「あー、雨ー…」


 授業の終わりぐらいに雲行きが怪しくなり、授業が終わった頃には降っていた。


 今日降らないって言ったのに。


 窓を少し開けて、左腕を窓から出し雨粒をつかむように手を握る。


 その掴んだ雨を隣で寝ている緑に向かって、顔にピッピッとつけてやった。


 やや反応が遅れて、机に突っ伏していた顔を上げた。


「冷って」


 変な日本語を使いながら私の顔をじーっと見てくるので、


 目覚ましの代わり~、と言ったら、


 悪趣味め、と返されまた机に突っ伏した。



 だって仕方ないんだよ、嘘つかれたら誰だって嫌になるんだよ。



「天気予報の嘘吐きー」



 灰色の雲に向かって、呟いた。





 初恋ドロップ





「バイバーイ」


「また明日ねー」


 次々と色を咲かせて帰っていく同級生たちを、苦笑いで送りだし、ため息をつく。


 天気予報が嘘を吐くから、傘なんてもの持ってきていない。


「あー、どうしよう~」


 超能力なんてものは使えないので、雨は止まないから、帰る方法を考える。


 立っていると疲れるから、靴箱を背もたれに腰を下ろした。



 体操服を頭にかけて走って帰るか、カバンを頭にのせて走るか、
 ゴミ袋のデカいやつをカッパの代わりにするかー…。


 最悪最後のは絶対に避けたい。


 どっちにしろ走って帰らなきゃなぁ…。



「何してんの」


 後ろから突然聞きなれた声がして、肩を震わす。


 振り向くと幼馴染のグミヤががいた。


「考え事ー」


 グミヤが靴を履いて私の顔を覗き込むと、悪戯っぽく笑う。


「どうせアレだろ、傘忘れたんだろ」


「…だって今日晴れって言ったんだよー」


 唇を尖らせ、不貞腐れる。


「入れてやるから帰るぞ」


 入れてやる、という言葉にくらいつき、のろのろと立ち上がり、グミヤの隣に駆け寄る。


「缶ジュース一本な」


「えぇ!何で!」


「蒸し暑い」


「いいじゃんぐみや~ん」


「ぐみやん言うな、ぐみやんて」


 すがりつくように服の裾を掴んで揺さぶるが、全然動じない。


 つまらない緑だ。



 飴を食べ終えたのか、鞄から飴の袋を取り出し、
 袋を破いて開けて中から飴を選ぶかと思うと、こちらをじーっと見てきた。


「何?」


「手、」


 ?


 手を出せということか、2つの手をグミヤの前に出す。


 すると、グミヤがいちにぃさんし、と私の手の中に飴を置いていった。



「14、15、じゅーろーく…、よし」


「ぐみやん、私こんなに食べれないよ?」


「食べろ」


 えぇぇ~と思いつつ袋を開け食べ始める。


 グリーンアップルはやっぱり美味しい。


「……お前自分でも気づかないのか」


「ん?何がー?」


 口の中でコロコロと飴玉を転がしながらグミヤの顔を見る。




「お前誕生日だろ」

 


 一時停止した。


 飴が落ちそうになった。


 え、誕生日?


 うー、ん?


 あ…、あぁあぁぁぁぁあぁ!


「う、ん、誕生日!誕生日だよ!!」


「お前なあー」


 えへへと頭をかきながら笑うと、手の中から飴がボロボロと零れ落ちた。


「わ、おっとっと」


「たっく…」


「ごめんぐみやんー」


 丁度雨が止んだけれど水溜りに飴が落ちた。
 

 全部2人で拾い上げ、水でぬれた所をスカートの裾で拭う。


 グミヤがその横で私の飴の袋を開けて1つ口の中に頬張った。


「あー!それっ、それグリーンアップルでしょ!?」


 わーっとグミヤに向かってぎゃあぎゃあ叫ぶ。


 前に出て服を掴んでまた激しく揺さぶる。


「何で食べちゃうのー!?私好きな…」

 
 私の言葉が途中で遮られた。
 

 グミヤが前かがみになって、前の景色が分からなくなった。


 傘は道路に落ち、太陽の日差しが眩しくて目を閉じる。


 私とグミヤの影が重なった。



 グリーンアップルの味と認識する頃には、
 道はオレンジ色に照らされ、グミヤもさっきの位置に戻っていた。




「やるよ」




 傘をたたみながら、前を向いたまま言った。


 だから、どんな表情をしたのか分からない。



「誕生日、おめでとう」



 でも、私の表情は分かった。


 きっと、熟した林檎より真っ赤で、笑っていたと思う。


 変な顔だったかもしれない。


「…っ、た、食べかけだよ!」





 ううん。


 いいんだ、そんなの気にしないから。


 あったかくて、


 心がくすぐったくなった。




 初めての気持ちは、君からもらった贈り物。


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

初恋ドロップ



すっごく遅れたけど、お誕生日おめでとう!
今日という言葉を入れなかったのはそのせいです。

初投稿が、こんな…、駄文ですみません。

グミヤがあげた飴はグミの年の数です´`*


閲覧数:292

投稿日:2011/09/12 18:47:18

文字数:1,998文字

カテゴリ:小説

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