散々脅されたわりには、2人の説教は厳しくなかった。
黙って出ていって夕方になっても戻らなかったんだから、その事は怒られたけど、俺が無事だった事に対する安堵の方が大きかったらしい。
もっとも、俺にとっては、リンに泣かれてしまった事が、一番辛かったけど。




―Crush―
最終話




次の日。
俺は夜の間にもう1度よく考えて、今日は誰かに訊きに行くのはやめた。
片想いが何か…まだ曖昧な部分は残っているけれど、無理に定義する事もないだろうと思ったから。
何より、俺なりの答えってやつを、見つけられた気がする。


「何を考えてるの?」


ふと声をかけられた。
振り返ると、思った通り、リンが不思議そうに覗き込んできていた。


「解ってるくせに。さっき"共鳴"しただろ」

「あ、やっぱりバレた?」

「バレないわけないよ、俺と"共鳴"できるのはリンだけなんだから。当たり前だけどさ」


そう言う俺の隣に腰を下ろして、リンは天井を見上げた。


「びっくりしたなぁ…レンも寂しかったなんて。なんでかなって思ってたけど、まさか1人で答えを探しに行くなんて思ってなかった」

「ごめん、勝手な事をして。リンも同じだって、考えもしなかったから」


そう、結局俺たちは今までずっと、お互いに片想いをしていたんだ。
好きだって言葉が嘘に聞こえて、共鳴してみても、疑っているところまで一緒だから、信じる事ができなくて。
付き合ってるんだって自分に言い聞かせながら、心の底では相手の"好き"をほとんど信じきれずに、自分の中だけで勝手に"好き"を燃え上がらせていた。


「こんなところまで一緒だなんて、なんか可笑しいね。気が合いすぎるのも考えものかも」

「そうかもな。…でも俺は、昨日1日、色々考えられて良かった」


おかげで、自分の不安の理由が、解ったから。
本当はこれだけじゃないかもしれないけど、これが大きな理由なのは、多分、間違いない。


「ちょっと、何その言い方」

「え?」

「"俺は"って、良かったって思ってるのがレンだけみたいじゃん」


少し口を尖らせてそう言った後に、リンはにぱっと明るく笑う。


「昨日、レンがいなくなってすごく寂しかったけど…1人になって、自分がどれだけレンが好きか、よく解ったから」

「リン…」

「メイ姉もカイ兄も、ミク姉もマスターもみんな、大好きだし、みんなのうちが誰かがいなくなっても寂しいよ。でも、レンが本当にいなくなったらって思うと、もう…何も考えられなくなっちゃったもん」


語調は明るいが、リンはちょっと泣き笑い気味だった。


「でも、でもね。レンがなんで出かけてたのか知って、すっごく嬉しかった。レンも悩んでて、それを何とかしようとしてたんだって…レンの"好き"が嘘じゃないんだって、解ったから」

「…ごめん、もっと早く帰れば良かった。俺、頭の中がぐちゃぐちゃになってて、自分が納得したくて、必死になってたから…自分勝手、だった」


リンと一緒にいる幸せのために訊いて回ってたって事はつまり、最初からリンが好きだって事は解りきってたのに、その気持ちまで疑って。
俺は足元に向けていた視線をぐいと上げて、リンを見据えた。


「あれだけ訊いて回って、みんなに心配かけて…こんなに簡単な事だったのに」

「それ自体は簡単な事でも、見つけにくかったんだから仕方ないよ。レンってすぐ難しく考えすぎるんだから」


苦笑して、リンは俺に飛び付いた。


「でも私は、そんなレンが好き!大好き!」


前までは無意識に疑っていた明るい声は、今度は素直にすとんと飲み込めた。
これが本当なんだって、そう言える自信が、今の俺たちにはある。


「俺も、リンが好きだよ」


少し照れくさいけど、そう言ってやったら、リンは目を丸くして、すぐにけらけら笑いだした。


「なっ、何だよ!」

「だって、レ、レンが、デレ…あっははは、おかしー!」

「笑うなぁっ!」


うわー…多分今、俺、すっごく赤くなってる。
腹を抱えて笑い転げるリンを、ちょっと睨んでやったけど、全然迫力ないんだろうな。
だって、怒ってるわけじゃないし。


『これからも、ずっと一緒だからね!』


不意に起きた共鳴に、俺たちは思わず、笑みを浮かべた。



fin.

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

【レンリン注意】―Crush― 最終話

最終話です。

最初から最後まで、考え続けた話でした。
ちゃんと答えになってるかな…。
絶対にこれが正しい答えだってわけではないだろうとは思ってますが…やっぱり難しいですね。
いつも以上に考えながら書くのは大変でしたけど、その分たくさん考える事ができて、今はすっきりしてます。
何年もたったら、私の考え方も変わっているかもしれませんが、その時、また今回みたいに、自分なりにいっぱい考えながら文を書いてみたいです。

今回は本編には登場していただけませんでしたが、ゲストキャラのブライト君と東雲晶さん、それにキャラの使用を快諾して下さったフォルトゥーナさんとつんばるさんに、改めて感謝いたします。
2人がいなければ、ここまでレン君を動かせませんでした。

フォルた…すみません、フォルトゥーナさんには、何度も懲りずにブライト君をいじくり回してしまって、すみません。
…でも、すごく楽しかったです(殴

つんばるさんとは『恋するアプリ』と『Crush』でぷちコラボをさせていただけて(と勝手に思っているので、だれか突っ込んで下さい)、楽しかったです!
またこういう機会があればいいなと思っております(調子に乗るな

お2人とも、ありがとうございました!


