【ミク】
アパートの自分の部屋で、ベッドに寝転ぶ。
枕に顔を埋めて溜息を吐いた。
もう、何が何だか解からなかった。
あたしが殺されそうになったところを、カイトさんが助けに来てくれて、今度はそのカイトさんが倒れてしまった。一体何が原因なのかさっぱり解からなくて、苦しそうなカイトさんを見ながらあたしはただ泣きすがるしか出来なかった。訳が解からなくて混乱していた所為だろう。
そんな自分が情けない。
今日一日で色んなことがありすぎて、頭が爆発しそうだった。
カイトさんが、青の王族だったこと、あたしが緑の国の王家の人間だと知っていたこと。そして原因も解からずに倒れたこと、彼の妹さんの言葉。
アパートに帰れば大家さんが心配してあたしを待っていた。大家さんが彼にあたしが連れて行かれたことを教えてくれたんだとその時に知った。
でも、今一番頭に残っているのは、彼の妹さんの一言だった。
「これ以上、兄さんに近づかないでください」
「兄さんは、誰も好きになったりしません。どんなに近づいたところで無駄なことです」
訳も何も解からないまま、一方的にそう言われて、そのまま帰って行ってしまった。
混乱した頭では掛ける言葉も何も思い浮かばなくて見送ってしまったけれど。
「別に、あたしが近づいた訳じゃないもん」
いつだって、会いに来るのは、カイトさんの方で。
だから、あの人にあんなことを言われる筋合いなんてない。それが腹立たしい。でも、彼女の気持ちも解からない訳じゃない。
カイトさんが好きなのに、妹という位置にしか居られないなら、どんなに苦しいだろう。
でも、やっぱり理不尽だ。
何で、あんなことを言われなきゃいけないの。あたしは、何もしてないのに。
「…何も、してない」
命を狙われる理由なんて、ない。あんな風に近づくな、なんて言われる理由なんてない。
そう言い聞かせたところで、あたしの心が納得していない。
馬鹿じゃないの。
ただ、カイトさんが会いに来てくれるから、それに甘えて。
それで満足してて。
そこで何かあったら被害者面するって言うの。
何もしてないんじゃなくて、何もしようとしなかっただけのクセに。
いつだって、会いたいって願っていたのに。会いに来てくれるから待っていただけで。結局あたしは、自分からまだ、何の行動もしていないんじゃないか。心が会いたいと願っていたなら、あの妹さんの言葉は、何も間違ってない。でも、だからって言う通りにすることは出来ない。
「やっぱり、このままじゃ嫌」
近づくなって言われたから近づかないまま、なんていうのは嫌だ。あたしは、カイトさんに会いたい。もし、カイトさんがあたしを好きじゃなかったとしても関係無い。
会って、話がしたい。ちゃんと気持ちを伝えたい。
それさえもせずに諦めるなんて、冗談じゃない。
あたしは身を起して気合いを入れなおす。
明日…は、倒れたばかりだから止めた方が良いだろうか。あんなに苦しそうだったんだし、すぐには起き上がれないのかも知れない。
…でも、もしかしたらお見舞いぐらいは出来るだろうか。
青の商人のお店の場所は知っているし、とりあえず明日、行ってみよう。お見舞いに花でも持って。
そして、案の定、と言えば良いのだろうか、門前払いだった。
会いたい、と告げれば今は病で倒れているので会えない、と言われ。見舞いたい、と言っても結構です、と突っ撥ねられる。
カイトさんが部屋に閉じ込められていたらしい事を考えても、多分あたしと会っていることを快く思っていないんだろうな、と思う。
なんとか見舞い用の花束を無理矢理押しつけて、そこを後にした。
やっぱり、そう簡単には会えそうにない。
カイトさんは一体、どうしているんだろう。今も苦しんでいるんだろうか。
そもそも、どうして倒れてしまったんだろう。それまでは、本当に何でも無さそうだったのに。倒れる前には、いきなり抱きしめられたけれど。
……うわ、思いだしたら恥ずかしくなってきた。
一体、あれは何だったんだろう。
考えても解からないけれど、答えを聞きたいけれど、今は会えない。
会えないのが、辛い。
思わず、髪飾りに手をやった。
カイトさんが、青の宝で彼らを追い払ったように、あたしもこれを使えば会えるかも知れない。
そう考えて首を振る。
駄目だ、あたしはもう、王家の人間じゃない。少なくとももう、両親には会わないと決められている。それがあたしのためだということも解かっているし、納得もしている。もしこんなところで名乗って、余所に知られることになってしまっては何の意味もない。
そもそも言ったところで信じてもらえるかも解からない。
まずは持久戦だ。
毎日のように行けば、向こうも根負けしてくれるかも知れない。まあ、それは希望的観測だけれど、せめてカイトさんの体調が良くなったかどうかぐらいは、教えてもらえるかも知れない。
「よし!」
再び気合いを入れなおし、そしてあたしは広場に向かった。
