少年は盗みました。
服も、食べ物も、みんな盗みました。
そうしなければ生きていけなかったから、後悔はしていません。
けれど何度も「しんじまえ」という言葉を聞きました。
どうして生きているんだろうかと考えても、答えなんてありません。
人に疎まれて、誰からも必要とされていなくて、それでも自分が生きていることが、どうしようもなく滑稽でした。

「砂漠の向こうの機械帝国に、それは綺麗なロボットがいるらしい」

 その話を聞いたのは、確か古びたバーでした。
もちろん店内にいたわけではなく、店の外でゴミを漁っていたときです。
年配の男と若い女性が二人、下品な色のカクテルをすすりながら話しているのを見ていました。

「歌うロボットなのだそうだ。歌声もそれは美しいらしい」
「それは、一度見てみたいものですわ」
女が作ったように笑ったのが見えました。
「それが、工場の中にしまわれていて、見ることはできないらしいのだ」
「それは残念ですわね…」

 少年はそのロボットに興味を持ちました。
盗もう。
その綺麗なロボットを、盗んでやるのです。
その工場に忍び込んで、そっと連れ出してしまおうと思いました。

生きていても仕方の無い人間だったのです。
どうせなら、大きなことをしたい。
少年はすぐに行動を始めました。市場で食べ物をいくつか袋に入れてきます。
見つかることはありませんでした。
少年には家も無かったし、持っていくものも無かったから、すぐに国をでました。

そして、そのロボットに自分を殺してもらおう。
少年は誰かから殺されることを熱望していたのです。
飢餓で死ぬか、自殺するか、それとも生きるか。その選択肢しか少年にはなかったのです。
だから、生きていました。
人に殺されるには、人に思われなくてはいけなかった。
少年は殺されたかったのです。

少年は祖国をでて、砂漠を歩きました。
砂漠には帝国までの線路が通っていたので、少年はそこを辿りました。

盗もう。
少年の心にはそれしかなかったのです。






砂漠を歩いて渡るなんて、普通ありえないことです。
少年も自分がどうやってここまで来たのか、よく覚えていませんでした。
とにかく、ついたのです。
少年は最後の食料を口に含みました。

とにかく情報が欲しくて、少年はいろいろなところを見てまわりました。
町外れに、ロボット工場があるといいます。
機械帝国にあるロボット工場は1つだけで、だからそこに噂のロボットはいるはずでした。
それを知って、少年はすぐにその工場に忍び込みました。
入るのはそんなに大変なことではなかったように思えます。
全てが機械で管理された工場には人気が無く、スキマを探せばすぐに入れました。
その「スキマ」を探すことは、少年にとって、大したことではなかったのです。

パイプやコードが張り巡らされ、薄気味悪く光るブラウン管が室内を照らしていました。
ベルトコンベアーに少女が乗っていて、少女は運ばれ、壊され、そこでやっと少年はソレがロボットであったことに気づきました。
バラバラにされた少女ロボットの部品は、機械の中に回収されていきます。

(歌?)
そんな気味の悪い場所に似合わない、美しい歌声が聞こえました。
これだ、そのロボットが歌っているんだ。
少年はすぐに声のする方へ向かいました。

檻のような場所に少女がいるのが見え、少年は足を止めました。
醜い。
白い肌に結われることなくだらりと垂れた髪は汚れていて、本来の色を知ることはかないません。
目は美しい翡翠色だったから、もしかしたら髪も同じ色なのかもしれませんでした。
背中からは、何本もコードが垂れています。
ただ、歌声は美しかった。

「ねえ、誰かいるの」
ロボットが歌うのを止めました。少年は歌に聞き入っていましたが、はっと我に帰ると、少女に近寄りました。

「アナタはだれ、どうして泣いているの」
少女にそういわれて、少年は初めて自分が泣いていることに気がつきました。
「…さあ、どうしてだろうね」
「ここにいてはいけないわ。早く帰りなさい」
少女は無表情にいいましたが、少年は少女に手を伸ばしました。
「俺は、君を盗みに来たんだ。おいで」

少女は驚いた様子も見せず、ただ首を振りました。
「いけないわ、私はここにいなければならない」
少年は、その言葉にほくそえみました。

「盗まれる側に、選択肢なんてないだろう。さぁ」
少女が笑ったように見えました。
そっと差し出された手を、勢いよく掴む。

檻というよりは、鳥かごのようでした。
鍵はなく、扉は開いていました。
しかし手を掴み、少女を檻から引き出すと、けたたましい音で警報が鳴りました。
少女は今度こそ笑ったようでした。
「ほら、やっぱりダメ」

「勝手に決めるなって」
少年は少女を連れて走り出しました。
「いけない、彼が来る」
「彼?」
少女の言葉を聞き返しましたが、少女が答える前に、目の前にロボットが現れました。

「ほら来た」
金色の髪に、少女に似た翡翠の目の少年でした。
右腕と左足は、機械がむき出しになっていて、爪は鋭くとがっていました。
「愚かな侵入者、わざわざ殺されにくるなんてさ」
そのロボットは少年をあざ笑います。
「別に殺されに来たわけじゃない」
少年はかなわないと分かっていました。すっと右足を一歩下げます。
「盗みに来たんだ」
言うのと同時に、少年は走り出しました。
少年の言葉を聞いて、ロボットは大声で笑いました。
「同じじゃん、バカじゃないの」
ロボットが腕を振るようにすると、そこから大きな刃が飛び出しました。
「俺から逃げられると思ってんの?」

「やめなさい、レン」
ロボットが少年たちを追いかけようとすると、背後から制止の声が聞こえました。
「・・・何故」
「いいのよ、アレはあの子にあげる」
ロボットと同じ、金色の髪をした少女でした。
彼女の翡翠の目が、それがいたはずの檻を見つめます。
「もう、要らないわ」



「追ってこない…」
少年はある程度はなれたところまで走ると、ロボットが追ってこないことを確かめました。
ロボットの少女は、あきれたような顔をしています。
「どうするの」
「どうって…」

少年は思い出しました。
殺して欲しい。そうだ、そのために自分はここまで来た。
けれど、あの涙は何だったのでしょうか。

「なぁ、お前、名前は?」
少年が聞くと少女は首を振りました。
「ないわ、名前なんて」

名の無いロボット。
そういえば、自分にも名前など無かったと少年は思いました。
人に名前を教えることも、呼ばれることも、今までなかったから、必要なかったのです。
名が無いことは、未来が無いことのように思えました。

「じゃあ、お前の名前はミク。意味は、未来」
少女は、ただ無表情でした。
そしてその名を小さくつぶやきました。

このロボットと、生きることもいいかも知れない。
そう思って少年は笑いました。
「あなたの名前は?」
「あぁ…俺もないや、名前」

ミクはそれを聞いて少し考えた風にしてから、笑顔を見せました。
「じゃあ、アナタの名前は―――」
「―――」
彼女のつけてくれた名を、少年は確かめるようにつぶやきました。
「変な名前、でも気に入った」

未来はここから始まります。
死んでいたも同然だった自分の、生きる希望。
少年は笑ったようでした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

【機械と盗賊】

MECHANICAL KINGDOM

読みにくくて意味が分からないね感想くれるとはねます。いまとても跳ねたい気分(ねだりがお

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閲覧数:237

投稿日:2010/08/06 20:41:36

文字数:3,065文字

カテゴリ:小説

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