「私達…ずっと、友達だよね?」


私がそう言ったのは、いつのことだったか。
私の言葉に、大切な『友』達は笑顔を返した。
なのに…

「リン…ねぇ、なんで…」


誰かの泣き声が、微かに聞こえる。
いや、違う。この声は…私の友の声だ。
その人が泣いている理由を、私は理解できなかった。

たくさんの人達の焦る声。
遠くにいても聞こえる、知らない少女の叫び声。
誰かを心配するかのような声。
無数の声が、私の耳に届いている。


私は頑張って呼吸をした。
胸が苦しくて、肺に酸素が入っていかないような気がする。
泣き崩れて涙が止まらないときのように、私の呼吸は乱れていた。
大きく息を吸う。だけど、苦しさは消えない。
呼吸をする度に、全身を苦痛がかけ巡る。

だんだん暗くなっていく視界に写ったのは、辺り一面に広がる赤い何か。
これは全然止まらない。
これが溢れ出て行くと共に、痛みも加速していく。


なんで皆泣いているんだろう。
なんで私は倒れているんだろう。
私が、期待されない『悪い子』だからかな。

ただ感じている全てのことを、私には理解できなかった。
目の前で泣いている親友…ミクが泣いている理由さえも、私には…わからないままだ……







<<ベストフレンド>>







気がついたら、私は白い空間にいた。
どこを見ても白。
何も描いていない画用紙みたいに、どこまでも白が続いている。

どうして私はここにいるんだろう。
さっきまで何があったの。
そもそも、ここはどこなの…?


何気なく視線を落とせば、私の腕は何かを抱きかかえていた。
昔から大切にしているテディベアだ。
ところどころ糸が解れていて、その姿は少し不完全だった。

このテディベアは…昔、皆でおそろいで買ったものだ。
私とミク、それに『レン』の三人で――…。


『レン』
その言葉を思い出すと、いつも胸が苦しくなる。
あの子は、私の大切な友達だった。
いつだって優しくて、「不必要」な私にたくさんのことを教えてくれた。
私はあの子が好きだった。
だけど…あの子は、一年前のあの日、13歳の誕生日を迎える前日に…死んでしまった。
だから、私はずっと罪の意識を抱えて生きてきた。


「ねぇ、レン…ここはどこ…?」


何気なく口に出してみるも、返事はない。
当たり前だ。この空間には今、私しかいないのだから。
それに、レンは…私が殺したようなものだ。
レンが、私に言葉なんて、かけてくれるはずがない。



「それにしても…」


どうして、この空間はこんなに白いのだろうか。
白すぎて逆に反応に困る。
こんな白すぎる空間が現実にあったら、掃除大変そうだよね。
ペンキぶちまけたりしたらもっと大変だ。
『あらー』で済む問題じゃない。
一つの色を一滴落としただけでも、かなり目立つ空間だね…



「ここ…私以外、何もない」


まるで私の心みたいだ。
本当に、何もない。
立派な包みなのに箱の中は空っぽのプレゼントのようだ。
そんなプレゼント…というか箱もらったら、普通に迷惑だね。
私もきっと…迷惑だ。


「あれ…?」


気づくと、視線の先には先ほどまでなかった、「!」という赤いびっくりマークが浮いていた。
なんでこんなものが?わけがわからない。
「!」というマークに触れると(氷のように冷たい)、それは「←」に変わった。
左に曲がれ、ということだろうか。
でもこんなひたすらに白い空間で、左に曲がっても…

…左に視線を向けると、微かだが何かが見えた。
さっきまでなかったよね?

でも、行ってみるしかないんだよね。





……歩いていると、少しだけど、景色が変わってきた。
完全な白い空間ではない。
何かが置かれている。


よく見ると、それはテレビだった。
液晶テレビとかではなく、少し昔のアナログテレビ。
久しぶりに見たな。
アナログ終了の瞬間を、私はよく覚えている。
とくに何もなかったけど。
『だからどうした?』みたいな感覚だったね。

他には、パソコンのディスプレイや液晶テレビが転がっていた。
これは多分、全部捨てられたものだろう。
全ての画面に砂嵐が走り、大雨が屋根を叩くようなあの耳障りな音が響く。
電源ボタンを何回押しても止まることはない。
壊れているのだろうか?