カイトさんが好きだと言ってくれたあたしの歌を、みんなに届けるために。
その翌日も、翌々日も同じように行き、同じように門前払いされた。
ただ、流石に可哀想だと思ったのか、カイトさんの体調は良くなった、ということだけは教えてもらった。だけど、外出はしばらく禁止させられているらしく、彼の妹のルカさんが殆ど傍についているんだとか。
それじゃあ、いくらカイトさんでも抜け出してなんて来れないだろうな。
せめて、あたしが会いに来ていることを、伝えられたら良いのに。
持ってきた花束は、無理矢理渡しているけれどそれがカイトさんに伝わっているかは解からない。そうでない可能性の方が高いのかも知れない。
溜息を吐く。
「あんた、そろそろ諦めな」
いつもあたしの相手をしてくれる男の人が、そう声を掛けてくる。
「旦那様やカイトさんたちは、あと一週間もすれば黄の国に発たれる。来るだけ無駄だよ」
「…一週間!?」
「ああ、だから、いい加減諦めた方がいい。何にしろ、旦那様はお許しにならないだろうさ」
「…そんな」
一週間、もう、それだけしか時間が無いなんて。
カイトさんに初めて会って、どれぐらい経っただろうか。まだ、十日も経っていない。緑の国に来て二週間余りで、もう旅立ってしまうと言うのだろうか。
このまま、会えなくなってしまうんだろうか。
そうなれば、カイトさんが次に緑の国に来るのはいつになるだろう。
どうしよう、会いたい、黄の国に行ってしまう前に。
どうしたら会うことが出来るんだろう。
諦めるのだけは、嫌だった。
その翌日も、やっぱり門前払いだった。
カイトさんの部屋はどこだろう。
少なくとも、この建物の中に居る筈なのに。
会いたい。
諦めたくない。
せめてあたしが此処に居るということだけでも伝えたい。
そう考えて、気づいた。
あたしには歌がある。歌を歌うことが出来る。声を張り上げて歌おう。あたしが此処に居ること、あなたを心配していること。
カイトさんが好きだと言ってくれた、あたしの歌で。
せめてこの声が、カイトさんに届くように。
私はカナリア 空の鳥
歌が大好き 幸せな鳥
あなたと歌った歌を。
もう一度あなたと歌いたい。あなたと共に歌うこと以上の喜びを、あたしは知らないから。
空を飛んで 私は歌を歌った
歌う喜びを歌った
いきなり店の前で歌いだしたあたしに、さっきまで相手をしていた人はどうしたものかと戸惑っているようだった。それに構わずに歌い続けていると、店の中がざわつき始めた。
冬は寒くて でも私は好き
さらさら雪が 太陽に輝く
店の中から、大柄な男の人が出てきた。
カイトさんよりも背が高そうだった。店の人は遠巻きにこちらを見つめている。
「いい加減にしろ!いくら来ても無駄だ。カイトには会わさん!」
きっと、この人がカイトさんのお父さんなんだろう。でも、それにも構わず、歌い続ける。誰が何て言おうと、関係無い。あたしは歌う、あなたに届くまで。
私はカナリア 歌の鳥
歌が大好き 囀る鳥
男の人が、業を煮やしたのか、掴みかかってくる。何とか避けて、それでも歌い続ける。
本当は少し怖い。大きな男の人が、怒りも露わに自分を睨みつけてくる。それでも、この間殺されそうになった恐怖に比べれば、なんてことはない。
カイトさんに会えないままになるよりは、ずっといい。
高いとこ 低いとこ 遠くへも
若芽は囁き 木々の葉擦れのコーラス
でも、やっぱり掴みかかってくるのを避けて歌い続けるなんていうのは無理がある。
きつく腕を掴まれて、痛みに顔を顰める。
「いたいっ!」
「いい加減にしろと言ってるだろう!迷惑だ、帰ってくれ!」
怒鳴られて、きつく腕を引かれる。店から離れさせようと言うのだろう。何とか踏み止まろうとするけれど、男の人の力に敵う訳もない。ずるずると引きずられる。
「嫌です、嫌!何で会っちゃいけないんですか、理由が解かりません!」
「理由なんて、知らなくていい!」
「離してください!」
今のあたしは、きっとすごくみっともない。でも、それでも諦めるなんて嫌だ。会えないと言われて、それで簡単に諦められるなら、最初から好きになんてなったりしない。
会いたい、会って話がしたい。笑った顔が見たい。
カイトさんが傍に居てくれるだけで、いつも何処かで感じていた寂しさも、孤独も忘れられた。だから会いたい。カイトさんに会えないだけで、今だってこんなにも寂しいのに。
「ミク!」
声がした。
聞きたいと思っていた声。
次の瞬間には、きつく掴まれていた腕が引き放され、抱きしめられていた。
欲しいと思っていた温もり。
「カイトさん!」
会えた。
また会えた。
あたしもカイトさんの背中に腕を回して抱きついた。
「聞こえたよ、ミクの歌。やっぱり綺麗だ」
「ちゃんと、届いたんですね、良かった…」
