彼女なんかより…―――。
「リンさん。このCD、すごく良かった。貸してくれてありがと」
「鏡音くん」
「よかったら、また別のも貸してくれる?」
CDを渡しながら、私――鏡音リンに鏡音レンは言った。
「どういたしまして。CDなら、いくらでも貸すよ」
私は彼にそう答えた。
「その代わり、前借りた本の続き、借りてもいい?」
続けてそう言うと、「わかった」と彼は頷いた。
今は放課後、私たちの通う高校では部活動、委員会、ボランティアなどの活動にいそしむ時間。でも、鏡音くんも私も帰宅部だから、家に帰るだけ。
「レン」
高くて、綺麗な声が私の後ろ―――教室のドアのところから聞こえた。同じ学年、隣のクラスの初音ミク。彼女は学校一の人気もので、そして、彼の恋人。
帰ろう。彼女はそれを言いに来たのだと思う。
「すぐ行く。じゃあね、リンさん。本は明日渡すよ」
鏡音くんはそう言うなり鞄を持って初音さんのところへ行った。初音さんはちらりと私を見て、何も言わずにすぐに背を向けた。
しばらくして、そっと教室から出る。二人の姿が見えた。手を、繋いでいた。
どうして……。
翌日の昼休み、私はとっくにお弁当を食べ終え、何もする気になれずぼうっとしていた。
「リン、どうしたの? ぼーっとして」
聞き慣れた声が正面からした。友達の、神威グミだ。
「もしかして、鏡音? まだ……諦めてないの?」
怪訝そうに、グミは言った。彼女が言っているのは、私が鏡音くんを好きだということ。グミだけに打ち明けたもの。
彼には初音さんがいる。元から駄目だとわかっていたし、諦めなければいけないのだけれど。
「リンさん」
噂をすれば影、とでもいうように鏡音くんの声が聞こえた。
「昨日言ってた本。栞挟んであるけど、それ使っていいから」
そう言って彼は少し厚めの本を私に差し出した。私は受け取って、ありがとうと言った。
「……初音さんとは、こうしているの?」
「ん? ミクとは……あんまり趣味とか合わなくて。じゃ、俺行くから」
苦笑いして、そのまま彼は去って行った。向かう先には、初音さんがいた。
「やっぱり、趣味あってないんだぁ……」
グミがぼそっと呟いた。少し、不満そうな表情をしている。頬杖をついて、私に言った。
「ねえ、アタシ思うんだけどさ。初音より、リンの方が鏡音とお似合いかもよ?」
グミは、やけに真剣そうな顔で言った。
「……わからないよ。私とは趣味が合うだけだもの、普通でしょ?」
グミがそう言ってくれるのは嬉しい。だけど、それだけで付き合うとかが決まる若ではないのだから、そうとは決めつけられないと思う。ありがとう、と私はグミにお礼を言った。
どんなに頑張っても、好きになんてなってもらえないんだろうな。って思う。だって、私と初音さん、全く逆だもの。くりくりの大きな瞳に、綺麗に手入れされた髪の毛。私はあんまり枝毛も気にしてないし(駄目だけど)、特にお洒落に気を使っているわけでもない。
……だけど、私は彼女よりも鏡音くんを理解できてると思う。きっと、好きな音楽のことも、本のことも、初音さんとは話して無いだろうし。
「本当に、初音さんのこと好きなのかな。鏡音くん」
私は小さく呟いた。
「私の方が―――」
私の方が、ずっと彼には相応しいのに。
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