「巡音さん、お食事をお持ちしました」
 看護士がルカの食事を持ってきた。太陽が西に傾き、星が瞬き始めていた。
「そこにおいていて下さい」
 看護師はそのままルカの指示に従い、食事の乗ったトレーを置いて部屋から出ていった。西に傾く太陽がルカの頬を照らす。ゆっくりと目を閉じると、13年前の悲劇が脳裏によみがえってきた。
「…………お前のせいで」
「やめて……私は悪くない……私は……」

 あの日もちょうど、今日のような天気だった。快晴の空に、庭園に広がるバラの花。5月の陽気に誘われて、外で仲良しだったみんなと一緒に歌を歌っていた。ただそれだけなのに。悲劇は起きてしまった。
 ルカの歌声にセイレーンという精霊の力が宿っていた。かつて、船乗りを惑わせ、海に沈めると恐れられていた精霊だった。その力が、ちょうど近くを飛行していた旅客機をとらえてしまった。飛行機はそのまま墜落してしまい、また、墜落した場所が住宅街と言う悪条件も重なった。多くの人々が犠牲になり、ルカも孤児院の友人をたくさん失ってしまった。

「貴方の声には人を惑わせる力があります。ですから、これからは人前で歌を歌うのはやめていただきます」
 何よりも歌を歌う事が好きだった幼いルカは長い間泣き続けた。
 そして、笑う事を忘れてしまった。
 ルカは新たに引き取られた里親とともに、逃げるように海外へ出国した。
 15歳くらいからようやく力を制御できるようになったが、決して人前で歌を披露することはなかった。
 科学の力で自分の力を押さえることができるのではないだろうか。科学者を志したのも、そのためだった。
「行かなければ……あの子たちをこれ以上、不幸にしてはいけない」
 ルカは痛みをこらえ、服を着かえた。
「待ってなさい。マッド・メモリー。私が、必ず……うっ」
 胸に痛みが走った。だが、ルカはそのまま外に出ていった。
「約束は守るみたいね。ま、報告しておくわ」
 決死の覚悟で戦いに赴くルカの姿を、看護士がどこかにメールで伝えていた。


「それにしても、『マッド・メモリー』とか言う狂音獣、一体どんな奴なのかな」
「今調べてるから、もう少し待ってて」
 ハクはパソコンを操作し、ルカのメロチェンジャーから得られたデータを分析する。
「…………これは……でも、一体……」
「ハク、どうしたの?」
「これは……うそでしょ!?」
「どうしたんだ? ハク」
 ハクはパソコンの画面を凝視した。
「これを見て。あの事故の事……」
「知ってしまわれましたか」
「ひいいいいいい!」
 突然現れた、じいの姿に、ハクは悲鳴を上げた。
 メイコとカイトが画面に顔を寄せる。
「これは、咲音様と雅音様。それに皆様もおそろいなのですね」
「そうですよ」
「ならば、ここですべてをお話ししましょう」
 ハクが席に着くのを見計らって、じいは一度咳払いをした。


「お嬢様はもとは、あの孤児院に引き取られた孤児でした。本当のご両親はわかりません。しかし、幼いころから歌がお好きで……」
 じいは子供に昔話を聞かせるように語り始めた。
「しかし、あの運命の日。お嬢様はセイレーンの力を手にしてしまわれました。運命とは言え、人を惑わす力を手にしてしまったわけでございます。そして、何も知らないお嬢様は孤児院でほかの孤児たちと歌を歌っておりました」
「…………」
「お嬢様は忘れてはおられないでしょう。あの日の昼下がり、突然、旅客機が操縦不能になり、あの孤児院のそばに墜落しました。公には、飛行機の整備ミスと言う事で片づけられましたが……お嬢様の歌声により、パイロットが自らの手で墜落させたのは明らかでした。そこで、我々はお嬢様を引き取り、害が及ばぬよう、絶海の孤島へと……」
「……じゃあ、飛行機が墜落したのはルカ姉の歌声のせいだって言いたいの」
 リンは画面に向かって、興奮気味に言った。その言葉にじいは首を縦に振った。

「嘘だよ……ルカ姉が人殺しだなんて!!」
「リン、力と言うものは、時として本人の意図しない方向に働くこともあるの」
 泣きそうな顔を向けるリンに、メイコはそう語りかけた。
「数年後には、何とか、力のコントロールはできるようになりましたが……お嬢様は歌う事をやめてしまわれました」
「そうだったんですか」
「……だから……あの教会の孤児院に毎週日曜日に行っていたわけだ。贖罪のために……」
「お嬢様は、誰にも知られたくないとおっしゃっておりましたが……敵にこのように利用されるとは」
 じいは無念の表情を浮かべる。その時だった。
「それどころじゃない! ルカが、病院から抜け出してるの! どこに向かっているかわからないけど、港の方に向かってるわ」
「わかった。とにかく、私達はそっちに行くから、GPSで追跡お願いね」
 メイコはハクにそう告げると、ほかの4人に向き直る。4人はメイコの意を感じて頷いた。そして、走り始めた。


「来ました。さあ、姿を見せなさい! シスター・シャドウ」
 頭に包帯を巻いたルカは、鉄扇を手にして誰もいない倉庫の中に入った。
「子供たちは! 無事なんですか!」
 いつでも変身できる体制を整え、前を見据える。
「ここだ。約束通りに来た事はほめてやろう」
 突然、灯りがついた。証明に照らされたシスターシャドウの後ろに、マッド・メモリーとザツオン。そしてとらえられた子供達がいた。

