こんにちは!前嶋拳人です。
誰もいない部屋の隅っこで古い時計の針が錆びついた音を立てている。窓の外では冷たい雨がアスファルトを叩き続け、世界からすべての色が剥ぎ取られていくような静けさが満ちていた。私たちが普段口にする言葉はどこへ消えてしまうのだろう。消え去った声の残骸は目に見えない塵となって部屋の隅に積もり、やがて誰も触れることのできない冷たい彫刻へと姿を変えていく。そんな奇妙な光景をぼんやりと眺めながら私はただ時間をやり過ごしていた。
壊れたオルゴールから漏れ出す音程の狂ったメロディはまるで記憶の底から這い上がる細い指のようだった。触れるものすべてをガラスのように鋭く凍らせてしまうその冷たさに怯えながらもなぜか私たちはその音色から耳を離すことができない。それは誰も知らない遠い場所への片道切符であり決して引き返すことのできない旅の始まりを告げる合図なのだ。傷ついた翼を無理やり広げて空へ飛び立つ鳥の群れのように私たちもまた取り返しのつかない過去の影に背中を押されながら今日という日を歩いている。
正しさという名の鋭い刃物はときに私たちの柔らかい皮膚を簡単に切り裂いてしまう。傷口から流れ落ちる赤い雫は地面を濡らし誰もいない森の奥深くで小さな水たまりを作るだろう。そこに映る歪んだ自分の顔を見つめていると自分が本当に人間なのかそれとも誰かに操られているだけの精巧な人形なのか分からなくなる瞬間がある。感情という厄介な荷物を背負い込んだまま私たちはどこへ向かって歩いているのだろうか。答えのない問いだけが冷たい空気の中を漂い続けている。
終わりのない迷路をただひたすらに彷徨い歩く足音が耳の奥でずっと反響している。どこかに出口があると信じたい気持ちとこのまま永遠に薄暗い廊下に閉じ込められていたいという甘い誘惑が胸の中で静かにせめぎ合っている。光の届かない深い海の底で静かに眠る古い沈没船のように私たちの思い出もまた誰にも気づかれることなくゆっくりと砂に埋もれていくのだ。それでもかすかに震える指先で私たちはまだ見ぬ誰かに向けた小さな手紙を書き続けている。
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