第一章 第三話




「兄さん・・兄さん・・がくぽにいさぁあああああん!!!!!」

「グミさん・・・っ!」



レンは泣きわめくグミを強く抱きしめて、涙をこらえた。

そうだ、泣いちゃいけない。

自分は泣いちゃいけないんだ。



グミの苦しみを完全に理解することのできない自分は泣いちゃいけない。


レンはそう何度も心で呟きながらグミを強く抱きしめた。



グミはしばらく泣き続けた。





++


「ご、ごめんねレンくん・・・。」

「ううん、いいよ、グミさん。」

「ありがとう。じゃあ、私ミクちゃんが心配するから帰るね・・」

「あ、送るよ」

「え?平気だよ・・?」

「だめだって、送るよ、ほら、もう暗いし」

「でも、その、リンちゃんが待ってるんじゃないの?」

「もう帰ってる、大丈夫」





その時、俺はどちらを選べばよかったのだろう。


大切な、大切な二人。



一体、どちらを選ぶべきだったのか。






工場付近 PM8:00



「あれ・・・通り雨?」


ぽつり、とほほを伝うしずくを指で拾い、リンは空を見上げる。


どうやら通り雨のようだ。


「さすがに・・・雨の時に攻撃はこない・・よね・・?」


リンは歩くスピードを少し落とした。


今日はレンが工場まで迎えに来なかった。

理由はなんとなくわかる。


きっと・・・・。



「っう・・・・ひぐっ」



無意識に涙が止まらなくなる。

リンは涙を必死にぬぐい、ぼやけた視界のまま商店街を歩いた。


その時、




ウ―ウ――




聞きなれた、あの音。




「く・・空襲警報!?」




顔をあげたとき、もう遅かった。




米軍のミサイルが、リンめがけて降ってきたのだ。





―レン!!!!!!









青果初音 PM8:15



「空襲警報は・・・?」

「もう止まったみたいだ」

「そっか、よかった」




グミとレンは肩で息をしながら、店の壁に背中を預ける。


商店街の入り口で空襲警報が鳴り響き、急いで駆け出したのだ。

涙はすっかり枯れてしまった。




「ハァ・・ハァ・・それじゃあ、俺リンが心配だから行ってくるね」

「うん、気をつけてね、まだ米軍の飛行機がいるかもしれないし・・」

「わかってるよ!じゃあ!」




レンは力強く地面をけった。



空襲警報を聞いた時、どこかで爆音が鳴り響いた。

それも、工場の近く。


おそらくリンは自分が迎えに行かなかったことで、察し、急いで帰宅しているはず。

それならもう家にいるはず。



しかし、レンは気づいていなかった。




―通り雨、という落とし穴に








工場付近 PM8:30



「うぁ・・っ・・・ぁああああ!」


リンは焼けるように熱い足を押さえ、そのあまりの痛みに叫んだ。



間一髪、直撃は免れたが、ミサイルの爆発に巻き込まれた。

そして、右足をやけどした。



赤くやけどした右足を押さえようと手を伸ばすが、傷口のあまりの熱さに手を離す。

レンがくれたお気に入りの靴下。

カイトが一生懸命働いて買ってくれた大好きな靴。

そして、メイコが靴下にしてくれた花の刺繍。


すべて、焼けてしまった。


そんな異様な自分の足に吐き気を感じながらも、必死で助けを求めようと地を這った。



「うっ・・レン・・助けてよ・・レンンンンンンン!!!!!」



何度も痛みに顔をゆがめ、空に向かって叫ぶ。

いるはずもない少年の名を何度も何度も叫んだ。




その時、




「リン・・リン!?」



ようやく工場付近まで戻ってこれたレンの姿。

リンは安堵から少しだけ口元を上げる。

しかし、すぐに苦痛で歪む。



「リン!お前・・足・・!!」

「大丈夫・・大丈夫だから・・・」

「大丈夫じゃないだろう!とりあいずこれ・・ハンカチで傷口ふさいで」

「う・・・・ん」

「じゃあ、おぶるから、走るよ」

「わかった」




レンはリンを担ぎ、全速力で走りだす。

あぁ・・なんで自分がついていなかったんだ・・・!


