「…ここを見て、旅人さんはどう思う?」

少女に後ろからいきなり声をかけたのは、端正な顔立ちの紅い髪をした少年だった。
少年は問いを繰り返し、石碑をどこか沈痛な面持ちで見つめた。

「……え、えぇ…哀しい、と感じるわ…。」

「哀しい、か…。
僕も、そう思うよ。
……旅人さん、広場は見た?
あそこ、今は憩いの場所だけれどね…。」

少女は少年に恐怖を感じながら、つたなく答える。
少年はそんな少女の様子を気にかけることもなく、独り言の様に呟いた。

「広場は、さっき…見たわ。」

「ふぅん、そっか。
……ねぇ、旅人さん。
この国の歴史は、いろいろと哀しいんだよ。
ほんと、いろいろとね…。
…じゃ、楽しんで。」

「……………。」

少年は終始哀愁を漂わせながら、意味深な言葉を残して、始まりと同じように突然終わりを告げた。
少女は少年の小さくなっていく背中を、じっと見つめる。
…きっと、あの同い年くらいの少年は、私が奪った命に取り残された人なんだろう。
この国には、そんな人が大勢居るんだ。

「……………。」

少女はその場に跪くと、しばしの間黙祷を捧げた。
そして、少女も去って行った。

危険を冒してまでこの国に戻ってきた、その目的のために。

「…全然、あの頃から変わってないのね…レン。」

少女は街外れの小さな港にいた。
服が濡れるのも構わずに、波打ち際に立つ。
まだ何も知らず、幸せだったあの頃から、この静かな海は変わっていなかった。
よく王宮を抜け出して、レンと二人で来ていた海。
少女にはあまり興味がない場所だったが、レンが珍しく、二人で行きたいって目を輝かせて言う所だったから。

「レンは…何をお願いしていたの…?
いつも、真剣に…。」

少女の目に、あの頃の真剣に祈るレンの姿が浮かぶ。
いつもいつも、自分の願いはレンが全て叶えてくれたから、その内容に興味を向けることもなかった。
レンは、自分の我が侭を叶えるためにどれだけの苦労をしてきたのか。
レンが居なくなってからの数年、何度もどれだけ自分が愚かだったかを思い知らされた。
そして、どれだけレンを困らせていたかも。

「レン…ごめんなさい、ごめん、なさい…。」

決して届くことのない謝罪を、少女は嗚咽混じりの声で繰り返す。
それは夕日が海を照らし、茜色に染まるまで続いた。

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『二人の後悔』2

前バージョンはショートバージョンですが、あともう少し続きます。

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投稿日:2009/11/18 11:46:13

文字数:982文字

カテゴリ:小説

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