8
「……」
「悠、どうしたの?」
「う、ううん……なんでも、ないよ」
お互いに名前を呼びあうようになって数日。はじめのうちは気恥ずかしかったけれど、それだけたつと私たちは普通に名前で呼べるようになってた。
けれど、だいたいそれとおんなじくらいのタイミングで、悠はよく暗い顔をするようになった。
「大丈夫? 休んだほうがいいんじゃ……」
美術室で悠が絵を描いてるのを眺めながら、私は心配してそう言った。
あいかわらず、描いてる絵はあんまり見せてくれないから、私は絵の向こう側で椅子に座ってた。
イーゼル越しに見る悠の顔はすごく真剣で、それでいてなにかに思い悩んでいるみたいだった。
「大丈夫だから! 休んだりなんか、できないよ」
「そっか。もうすぐコンクールだもんね。でも、無理しちゃダメだよ?」
「……うん。そう、だね」
今なら、悠がなにに思い悩んでたのかわかるし、なんで「休んだりできない」のかもわかる。それをなんで私に言えなかったのかってことも、知ってる。けれど、そのときの私にはさっぱりわかんなくて、おろおろしてた。
思い返してみればみるほど、私の心配は本当に的はずれだったな、なんて思う。
「未来も、大会もうすぐなんでしょ。早めに切り上げちゃって平気なの?」
「う……。そうなんだけど、ちょっとね……」
悠が心配だから、抜け出してきた。……なんて言えなかったけど、でも、わかってほしいって思ってた。
「悠、そろそろ片付けないと……間に合わないよ」
「え? うわ、ホントだ……」
私の言葉に、悠は時計を見て顔をしかめた。
悠は筆を握ったまま少しだけ悩んで――やがてため息をついて、しぶしぶといった様子で片付けをはじめる。
「私、手伝うよ」
「そんな、いいよ」
申し訳なさそうにそう言う悠に、私はほほをふくらませてみせた。
「もう。手伝ったほうが早く終わるでしょ? それに、正門閉まっちゃったら、先生にすっごい怒られちゃうじゃない」
「……じゃあ、先に帰ってもいいよ」
思わず、手が出た。
私は、悠に思いっきり平手打ちをしていた。
静かな美術室に、その音は結構大きく響いた。
「バカッ!」
悠は、叩かれたほほをおさえて、呆然と私を見ていた。
そんな悠の姿は、すぐにグシャグシャにゆがんで見えなくなってしまった。それが、私自身の涙のせいなんだってことは、あとになってから気づいた。
「悠の……バカ……」
今思うと、なんでそれくらいのことであんなに怒っちゃって、ポロポロと泣き出しちゃったんだろうって思う。そのころの私なら、ちょっと怒ったふりをするくらいで、無理矢理片付けを手伝ったりしてもおかしくなかったのに。
……なんでだろう。
よくわかんないけど、もしかしたら、不安だった気持ちがあふれかえっちゃったのかもしれない。
あのとき、しばらく元気がなかったり暗かったりした悠に、うまく言えない不安があった。
私には言うことのできない悩みごと。
聞いてみてもはぐらかされるんだけど、黙っててもわかる悠の葛藤。
私には相談してくれないのかな、とか、私のこと、もしかしたら嫌いになっちゃったのかもしれない、とか、そんな考えがよぎりかけたところに、悠に「先に帰ってもいいよ」なんてことを言われたから……なんていうか、裏切られた、みたいな感覚になっちゃったのかもしれない。
自分のことなのに、このときの自分の気持ちは、私自身にもよくわからなかった。
私はこのとき、ただただ耐えられなくて涙を流して、それを悠に見られたくなくて。それで、逃げ出すみたいにして帰ってしまった。
それは、私の十七年の人生の中で、最大の過ちだった。
なんで、よりによってこの日にそんなことをしたんだろうって、三年たった今でもそう思う。
本当に、悔やんでもくやみきれない。
その日の最後に見た、ほほをおさえて呆然としている悠の姿。
それが、私が見た、悠の最後の姿になってしまったんだから。
茜コントラスト 8 ※2次創作
第八話
こんなことになる予定ではありませんでした。
ていうか未来嬢の「先生にすっごい怒られちゃうじゃない」という台詞を書いた直後でさえ、こんなケンカ……というか、仲違いというか、をするつもりなんてありませんでした。
なのに、なぜか、その二行後には未来嬢ががっつり平手打ちをかましてました。
……なんてこった。どうしてこうなった。いったいどうしよう。
そう思って書き直そうとしたものの、見返せば見返すほど平手打ち以外の選択肢などないように思えてきて、そのまま書き進める事にしました。ごめん未来嬢。ホントごめん。
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