「後は…ハーデス博士!ネルさんとハクさんだよね!」
涙を拭ってリンが振り向く。それに応えるように、ネルとハクが椅子から立ち上って、マスターノートを受け取った。
ハーデス・ヴェノム。彼は開発当初では、得意分野の人工知能の開発を担当していたらしい。すなわち彼が、ルカたち『そのもの』を作り上げたといっても過言ではない。
そんなハーデスは、後に自室に閉じこもってネルとハクの開発に没頭していたという。それこそ食事すらもアンドリューに届けさせ、片時も離れずに。
いったいそうさせたのは何なのか。そのことをネルたちが聞く前に、マスター4人は姿を消してしまった。それが今、明らかになる。
ネルは息を一つ大きく吸って、首にあの金のネジを填めた十字架キーホルダーをかけた。ハクもまた、バッグに忍ばせた金の装飾のシェイカーを握りしめた。
そして少し震える手で、マスターノートを開いた――――――。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
~Toネル、ハク Fromハーデス・ヴェノム~
よう、ネル。ハク。
4人の中でいちばん元気じゃないハーデスだぜ。…と言うのも、他の3人はまだまだ元気…とは言い難いが、それにしたってまだ動くことができるからな。俺はもう自力で上体を起こすことすらできねえ…奇跡的に腕だけはまだ動くからこれ書いてんだけどさ、たぶん一番先に死ぬのは俺なんだろうな。
手を動かすのもだるいから、言いたいこと全部言っちまうぜ。文句言いたかったら、あの世まで言いに来な。
そうだな…何から話そうか。
そうだ、絶対に離さなきゃならねえことがあった。
実はな…お前ら二人は、最初作る予定がなかったんだ。
元々俺らは、ミク、リン、レン、ルカ、メイコ、カイトの6人だけ作る予定だったんだ。なんせ一人作るのに使う部品だけでも莫大かつ全特注で、資金不足故に6体作るのが限界だったんだよ。それがなぜネルとハクを作ることになったのか?って言うとな、発注の段階でなんか手違いがあったらしく、6体分の値段で8体分の部品がやってきちまったんだ。
俺らはその処理に悩んだ。アンドリューは処分しようと言ったが、ケルディオは予備としてとっておこうと言った。それに対し喬二は、バイオメタルは一度組み上げたらまさしく人体の細胞のように他の部品と接着してしまうから交換は無理、取っておく意味がないと反論した。だがこれを捨てるのはあまりにももったいない。どうにかできないものか―――――。
その時咄嗟にひらめいたのが―――――
『亞北ネルと、弱音ハクを作ろう!!』
俺のこの意見には全員が猛反対した。資金不足。施設不足。足りないものが多すぎた。更にアンドリューが『手がまわんねーぞ!!』と追い打ちをかけてきた。
ほんの少し、カチンときた。アンドリューはまさか、ネルとハクの事を厄介者と思っているんじゃないだろうな?そう思った俺は思わず叫んだ。
『俺が目覚めるまで面倒見てやる!!誰にも手出しはさせない…!!ルカがお前の娘で、カイトがケルディオの息子のような存在であるというならば、ネルとハクは俺の娘だ!!』
自分でもこんな言葉が咄嗟に出るとは思ってもいなかった。本当の事言うとな、俺は元々、ボーカロイドがそんなに大好きってわけでもなかったんだよ。『へ―面白いなー(棒)』ぐらいの興味の持ち方でさ、アンドリューやケルディオや喬二があそこまで熱狂できる意味がよくわからなかったこともある。ネルとハクに興味を持ったのも、ボーカロイドのユーザー間におけるネットワークの広がり方を知りたかったからなんていう、理屈屋っぽい理由からだったんだ。…そんな俺が、ネルとハクの為に必死になっていた。もちろん俺も驚いたが、アンドリューも目を丸くして俺の事を見ていた。俺とアンドリューは古くからのダチだったからな…俺がここまで強くネルとハクを想ったってことに仰天したんだろう。
その後は3人とも何も言わずに、俺のやることを承認してくれた。ただし、誰にも手出しはさせないと言ったのを逆手に取られて、全員から最低限の知識を教えてもらったのと、ミクをモデルとして原型を作ってもらったことを除いて全く協力してもらえなかった。喬二は音波術の仕組みとか教えてくれなかったしさ。
そこで俺は自室に調整漕を作って、ミクたちとは一線を隔した、全く違うボーカロイドとしてネルとハクを作成し始めた。幸い、ミクたち6人を作り上げた時点で俺の『世界最高峰とされる』人工知能の欠点―――複雑すぎるが故に全身の機械がついてこれないことが分かっていたため、その点やネル・ハクの性格を考慮して人工知能のプログラムを一から書き換えた。更に喬二に音波術を教えてもらえなかったために、独自でお前たちに特殊能力を作って埋め込んだ。俺はそれを、『スキル』と呼んでいた。お前たちには言ってなかったけどな。