そして読者の皆様。
ここまで読んで下さってありがとうございます!
前回言った通り、ちょっとの間お休みしてしまいますが、次回もよろしくお願いします!

ブライト君の生みの親、フォルトゥーナさんのページはこちらです。
http://piapro.jp/hisame20

東雲晶さんの生みの親、つんばるさんのページはこちらです。
http://piapro.jp/thmbal



…おや、まだ何かあるようだ。

閲覧数:1,749

投稿日:2009/07/16 17:00:41

文字数:1,801文字

カテゴリ:小説

  • コメント4

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  • 桜宮 小春

    桜宮 小春

    ご意見・ご感想

    皆様、コメントありがとうございます!
    なるべく早く帰ってこれるように頑張ります!
    待ってて下さる方がいて、私は幸せだなぁ…あれ、目から汗が…。


    つんばるさん>
    動かしにくいなんてそんな、動かしてて楽しかったし、色んな事を晶さんに教えてもらえたように思います。
    私の中で鏡音2人は、まだ子供な部分がたくさんあると思うんです。だから、何を言うにも素直なのかな、と。
    でも他の人たちの主張は毎回うんうん唸って考えてました(笑
    おまけも、気に入っていただけたようで、ホッとしています。
    私、性善説が持論なので…晶さんも、本当は…と思ってしまい…きがついたらこんな文になってしまいました(汗
    ぷちコラボ、気のせいじゃなかった!わーい!また機会があったらよろしくお願いします!


    +KKさん>
    リンもレンも、互いの前では背伸びもできないみたいですね。
    私も+KKさんみたいに、悲恋の話もかいてみたいんですが…ハッピーエンド主義が邪魔してなかなかできないです。
    +KKさんの小説にある切なさを、私も表現できたらいいんですけどね。なかなか上手くいきません。尊敬してます!
    癒されて下さったようで、良かったです!どうぞこれからも見守ってあげて下さい^^


    西の風さん>
    片思い、両思い、結局あまり違いはないとおもうんですよ。
    深く考えると難しいですけど、私はそう捉えています。
    これからも2人が一緒に幸せでいられるよう、私も願っています。

    2009/07/17 16:09:27

  • 西の風

    西の風

    ご意見・ご感想

    完結おめでとう御座いますっ。西の風です。
    片想いでもあり両想いでもあるリンとレンが微笑ましいやらうらやましいやら。
    伝わっても言葉って欲しいもの、のような気がします。好きと言いあえるのは良いことです。
    本当にこれからもずっと一緒にいてくれるといいなあと思いました。
    それもまた大切なひとつの恋のカタチ、だと思います。

    しばらくおやすみとのことですが、ひっそりこっそり気長にお待ちしております。
    長文乱文にてお邪魔致しましたっ。

    2009/07/17 00:20:29

  • +KK

    +KK

    ご意見・ご感想

    完結おめでとうございます。+KKです。
    リンとレンが素直に好きだと互いに言い合っているのがとても微笑ましかったです。
    なかなか言えるものではないと思いますし・・・。
    自分のところが悲恋っぽいのが多いので余計にこういう話を読むと癒されるのかもしれません。
    温かい恋でした。これからも見守っていてあげたいなと思います。
    しばらくお休みということで・・・寂しい気もしますが、復帰をお待ちしてます。
    それでは、失礼しました。

    2009/07/16 20:46:31

  • つんばる

    つんばる

    ご意見・ご感想

    完結おめでとうございますー! つんばるです。

    まずは、ウチのアキラを使っていただけてありがとうございました! 誰に似たのか偏屈で動かしにくいこと
    この上ないキャラだったとおもいますが、少しでもお役に立てたならさいわいです!

    最終話、すなおに好きって言い合える双子が可愛いのう可愛いのうとおもって読みました!
    恋なんて、それぞれの解釈があってしかるべきだとおもいます。これだけたくさんのキャラを違和感なく
    動かして、そのなかで主張を語らせるなんてすごいとおもうと同時に、桜宮さんがそれだけ真剣に考えて
    いたんだな、ということがうかがえました。そう思うと自分の作品が浅くて泣けてくるんですけどね!(涙

    おまけも……捏造なんてとんでもない、これが公式になりますから、なにも問題ありません!(ぁ
    ……あれ、私も桜宮さんとぷちコラボしてたと思ってたんですが……きのせい?(笑
    しばらく休載とのことですが、のんびり復帰を待つことにします! ひとまずお疲れ様でした!
    素敵な物語をありがとうございましたー! こちらこそ、また機会があればよろしくお願いします!

    2009/07/16 20:18:02

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