「…リン?」


誰かに名前を呼ばれて振り返る。
そこには、さっきまで確かに人はいなかった。
いつの間に?そんな疑問は、その人物を見て吹き飛んでしまった。
思わずテディベアを強く抱きしめる。

だってその人は、もうこの世にはいないはずの人だったから。


「レ…ン……レン、なの…?」
「…そうだよ。久しぶりだね、リン」


懐かしい姿、懐かしい声。
大切な友達だったレンが、そこにいた。


「ここはどこ?」
「ここはね、僕もよく解らないんだけど…リン達の世界とあの世の境目、みたいなところかな」
「へー…じゃあ私は死んでいないの?」
「うん。結構ギリギリだけどね」


なるほど。
ここが私達の住む世界でも天国でもないなら、私とレンが話している理由も納得できる。


「リン、僕は君に用があってここへ呼んだんだ…最近のリンは、変わってしまったね」
「…別に何も変わっていない」
「いや。君は自分の望むように生きていない。僕はずっと見てたから、解るんだ…」


ずっと、見てた。
それが言葉通りの意味なら、本当に見てたということになる。
私が本音を隠して生活するところを。

レンへの罪悪感から、死んでしまおうかと考えたこともあった。
だけど痛いのは嫌だったからやめた。
私はいつまでも弱いままだ。


「私なんて生きていたってしょうがないじゃない。レンを殺したのも私なんだから…」
「リンは何も悪くないよ。仕方がなかったんだから」
「だけどあのとき…私が早く気づいていれば、レンは助かったかもしれないじゃない…!」


中学一年の冬の日、私は家でレンを待っていた。
私とレンの誕生日は偶然同じ日で、毎年一緒に祝おうということになっていた。
誕生日の前日、一緒にお互いへのプレゼントを買う約束をしていた。
集合場所は私の家だった。待っているときに思わず昼寝してしまったんだ。
途中、レンから「リン、たすけ」というメールが届いたけど、私は眠っていたから気づかなかった。
メールに気づいたときはもう遅かった。
レンは、私の家への道の途中、足を滑らせて池で溺れた。
池にはレンのケータイが浮いていて、「メールが送信されました」という画面が表示されていた。
私のせいで…レンは、いってしまったのだ。



「リン…君は僕という存在に縛られちゃダメだ。君は生きなければいけない。先に死んでしまった僕の分まで」
「いやだよ、無理だよ…私は周りから期待されない、『いらない子』だから…」
「そんなことない…リンを必要としている人はいる!」
「そんなの、いるはずないよ」
「いるよ」


レンがそう言った瞬間、砂嵐しか流れていなかったがテレビ動く。
雨を打つような激しいノイズは止み、代わりに映像が流れる。
そこに写っていたのは私だった。


それは小学生のころの映像。
クラス委員に立候補した私は、もう一人の立候補した子にクラス内選挙で負けた。
そのときは仕方ないかとか思ってた。
だけど、それはどれだけ時が経っても続く。
六年生になってからやっと気づいたんだ。私は期待されないただの小娘だったのだと。
教師は「投票の結果は非常に接戦でしたが…」とか言うけど、「接戦」とか言うときは大体負けた私には票は入っていない。
周りから哂われ続けるだけの存在。例えるならば、サーカスのピエロだ。


今まではミクとレンがいたから大丈夫だった。
だけど私はレンを亡くしてから、本音をさらけ出すことができなくなった。
周りの目がとにかく怖くて、否定されるのが怖くて…全てが怖かったんだ。
自分自身をできるだけ傷つけないために、私は心を隠したんだ。

確か今日は文化祭があったんだ。
ミクと一緒に見て回っていたら、突然鉄の資材が倒れてきて…私に当たった。
これはきっと、私への報いなのだろう。


「リン、君はずっと本音を隠して生きていた。それは僕のせいだろう」
「だって、必要じゃない私は…幸せに生きれない」
「そんなことない、君には幸せになる権利がある」
「私が幸せになって何の意味があるの?私なんか生きていても――…どうせ、誰も私を必要とはしてない…」


