めぐっぽいどが帰った後、僕は何を話す気にもなれなくて、
「失礼します」
そう言って、自分の部屋に戻ろうとした。
「ちょっと待ってよ、カイト」
「・・・何ですか? マスター」
何で僕を呼び止めるんだろう。僕は心から思った。
「カイト・・・」
言葉が見つけられないのか、悔しそうに開きかけた口を閉じる。
「・・・失礼します」
しばらくして、僕はマスターに言って背を向けた。
「・・・・・・しばらく会わない内に、変わったねー」
「・・・マスターの気のせいですよ、きっと」
僕は振り返らずに言う。
「そっか、気のせいか。そうだね、そうかもねー」
「・・・」
「時間は、全てをぼやけさせることもあるから・・・」
「・・・」
今まで聞いたことのない時間論。しかし、僕は立ち去った。
なんかマスターの声を聞いていると・・・辛かった。
なんでか、知らないけど・・・。
「・・・はあ・・・」
私は1人になったリビングで、ため息をつく。
「やっぱり、拗ねてる・・・あれは絶対拗ねてるな」
長い間放置してたもんなぁ、カイト。
つい先日、ずっと一緒だよと言ったものの、やっぱり拗ねたくなるものだろうか。
「めぐっぽいどちゃん、いいと思ったんだけどなぁ・・・」
私は独りごちて、カイトの部屋に行くことにした。
まだまだ、夜は長い。少しくらい、話したっていいでしょ?
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン
「・・・マスター、ノックし過ぎです」
私がドアをしつこく叩くと、カイトが出てきた。
「寝るところだった?」
カイトの黒シャツ姿を見て、私はたずねる。
「そうですね。でも、マスターが僕と一緒に寝たいっていうなら、そっちの方が断然いいんですけど」
「・・・うーん」
どうしよう、前までだったら断るんだけど、・・・どうしよっかな。
「カイトが寝たいって時には、私は出ていくから安心してよ」
「・・・それじゃあ、面白くもないですよ」
「そんなこと言われてもなぁ・・・」
やっぱりこういうペースの方が、普段通りになれる。思った通りだ。
「マスター、寝てくれないんですか?」
甘えた声で聞いてくるカイト。
「あれれ? 1人が寂しいの?」
「・・・そんなこと・・・」
カイト、黙りこくる。
「・・・じゃあ、私眠たいから、おやすみカイトー」
そう言って、私の自室に戻ろうとする。
「・・・あ!」
突然、カイトが大きな声をあげる。当然、私は振り返る。
「どうしたの?」
「あの、マスターの部屋には段ボールが山積みで・・・その・・・」
「あ、そういえば、引っ越ししてから一回しか来てないんだっけ?」
「はい。荷物にも手をつけずに、マスター、元の世界に帰っちゃいました」
「・・・なんてことだ。どうしよう!」
「だから、僕と一緒にn「えー」・・・」
めげずに提案するカイトに、水を差す私。
「はあぁ・・・、ところでカイト。今何時?」
「今、午後8時ぐらいです」
「んー、間に合うかな・・・」
「まさか、マスター・・・」
「少なくとも寝れる状態作っとかないと。カイトとは・・・ね?」
「・・・だめですよ、マスター」
「だって・・・」
何で機械なのに、抱きしめられるとあったかいんだろ?
「明日にしましょう。明日、窓を開け放って・・・その方が、絶対いいですよ」
「そうか・・・そうだね。分かった。そっちの方が面白そうだし」
「なら、今夜は・・・「リビングで寝るから、おやすみカイト」・・・」
私はカイトの腕を振りほどくと、リビングへと逃げ去った。
カイトは追ってくるかなって思ったけど、彼を来ずに、私はとっても安心して眠りについた。
明日も、がんばらないとね。
朝。目が覚めた私は、起き上がる。・・・なんか、すっごく楽しい夢を見ていたような気がする。憶えてないのが、もどかしい。
「あの青い変質者がいないと、平和だなぁ・・・」
起きたばかりなのをいいことに、言いたい放題の私。
「カイト、何してんだろ?」
やっぱり気になって、私はカイトの部屋に行くことにした。
「・・・何してんの。私の私物に」
部屋に行くと、カイトが自分のパソコンを立ち上げ、私の音楽プレーヤーをいじっている。
「あ・・・これは・・・」
「・・・消えてる・・・全部、消えてる・・・」
カイトから取り上げ、確認すると、やっぱり音楽データは消えていた。
「しょうがない・・・カイト、同期できなかったんでしょ?」
「はい。バックアップも取れないし、今までのとは全くちがうタイプのパソコンですから、・・・復元しちゃいました」
「そっか・・・」
どっち道、消えるしかない。進むとそうなるし、止まるといつまで経っても前に進めない。
「でも、これでまた、普通通りだよね?」
「はい」
「なら、今から入れようかな」
「間に合うんですか?」
「うん。絶対、そんなにかからないから」
「そうですか」
実際、30分とかからなかった。しかし、入れたのはたったの25曲。
「マスターって、ずいぶん選ぶんですね」
「入れても、実際に聴かない曲とかあるから」
「どんな曲ですか?」
「・・・教えない」
「マスターも意地悪ですねー」
「うるさい!」
またこうやってカイトと話せるなんて、正直嬉しい。でも、結構長く感じたこの時間は、玄関からのピンポンという音で終了してしまった。
新たな事件の幕開けだった。
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