――――――――――#9
「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
SUKONETEI――――――――――六十四月流操剣術師の三、師屍
奇声とショートエコーに続いて、空からビッチとピンクの毛玉が落ちてきた。戦闘配備していた量産型たこルカが着地点にわらわらと押し寄せた。落下の衝撃を吸収して気の抜けた音が響く。
「ぶっはぁ!たこルカがいなければ即死だった!」
大の字で水平に落ちてきた亞北ネルは、一瞬呼吸を整えてから肩で体を跳ね上げて叫ぶ。弱音ハクは無表情でまじまじとネルを見た。
「ちっ、やはり無理でしたね。健音テイでは……」
「何が?」
立ち上がったネルは拳銃を改めてながら聞き返す。総スチールのワルサーP38、軍の予算で調達したそれは、部品取りのためのジャンクとセットで基地に届いた。
「白兵での奇襲は不利ですね」
「お、おう」
チラとハクの方を見て、また銃に目を戻す。鏡音レンの格闘訓練と射撃訓練を引き受けるという理由で予算を承認した結果、制式の十倍以上の値段の骨董品の銃のと同じのを一杯を買ってきた。
「たこルカがいなければ即死でした。それも2回も……」
「ねえ?何を言ってるんですか?悔しそうに?」
ようやく、亞北准将はこちらに顔を向ける。鏡音レンの拳銃は意味も分からずお下がりの新品を与えられ、その教官は半世紀落ちのアンティークを嬉しそうに使っている。
「量産型たこルカは使い勝手がいいと思いまして」
「そっか。良かった、処女呼ばわりしたから死んでほしいと思われてるんじゃないかと思った」
それは切欠に過ぎない。鏡音大佐に合うと思ったけどやはりP99がどうのこうのと、言い訳された時にやられたと思った記憶が、ふと。
「そうですね」
「え?」
「え?あ、良く聞いてませんでした」
「なにか、やっぱりというか、怒ってます?」
「いつも通りです」
YOWANEHAKU――――――――――影はしり 迎えの宴 鍋なずむ 恙無きやと 北窓塞ぐ
リリックコードの意味は、宴が終わっても待ち人が来なかった、鍋が濁ってもあの人は来なかった、けれども恙無く過ごしているだろうか、私は今年の冬もここで待ち続けるでしょう、と。
AKITANERU――――――――――でたああああああああああああああああああああああああああああ伝説のラブイマジネーーーターーーーーーハクさんがあああああああああ画面端いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい
一瞬で、1800度の高熱が平面を走った。余計なノイズは無視して、集中、自己暗示をかける。
SUKONETEI――――――――――月影に 暦を数え 幾年と 冬を迎えて 故郷思う
かかった。
AKITANERU――――――――――これはああああああああああああわからああああ
YOWANEHAKU―――――――――― 神無月 流れる雲に 歌を詠み 恙無きやと 書き付けし文
SUKONETEI――――――――――な、しまった……!?
AKITANERU――――――――――何が?
そう、『か・む・な・つ・き』を気付かなかったのが根本的に失敗である。歌の心がわからないなら、「恙無くはならない」のだ。
「AKITANERU――――――――――ちょ、ちょ、ちょ!?」
SUKONETEI――――――――――まさか、味方を巻き添えにしてまでとは!
YOWANEHAKU――――――――――そういう事です。それ程の敵だという事ですよ。
灼熱の熱を持つ薄暗い炎が、ある程度惜しかった敵と言い訳できないくらい残念な味方を襲う。とりあえずさようなら、亞北ネル。
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