「……何が目的ですか? 子供たちを放しなさい」
「目的……そうね、もう一度、飛行機を墜落させてもらおうかしら。今度は、石油コンビナートの中心に……」
「……そんな事、できません」
「……そう……じゃあ、この子たちを見捨てるのね」
 ザツオンにナイフを突き付けられた少女が、おびえた声を出す。
「助けて、ルカお姉ちゃん!」
「…………」
 歯を食いしばり、シスター・シャドウと対峙するルカ。しかし、何もできない事にルカは鉄扇が折れるくらいに力を込める。

「さあ、ザツオン、子供を始末しろ!」
 その時、銃声が響き、ザツオンが吹き飛ばされる。
「何だ!?」
 シスター・シャドウの両隣に立っていたザツオンの額に矢とナイフ刺さり、そのまま倒れた。
「ルカ姉! 一人で行くなんて水臭いよ」
 リンは両手に銃を握り、ザツオンに銃口を向ける。レンは右手に投擲用のナイフを握り、カイトは二の矢を構えていた。
「どうしてここに!?」
 ルカは5人の姿を見て、驚きの声を上げた。
「リーダーが一人でやられるところを、黙って見るわけにはね」
 ミクは拳をシスター・シャドウに向けて突き出した。
「少し悪いけど、ルカのGPSで追跡させてもらったの」
 メイコはザツオンに向けて剣先を向ける。
「シスター・シャドウ、悪いけど、君の悪だくみはここまでだ」
 カイトがそう言って、二の矢を放つ。
「さ、行くわよ!」「メイコ姉、OK!!」
 5人は横一列に並び、シスター・シャドウに対峙した。
「コード・チェンジ!!」
 5人は変身し、それぞれ武器を持って走り出した。

「ええい! 増えろザツオン」
 シスター・シャドウの声に合わせて、ザツオンが分裂してクローンを作りだした。
「あんた達に用はないのよ!」
 ミクは地面を拳で殴りつける。その衝撃に、ザツオンが吹き飛ばされた。
「ソニックアーム、ブラス・バズーカ」
 リンの手にした銃がトランペットに変化する。
「ソニック・アーム、ブレイブ・ロッド」
 レンはすぐにダガーをドラムスティックに変化させた。
「リン、行くよ」「わかったよ、レン」
 2人の息の合った連携で、ザツオンを排除していく。
「ブラスカノン!」「ブレイブ・スラッシュ!!」
 まず、リンのブラス・カノンでザツオンを吹き飛ばし、レンのブレイブ・スラッシュで一気にシスター・シャドウのいる方向へ切り込んでいく。

「ルカ、さあ、早く!」
 呆然と立ち尽くしていたルカは、メイコに促され我に返った。そして、目の前にいる狂音獣とシスター・シャドウを睨みつけた。
「人の記憶をもてあそんで、私を苦しめた……貴方は絶対に許さない!」
 力強く左腕を突き出し、メロチェンジャーがシスター・シャドウに見えるように腕をひきつけた。
「コード・チェンジ!!」
 ルカの体がピンク色の光に包まれた。そして、光が消えると、ルカはカナデピンクに変身した。
「……一気に勝負を決めます」
「それはどうかな」
 シスター・シャドウが近くにいた幼い女の子に剣を突き付けた。ルカに向けて薄ら笑いを向けると、
「この子がどうなるか、楽しみだな」
「くっ」
 弓を引いていたカイトはすぐに動きを止めた。
「さあ、カナデピンク、どうするかな」
「お姉ちゃん、助けて!」
 ルカは静かに竪琴を鳴らす。やがて、その音が倉庫の中に響き渡り、旋律となって響き渡る。しばらくすると、ザツオンがふらふらとシスター・シャドウに近づいていった。
「な、何だ!?」
 そのザツオンは突然、シスター・シャドウが持っている剣を取ろうとした。
「な、何をする!」
「今です、メイコ!」
 ザツオンとシスター・シャドウが争っている間に、メイコは人質にされていた少女を救出した。

「私の力を、忘れましたか? シスター・シャドウ」
「くそっ、セイレーン・ヴォイスか」
 その直後、ルカは倒れ、変身が解除された。
「ルカ!」
「メイコ……子供たちは」
「大丈夫よ。みんな助けたわ」
「よかった……」
 そう言って、ルカは意識を失った。
「覚えていろ! カナデンジャーめ」
 シスター・シャドウは光の中に入り、マッド・メモリーとともに消えていった。
「……私達も撤退しましょう。マッド・メモリーを取り逃がしたのは残念だけど、ルカがこの状態じゃ……」
 ルカは意識を失ったように動かない。
「ルカ姉、大丈夫かな」
 レンは倒れたルカを心配そうに見つめる。
「あのマッド・メモリー、このままで終わるとは思えない」
 カイトは少し心配そうな顔を向けた。
 マッド・メモリーの存在にいくばくかの懸念を抱えつつ、カナデンジャーは次なる戦いに備えるのであった。
                                           つづく

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

光響戦隊カナデンジャー song-11 日曜日の秘密 Bパート

カナデンジャー第11話の続きです。
これでコラボに追い付きました。この先は完全新作になります。

閲覧数:73

投稿日:2013/06/24 21:48:27

文字数:4,221文字

カテゴリ:小説

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