次の瞬間、テレビの映像が切り替わる。
そこには、病室。
ベッドには私が横たわっていた。
近くの椅子に座って泣いているのはミクだ。


『リン…リン…帰ってきてよぉ…』
『リンがいたから、私は笑えたんだよ…リンがいなくちゃ、私は笑えないよ…』
『かみさま…神様……、どうか、リンを助けてください…』
『リンを奪わないでぇ…リンは、私の…大切な大切な、たった一人の……親友なのぉ…』
『全部、全部全部ぜんぶ、謝るからぁ…だから、リンを…リンをぉ……うううッ……』


ミクは泣いていた。ベッドには二つのテディベア。
ミクの懺悔はいつまでも続く。
横たわる私は、ピクリとも動かない。


「…これは…」
「これは、今の現実世界で起こっていることだよ」
「…じゃあ、あの私が動かないのは…」
「この異空間に意識があるから」
「どうして、どうしてこんなことしたの…レン」
「キミに生きる希望を取り戻して欲しかったんだ…」


「小さいころに約束したでしょ?リンは、笑って毎日をすごすって」


[ねぇ、このテディベアに、みんなで願いをこめようよ]
[僕もテディベアなの?いや、ふたりが言うならいいけど]
[じゃあ決まりね!はいはいレンもいっしょにー]
[みんな、わらって毎日をすごせますように]
[だれかがそこにいなくても、みんないつだって心はつながっているよ]
[みんな、ずっとずっと…わたしの、大切なともだちだよ!]


「そうか…そうだね。約束、したもんね」
「ミクだけじゃない…リンが笑わないのは、僕が許さないから」


――あぁ、どうして忘れていたんだろう。
レンが死んだショックで、こんな大切なことを忘れていた。
そうだ。約束したんだ。このテディベアに祈りを込めたんだ。
皆が笑って毎日を過ごせるようにって。


「僕は何もできないけれど、君は約束を守って…生きて」
「そして、全て終わったら、ここに帰ってくるんだよ?」
「君は…僕の大切な友達なんだから。僕はいつまでも待ってるからね」

「……うん、約束」




*





心電図の音が聞こえる、
薬品の匂いが鼻につく。

私は、帰ってきたのか。
現実に。


「リン…リン?心配したよ…」
「ミク…」


ミクは、布団に顔をうずめて言った。
長い間泣いていたのか、目が少し赤くなっている。


「私、心配したんだよ…リンが、死んじゃうんじゃないかって…」
「そんなわけないよ。私は、これくらいのことでくじけるような人間じゃないでしょ?」
「うん…だけど、あれだけ出血が酷かったから、いつ死んでもおかしくないような状態だったんだよ?」
「え、そんなに酷かったの…?よく生きてるな、私…」


「きっと、レンが守ってくれたんだよ」


ミクはベッドに置いてあったあのテディベアを手に取る。
ミクはきっと冗談と本音、両方の意味をこめて言っているだろう。
だけど私は、本当にそうなんじゃないかと思っていた。


「レンか…さっきね、私、レンと話してたの…」
「え、レンと?」
「うん。約束守らないと許さないからね、って言われたよ」
「…レンらしいね」
「うん。でも、私を助けてくれたよ」


レンは約束を思い出させてくれた。
私に生きる意味を教えてくれた。


「ねぇ、リン…私ね、リンのこと大好きだよ」
「どうしたの、急に……私も…同じだよ」
「…あれ?リン、なんか変わったね。これもレンの影響かな?」
「違うよ…思い出したの。とっても大切なことを」

「だから、私とミクはずっと友達だよ」

「ほんとう・・・?」
「うん、本当。」


君は私のベストフレンド。
いつか約束を守って、レンに会いに行こう。
それこそが、私の役目だ。

レン、ごめんね。そしてありがとう。
私にはこんなにすばらしい友達がいるんだ。
皆で支えあって…毎日を、笑ってすごすよ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【鏡音リン】ベストフレンド

ターンドッグさんへのプレゼント小説となります…が、どうしてこんなにgdgdになってしまったんでしょうorz
復活おめでとうございます!
なんだかかなりシリアスで少し暗い話になってしまいました…

そして書いているとき、調子にのったら容量が大変なことになっていました。
本当にすみません。


おそらく次回の投稿は大罪シリーズだと思います。。。

閲覧数:571

投稿日:2013/04/12 22:08:46

文字数:5,120文字

カテゴリ:小説

  • コメント3

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    さすがですねw
    基本的にはこの一言で、もう言うことはないのですww
    安定性と例え話が光ってて……
    そして、なによりもゆるりーさんの表現力には敵いません

    勝手にライバル視している私としては←
    やっぱり、こういうふうなものを書かれると、悔しかったりもしますww
    でも、ゆるりーさんゆえに、単純に悔しい訳でもなく……
    うーん……簡単にいうと「オラ、わくわくすっぞぉ」ですかね?←?