ただ強く後悔をした。


そして、これが導火線に火をつけることになる。






「ハァ・・・ハァ・・!めーこ姉!!!!カイト兄ィイ!!!」



居間で放心状態だった二人の耳に、レンの叫ぶような声が届く。

そして二人は現実に戻された。


メイコがあわてて玄関へ向かえば、そこにはボロボロと泣きながらリンを抱えるレンの姿。



「レ・・ン?」

「めーこ姉・・リンが・・リンがぁぁああああ!!!」



その言葉を聞いた瞬間、後ろに担がれているリンの右足に視線が行く。

白いハンカチを染める鮮血。

ハンカチでは隠しきれないほど大きなやけど傷だった。



「俺が・・・俺がついていなかったから・・リンが・・リンがぁああ!!」

「落ち着きなさいレン!」

「どうしたのめーちゃん!?え・・・リ、リン!?」



メイコの声を聞いてあわてて今から飛び出してきたカイトの瞳に映ったのは、

顔を真っ青にして、右足を赤に染める少女。




「リ・・・・ン」




カイトは赤紙を握りつぶし、涙を流した。





もう、崩壊は始まっているんだ、



はやく、気づいてくれ。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

【オリジナル小説】Il cielo che funziona~走る空~【act1.case3】

第三話!
もうすぐ一章が終わります!

閲覧数:324

投稿日:2010/07/09 23:28:29

文字数:2,250文字

カテゴリ:小説

  • コメント1

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  • lunar

    lunar

    ご意見・ご感想

    こんばんは。lunarです。

    ・・・眠い・・・(開口一番それ?
    すいません、最近寝不足・・・?らしくて・・・眠い・・・。でも白ノ書き上げないと・・・刀語始まっちまう・・・(結局の所其れが目的かい

    うわぁ、リンが、リンがぁあああ!(落ち着けし
    絶対痛い、所じゃないですよね。身を、己の身を生きながらにして焼かれる痛みは私達には、今を生きている私達には到底理解出来ないですよね。一生消えない傷、一生癒えない傷、一生消える事無く、残り続ける心の傷。
    でも、人間って大切な人を、選べませんよね。どちらが大切、じゃなくて、どちらも大切、だから。レンはそういう意味では優しい子ですよね。優しすぎて、自分を責めすぎない様にして欲しいものです・・・。

    ・・・なんか訳の分からない言葉をつらつらと並べて申し訳御座いません・・・。私よりも年下だったのですね・・・。あれ、て事は・・・今中三・・・?
    あの・・・受検h(ry

    なんでもないですごめんなさい。

    これから、どんな風に話が進んでいくのか、楽しみです。願わくば、皆が幸せになれます様に。
    それでは。

    2010/07/09 23:38:07

    • りお@黒えんぴつ

      りお@黒えんぴつ

      あわわわわわわ!お返事遅れてすいません!
      テスト期間で^^;

      寝不足ですと!?私と一緒ですね・・
      最近ますます夜行性になりつつありますw

      もともとはリンではなくルカがこうなる予定でしたが、カイトに行く決心をつかせるほどのダメージならリンがいいかなーと思いこうなりました!
      そうですよね・・。私なんてちょっとの火傷でも痛い痛い言いますけど、彼女たちの痛みに比べれば・・・。理解できないからこそ、知る必要があるんでしょうね・・。

      そうですよね。やっぱりどっちも大切だから・・・。レン君は自分を責めながらも、たくさんの人に支えられ、強くなっていく予定です!レンの成長物語的なものなのでw

      ふっふっふ・・中3でございます!
      塾の合間に書いたものを投稿してます・・!
      なのでいつもこの時間しかパソコンが開けないという現状・・・!!
      受験はやく終わらせてしまいたいですorz 

      みんなが幸せになれる結末を作るよう頑張って想像力働かせようと思います!!!

      2010/07/13 00:04:56

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