もう一度あなたに会えた。あなたの声が聞けた。抱きしめられた状態からほんの少し体を離して、顔を見る。優しい眼差しも、いつもと変わらない。
「カイト!部屋に居ろと言っただろう!」
「父さん、すみません。でも、やっぱり俺は、あなたの言う通りには出来ない。例えあなたが何を言っても、俺を部屋に閉じ込めたとしても、望むようには出来ません」
カイトさんが、お父さんに真っ直ぐな視線を向けて言う。
「あなたが何を憂慮されているのか、全部解かっている訳ではないけれど、それでも俺は、貫き通すと決めたんです」
「………本気で言ってるのか」
「はい」
二人はじっと睨みあい、そして、お父さんの方がふいっと視線をそらして店の中に入って行った。
それを見送ってから、カイトさんはほっと息を吐いた。
「ごめんね、ミク。大丈夫だった?」
「はい、あたしは大丈夫ですけど、あの…」
一体、どういうことなのだろうか。無言のやりとりがあったような気がする。
「完全に許してくれた訳じゃないけど、ひと先ず見て見ぬ振りをしてくれるってことかな」
「え?」
「…詳しいことはまた今度、ちゃんとゆっくり話そう」
「は、はい」
そう言われれば、これ以上問いかけることは出来ない。それに、店の前でこれ以上立ち話する訳にもいかないだろう。随分注目も集めてしまっているし。カイトさんもそう思ったのか、お店の方に視線を向けた。
「…店の者にも迷惑だから、今日はここまでだね。明日…会いに行くよ、きっと」
「約束、してくれますか?」
「うん、約束する。絶対に会いに行く。いつもの広場でいい?」
「あ……ゆっくりお話するなら、高台の方が良いです。小さな広場があって、あまり人が来ないところなので。場所、解かりますか?」
「うん、この街には何度も来てるから、解かるよ」
カイトさんは優しく頷いてくれる。いつものように、ううん、いつも以上に優しい眼差しのような気がするのは、気のせいだろうか。
「じゃあ、また明日」
「はい」
ひとまず、会えただけでも良かった。
また明日、会う約束が出来たのだし。
ほんのりと温かくなった気持ちを抱えて、久し振りに軽快な足取りで家路についた。
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ご意見・ご感想
甘音
その他
>エメルさん
こんにちは。
追いつきましたねー。私もガンガン書かないとなー。
ミク視点、ほっとしていただけましたか?まあ、他のみんなはえらい方向に進んでいる気がしますものね。変わらないままではいられないけれど、前向きに強く変わって欲しいなと思います。
このミクは本当に素直ないい子のイメージで書いています。ありのままの女の子。だから本当に表情がくるくる変わって素直に出ているでしょうね。
ミクが自分から行動を起こすこと、が今回最も重要なことだったので。待つ側から動く側へ。そんな風に強い女の子、大好きです。
養父はねー、いろいろあるんですよ、あの人も。利用しようという気もあれば、他の理由もあったりとか。色々知っているが故にいろいろ考えてもいるのです。ただ、彼の知っていることは、カイトやルカも知っていることではあるので、彼の口から語られることはないでしょうね。
空のカナリア、使えるところでふんだんに使っています。作曲していただいて、嬉しいですよ、フルで聞けるのを楽しみにしています!謝らないでください!
今回は一番乗りですね(←え)
いつもお二方には感謝の言葉が言い尽くせません。お二人の感想があるからこそ、めげずに書いていけますもの。
2009/05/19 00:04:34
エメル
ご意見・ご感想
こんにちわ~
やっと追いつきましたよ。展開気になるんでガンガン読ませてもらいますね。
今回のミク視点、なんだかホっとしました。カイトにしろレンにしろどんどん変わっていくので彼女の変わらなさは安心できます。いずれは変わらざるおえないでしょうけど・・・
自室で考え事をしてるミクって可愛いですね。怒ったり落ち込んだり決意したり、なんか考えがそのまま顔に出てそうでw
そういえば自分から行動を起こしたのは初めてなんですね。カイトほど大胆ではないですがミクにとっては一大決心だったんでしょうね。なんだかやっぱりがんばれって応援したくなっちゃいます^^
義父は根っからの悪人ではなさそうですね。なにかしら事情を知った上での行動な様に思えます。そうでなきゃ一時とはいえ見て見ぬ振りなんてしなさそうですし。彼の口から真実は語られそうには無さそうですが・・・
空のカナリアってかなり重要な歌ですよね。私なんかが勝手に作曲とかしちゃって本当にすみませんでした。読みながら自分の作ったメロディで再生しちゃってるし。ごめんなさいごめんなさい><
あは、時給310円さんがいないうちに1番乗りですw
いつも参考にさせてもらってるんで、ほんと申し訳ないです・・・では~
2009/05/17 16:16:13