質から、ヴァイタルサインが途絶えたぞ!まさか・・・・・・。』
「ああ。たった今、死んだ。」
『まさか・・・・・・独断で殺したのか?!』
「違う!!」
少佐の言葉は余りにも単刀直入で、一気に怒りが頂点へと達した俺は無線に向け怒鳴り散らした。
「いや・・・・・・俺は・・・・・・。」
『デル・・・・・・すまない。でも、どうして死んだんだ?』
「事情を聞いたのち、突然胸を押さえ込んで、死んだ。まるで心臓発作のようだった。少佐、この鈴木流史が何か持病か、心臓に疾患を持っていると言う情報は?」
『いや、彼のプロフィールを調べてみたが、ここ数年特に病気にもなっていない健康体だったようだ。』
「・・・・・・怪死か。」
『今はそう判断するしかない。』
「少佐、それともう一つ、重大なことを伝えなければならない。」
『何だ?』
俺は、一呼吸おいた。
「テロリストは・・・・・・どうやら軍を乗っ取るつもりらしい。」
『何だと?!』
驚きの余り、少佐が大声を上げた。
当然の反応だろう。
「この人質は捕らえられて早々テロリスト側に味方していた。やつらはクリプトンで開発中だった軍のあらゆる武器兵器類の作動を制御管理するシステムを奪取し、この男に完成させた。」
『それで、どうなった?』
「この男、やつらの首謀者にこのプログラムを送信したようだ。」
『なんだって・・・・・・でも、彼らにそんなものを扱える設備があるのか?』
「そうでなければ、こんなものに手出しはしないだろう。どちらにしろ、大変なことになった。」
『もしやクリプトンが言っていた例の極秘プログラムのことかもしれないな・・・・・・今一度調査してみよう。』
「間違っても悪い知らせは聞きたくないがな。」
『・・・・・・覚悟しておいてくれ。』
その少佐の言葉にも、一種の覚悟が感じ取れた。
最悪の場合、それは軍が機能しなくなると言うことを意味する。
「ところで少佐、話は変わるが、今シックスのもう一人の部下と遭遇した。」
一瞬、ワラの顔が脳裏に蘇る。
彼女の行動一つ一つは、やけに印象的だった・・・・・・。
「どういう訳か俺に課顔を明かした。俺と同じく、アンドロイドだった。」
『アンドロイド?ふむ、そうか・・・・・・それがどうかしたか?』
少佐は特に興味を示さない。
本当に軍で人間型アンドロイドが廃止になったことを知らないのだろうか?
それとも、知らない振りをしているか、だ。
「人間の少女と同じ容姿で、赤く長い髪をしていた。」
『何ですって?!』
突然彼女の驚いた声が響いた。
やはり、心当たりが・・・・・・。
「どうしたヤミ。何か心当たりがあるのか。」
『長くて、赤い髪で、どんな感じだった?』
そんなに赤い髪の
「どうって・・・・・・どんな?」
『見た感じだよ!』
ヤミは更に強く問いかける。
「少々会話してみたが、普通の少女と言う感じで、俺に名前まで名乗ってくれた。」
『その・・・・・・名前は?』
ヤミの声はほぼ震えていた。
「ワラ、と言っていた。」
『ッ・・・・・・。』
無線の向こう側で、ヤミの声が引きつった。彼女は絶句していた。
『どうして、あなたがその名前を知っているの・・・・・・?』
「だから、彼女が直接名乗ったと言っているだろう。」
『ヤミ、大丈夫か。』
少佐の、ヤミを気遣う声が聞こえた。
だが、彼女が何故こんな反応を示した理由を知っているはずだ。
「その名がどうかしたか。」
『かつて、ぼくが空軍にいた頃に破壊されたはずだよ。一緒の部隊にいたんだ。はっきり覚えてる。』
「ああ。彼女も、一度死んだが生き返させらせたといっていた。」
『それ・・・・・・本当の話?』
「ああ。」
『・・・・・・ありがとう・・・・・!』
「?」
『ううん・・・・・・なんでもない。』
彼女は、その名を聞いて何を思い出したのだろうか。
古き仲だったのか、はたまた戦友か。
彼女の声には、友の生存を喜び、再会を期待する希望が込められていた気がした。
またワラに再会したら、二人を無線で繋いでやろう。
俺がお人よしなのか、単なる気まぐれなのか、そんなことを考えた。
『ヤミ。もうその辺でいいだろう・・・・・デル。こうなってはもう残された人質を探すしかない。網走博貴と、地下二階で囚われている春日了司と接触するんだ。』
「了解。」
『まだ地下一階に反応がある・・・・・・変だな。人質の網走博貴と思われる反応と、それに寄り添うようにもう一つ反応がある。もしかしたら生存者の一人かもしれない。そちらのレーダーに表示してあると思うから、すぐに追いかけてくれ。』
「了解した・・・・・・。」
俺は納得した思いで無線を終えた。
どうにか、可能な限りの予定は修正されたらしい。
これから指示を受けたとおりに網走博貴ともう一人の生存者、そして地下二階にいるこの施設の所長、春日了司を救出すれば俺の任務は終わる。
この不可解が連続した一日に、終止符を打つことができる。
そうでありたいと俺は願う。だが、そんなことはないだろう。
まだ未知の存在が、俺を待ち受けているに違いない。
FA-1、首謀者達、赤い髪のアンドロイド、極秘データ・・・・・・。
それと、鈴木流史が最期に残した言葉が、俺自身にも、未知なる何かが隠されているということを暗示していた。
相続者。
あの言葉の意味は一体・・・・・・。
いや、疑問はというものは、全てが終わった後におのずと理解できているものなのだ。
任務を終えれば全てが理解できるはず。
そうだ。任務を遂行しよう。
それが俺の、存在意義なのだから。
彼は鈴木流史の遺体をふと見やり、灯りのない小部屋を煌々と照らしていたPCの電源を切った。
光のない雑庫をフラッシュライトで照らしながら、俺はまた、あの黴臭いダクトの中へと潜り込んでいった。
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ご意見・ご感想
+KK
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こんばんは、FOX2様。+KKです。
今更になってしまって・・・もう、なんと言いますか、申し訳ありません。スライディング土下座させてくださいorz
本当にこの話のキャラクターはかっこいいですよね。自分ではこうはいきません。
まぁまずこんなに緻密な設定を書けるわけがないのですが・・・。
専門用語なんか使えず浅い話ばかり書いてるもので、こういう話を見るととても刺激されます。
毎回FOX2様の小説を読みますと、自分も亜種書いてみたいなと思います・・・思うだけはタダですよね(笑
かっこいいなぁかっこいいなぁと言ってるばかりでは駄目ですね。
ちょっと頭冷やしてかっこいいキャラ書けるように勉強します。
結局自分の意思表示みたくなってしまいましたが・・・これにて。
メッセージは得意じゃないのであまり残せないとは思いますが・・・続きも楽しみにしてます。頑張ってください。
2009/07/03 23:32:50