しばらく、全員が硬直していた。予想になかった反応に、意表を突かれているのである。
 心配そうにしながらも落ち込んだようにしてうつむいて動かなくなったリンを、今度はメイコが励ますようにした。
「気にすることないわ、リン。レンもちょっと頭に血が上っただけよ。すぐに戻ってくるわ」
「…うん、別に気にしてない」
 そっけなく答えては見たもののリンは顔を上げようとはせず、低い声のトーンで、ただ、呼びかけに応えるだけだった。
「リン、貴方は何も気にしなくていいわ。後で、私が言っておくから」
「…うん」

 何を怒っているのか。自分でもわからなくなってきた。
 父親のことを出されただけで何を動揺しているのか、何も知らないリンに対して、何を怒っているのか、何に怒っているのか。そんなのは決まっている。ただの八つ当たり。八つ当たり以外のなんでもないことに、自分自身で気がついているのだ。
 上層部の考えなんて関係ないと思ってはいるが、どうやったって下のものは上に逆らうことが出来ないのは世の常識である。
「~~~~っ」
 言葉にならない苛立ち。レンはぐしゃぐしゃと自分のキレイな金髪を掻き毟って、小さく結った髪の毛を解いてしまった。ソファにヘアゴムが落ちた。
 ここは、レンの部屋である。研究所で残業なども多いため、この研究所の研究員にはそれぞれ位に応じて部屋が用意されている。つまり、ちゃんとした豪華な部屋に行きたければ、それなりの業績を上げろ、ということだ。この部屋はそこまで広いということはないものの、十四歳の少年が住むのになんら支障はない程度の広さである。
 ソファとベッド、小さなテーブルと椅子が二つ。窓が南向きに一つというのも、忘れてはならない。
「…んなんだよ…」
『うるさいなぁッ!お前に何がわかるって!?所詮機械のお前にッ』
 所詮機械、そういった。しかしこの研究所の技術は表面に露出していないだけで、他の研究所から頭一つぬきんでているような、素晴らしい技術を持っていることは、レン自身が一番よくわかっているのに、何故、あんなことを言ったのか。機械であっても、感情をプログラム化することは、何も難しいことではない。だからこそ、リンは人間らしい感情を持っている、電子の歌姫、それこそがVOCALOIDというものなのである。それを、わかっているというのは、自分のついた、嘘だったのか。
 手をかざして、真っ白な天井にすかしてみた。
「…っ」
 何を思い立ったのか、レンはいきなり立ち上がって白衣を脱ぎ捨てると、部屋を飛び出した。

「――レンのお父さんは、ここの研究者だったの」
「え?」
「それも随分と実力のある、ね。業界でも一際注目を浴びるような、凄い人だった」
 二人はメイコの部屋のテラスに出て、ウイスキーとオレンジジュースがはいったコップを手に持って、語り合っていた。
「私も一回だけあったことがあるんだけどね、オーラなんか感じなかった。ただ、大きな手と優しそうな顔でわかったの。あぁ、この人は凄いものを作るんだろうなぁって」
「へぇ」
「だけど、この会社も昔、色々あってね…。賄賂、不良品、天下りって、いろんなことの付けが回ってきて、経営できないくらいになったの。上は、その責任を、当時知名度の高かったレンのお父さんに全て押し付けてしまった。知名度の高い人間が賄賂だの何だのってなっていたら、もとの会社のことなんて話題にすら上がらなくなる。それも織り込み済みでね。それから、お金で作った証人と、会社から嘘の証言をするように言われた社員、作られた証拠で、実刑判決が下された」
「どれくらいの刑で…?」
 興味津々と言った様子でリンが前のめりになって聞く。
「そんなに酷いものじゃなかったわ。一年半位じゃないかしら。けど、警察の取調べが違法なほどに酷くて、持病が悪化して――」
「死んで…?」
 その問いにメイコは答えず、ただ、小さく首を縦に振るだけで、リンと目をあわせようともせずに最後のウイスキーを喉に流し込んだ。
「それから、母親もそれを理由に自殺してしまって。それ以来、レンのトラウマになっているみたいね。父親に関しては、いやな記憶しかないみたい」
 
 少しだけ、歩いた。
 途中から走っていたのかもしれない。
 商店街に出ていたレンの目的は、この間の仮面たちだった。このタイミングで上手く二つの事件が重なるものではないだろう、という考えのもと、レンは走っていた。
 つまり、今回の他社からの圧力と、仮面の男たちが負ってきたことは、なんらかの関係があるということである。関係があるという確証はないし、まして仮面たちがここにいるという確証など、どこにもなるわけはないし、だが、そうはいっていられなかった。
 仮面に会いたいわけではない。あんな気持ちが悪いものは、出来るだけ会いたくないものだ。しかし、会うことによって何らかの解決が出来るかもしれないとなれば、話は別というもの。
 そう思って商店街に出てみたのはいいものの、一人でいると、段々と心細くなってくるのだ。すこしだけ、レンは身を縮めた。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

君にささげる機械音 5

こんばんは、リオンです。
眠いです。眠いです。眠いです。眠いです。眠いです。眠いで(×∞
それでは、仕方がないので寝ます。おやすみなさい。
また明日!

閲覧数:250

投稿日:2009/11/24 23:26:08

文字数:2,109文字

カテゴリ:小説

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  • リオン

    リオン

    その他

    返事が遅れてしまいましたが、こんばんは、みずさん。

    寝られない時期、私もありました!過ぎましたけど…。
    今日の授業中、眠くて意識が飛びました。三回くらい(笑
    テスト、頑張ってくださいね!!私はズタズタだったので、ちゃんと勉強したほうがいいかも知れませんね…。

    レン君、思いとどまれってさ。
    レン、みずさんが何かワクワクしてる!!期待にこたえて来い!!全力でっ!
    仕方ないな、私のベッドに来(強制終了)
    バナナもロードローラーもあげるよ~。カモ~ン

    もうすぐ投稿しますんで!今日の分!
    いい双子の日!そうですね!リンは喜ぶと思います!!
    レオンのプレゼントとは、レンも泣いて喜ぶと思います(違

    2009/11/25 23:04:30

  • リオン

    リオン

    その他

    返事が遅れてしまいました!こんばんは。
    何かを負ってきたのでしょうね。仮面たちは。さて、一体何を負っていたのか。謎です。

    レン君はいろんな意味で不憫なのです。
    お父様もいろんな意味で不憫なのです。
    会ってみたら超★そっくり!な事態になりそうなのを想像してください。

    レン君お許しはいりました――ッ!!

    肌に悪い…確かにそうですね。気をつけます。では、今日も速めに投稿して早めに寝ます。

    2009/11/25 17:27:55

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