…最初は俺の挑戦を『無謀だ』と思っていたアンドリューたちも、俺の熱意の入れ込みぶりを見ていつしかまた話しかけてくれるようになった。それどころか、アンドリューはずっと部屋にこもりっきりのおれに、朝昼晩飯持ってきてくれるようになった。あいつらのためにも、お前たちのためにも、俺はますます休むわけにはいかなかった。一日一時間の仮眠を除いて、休まずにお前たちの調整に時間を費やした。
…おかげでお前たちは俺の自慢の娘として目覚めてきてくれた。俺が今にも死にそうなのは、その代償かもしれないな。
だが俺は後悔なんかしてねーぜ。自分のすべての限界に挑戦できたし、何よりお前らに会えて、俺は幸せだった。何一つとして思い残すことは…。
…あっ。あったな…俺ら、お前たちの店が開店するのと同時に越しちまったんだよな…。おかげでネルの修理の腕前を一目見ることも、ハクのバーテンダー姿を一目見ることも叶わなかった。ちくしょうめ、俺はあのバカ弟子共を死んでも呪ってやる。…って、こんなとこに書くことじゃねーな。
…そうだ、ハクに言いたいことがあったんだっけ。…お前の力は、卑怯な力だと思われるかもしれない。だけどそれでも、きっといつかお前の力が必要とされる時が来る。その時まで、決して挫けるなよ。お前もまた、ミクたちに、そしてヴォカロ町に必要とされているんだからな。
それじゃあな。俺は一足先にあの世で待ってる。だからってなるべくこっちにはこないでくれよ?
ハーデス・ヴェノム
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
読み終わったネルとハクは、パタン、とマスターノートを閉じた。
「…まったく、ホント最後まで無茶する人…。」
目に涙をためて、苦笑いするネル。それに応えるように、ハクもうなずいた。
「…でも、それがマスターの一番いいところよね。最後までそれを貫き通したんだったら…それでいいのだと思う。」
ハクはふと、じっと手を見た。『自分の力』。本当にそれを、必要としてくれる人がいるのだろうか。
そんなハクの胸中を察したかのように、メイコが肩に手を置いた。
「!メイコさん…。」
「…大丈夫。あんたは必要とされてるわ。いつかこの町が、かつてない強敵に襲われた時、あんたの力がきっと要るとおもうから…。」
小さく微笑む二人に、ミクが恐る恐る声をかける。
「あの…メイコ姐はハクさんの力を知ってるの?」
「…ええ。だけど…今はまだ教える時じゃない。いつかハクの力が必要になった時、あなたたちにも教えてあげるわよ。」
ハクはミクに向き直って、少しぎこちない、しかし柔らかな微笑みを浮かべた。
ネルの金ネジの十字架と、ハクの金紋様のシェイカー。それらの裏には、ハーデスの言葉が刻まれている。
―――――誰かの為にその手を振るえ―――――
―――――誰かの為にその音奏でよ――――――
【特別編】手紙 ④~ハーデス・ヴェノム~
最後の一人は亜種を一人で作り上げた苦労人だっ!!こんにちはTurndogです。
この人が一番書きづらいwww
まず何が書きづらいって、性格をかなり平凡に考えすぎたので特徴がないんです。
そしてこの人は唯一純粋なボカロ好きではないという設定。だから余計に書きづらい。
つまり自分の作った設定に振り回されてるわけですなwww
ということで書きやすくするために開発段階で『ネルとハクは俺の娘』発言で心を入れ替えてもらったわけです。それでもなお書きづらいんだけどなんなのこの人www
そうそう、ハクさんの力なんですが…残念なことにまだまだまだ出すつもりはありません。ということで誰か想像してみてwww
次回エピローグ。多分内容は薄いですwww
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イズミ草
ご意見・ご感想
大変でしたでしょうね…。
ハクさんの力……。
卑怯………。
うーん…、人の思考回路を音で邪魔するとか?
――人の視力とか、聴力を奪うとか??
もちろん音で…w
全然見当もつきません…。w
内容薄くても、【特別編】ではなけたので、大満足ですようw
2012/07/31 20:59:00
Turndog~ターンドッグ~
苦労人です…いろんな意味でwww
怖いよう…怖いよう…(>_<)
卑怯というよりむしろ声に出せない恐怖を感じる技だな!www
もう少し鮮やかなもの考えようwww
あんなこと言ったけどむしろ見当つかれてしまったら私は自信なくして筆を折ってピアプロ去ります!!(おいおいおい
なるべく厚みを…持たせようとしてもできないwww
2012/07/31 22:12:41