    2013/04/13 17:03:25

    • ゆるりー

      ゆるりー

      どこがどう「さすが」なんですかw
      そんなにすごい文章は私には書けていないと思いますが…。
      そういえば今回はたとえ話を多く書いた気がします。
      私の表現力はすごくないですよwむしろないですからw

      し、しるるさんのような憧れの方にライバル視されている…だと(ガタッ←
      あわわわ…ああありがとうございます!!!
      こういうのも書きますよw
      ドラゴ○ボールのキャラみたいですねw←
      しるるさんの表現力や文才には敵いませんよ…

      2013/04/13 19:22:14

  • Turndog~ターンドッグ~

    Turndog~ターンドッグ~

    ご意見・ご感想

    (´;ω;`)ウッ…

    (´;ω;`)ブワッ

    あれ、おかしいな。涙が止まらないよ!(※本日二回目)

    ちょっと私事なんですけどね。
    うちの大学には一年次クラス制があって(大抵はないらしいです)、きょう自己紹介があったんですよ。
    試しにボカロ好きをカミングアウトしたら運が悪いことにボカロ好きがクラスに皆無!
    全員の顔が一瞬歪んで、ちょっぴり泣きたくなったり。
    課題のレポートや予習が多いことで少しダメージ受けてたところに追い打ちを喰らい。
    ボコボコになって帰ってきたところでメッセになんとサプラァイズ!
    そしてミクさんが優しくて泣ける。
    そしてなんということか、このリンちゃん一昔前の自分にめっちゃかぶる!
    おかげで。・ ゜・。* 。 +゜。・.。* ゜ + 。・゜・(ノД`)なことに。

    友達はいいですよ、友達は。
    もっともリアルで信頼できる友達はせいぜい二人ぐらいしかいないけどw
    むしろネット上の関係で顔すら見たことない人ばっかりってことを考えなければ、ピアプロのほうが友達が多いですよwwもちろんゆるりーさんもその中に入ってますからね?
    リアルよりピアプロのほうが友人が多いんはどうなのよとか言わない。

    2013/04/12 23:43:41

    • ゆるりー

      ゆるりー

      あ、確かに本日二回目ですね(※日付的な意味で)
      というか私は一日に二回もターンドッグさんを泣かせてしまったのか…

      …なんだかすごく悪いことをしてしまったような気が……。
      私は自己紹介するとき、あまり「ボカロ好き」とかは言わないようにしてます。
      同士を見つけたらその人だけにカミングアウト…みたいにしてます。
      私も数年前のクラスで、ボカロとかアニメとか知ってる人が全くいなくて同じ経験をしているので。
      勉強系は落ち込みますよね…精神が追い詰められたときにはすごいものが出来上がることがあります。「ガレリアンと(ry」はそのパターンです。
      さ、サプライズ…ですか。よかったんでしょうか…

      こんなに優しい友人がリアルにいたら泣きます。
      貴重な時間と塩水と思い出をすみません…(´・ω・`)

      友達は一生の宝物ですよ。
      リアルで信頼できる友達は貴重ですよね。
      友達…いい響きだなー…その中に私も含まれてると思うと寂しさが消えます。
      どうなのかは聞かないほうがいいですね。悲しくなってしまうので。

      2013/04/13 00:14:13

  • みけねこ。

    みけねこ。

    ご意見・ご感想

    少し目が熱くなりました。
    あと地デジ終了ではなく、アナログ終了です。

    2013/04/12 22:03:14

    • ゆるりー

      ゆるりー

      間違えてはいけない単語を間違えてしまいました。
      ご指摘ありがとうございます。
      地デジが終了していたら、今テレビ見れませんからね…

      2013/04/12 22:10:00

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