ある平日の昼下がり、セミの鳴き声が外の景色を包んでいた。
レンはベランダに座りながら、その暑さと煩さに少しうんざりしていた。
手に持ったゲームにも、いまいち楽しめないようだ。
「あ~づ~い~…」
「うるさいよ、カイ兄」
そして側には、先程から「暑い」としか言わない青い兄が寝そべっていた。
その存在が、うんざりした気持ちに拍車をかける。
(これなら僕も、買い物に行けばよかったなぁ…)
メイコとミク、リンにテト。
女性陣は皆して仲良く、買い物に出掛けていた。
レンも誘われたが暑さに外に出る気力すら削がれ、家に残る事にした。
それに女性の中に男が一人という状況が、レンには何か嫌だったのだ。
皆が出掛けた後に、しばらくしてカイトが起きてきた。
服装はいつものではなく、タンクトップに半ズボンとラフな格好をしている。
愛用のマフラーも着てない様子から、現在の暑さがうかがえた。
「レ~ン…、あづい~」
「…僕にどうしろと?それにマスターはこの暑い中で仕事してるんだから、少しくらい我慢しなよ」
家主であるレン達のマスターは、今日も今日とて出勤中である。
こうやって少しでもだらけられている自分等はまだマシな方と、レンはカイトに言葉を投げ掛ける。
「クーラー点けようよ」
カイトがそう訴えるが、レンはそれを却下した。
「ダメ。電気代だって馬鹿にならないんだから、少しでも節約しないと」
世間が不況の今、マスターの稼ぎは良いとは言えない。
その稼ぎで、マスターを含めて七人で生活しているのだ。
節約してどうにか、生活は成り立ってるような物だった。
「でもさぁ…」
「あんまりしつこいとカイ兄のアイス、天日干しにするよ?」
そう笑顔でさらっと恐ろしい事を言う弟に、カイトは口をつぐんだ。
カイトのだれてる様子を見て、レンは溜め息をついて立ち上がった。
「…どうしたの?」
カイトが質問するが、レンは答えずに部屋の奥に向かって行った。
弟に無視された寂しさと弱まる様子のない暑さに、ますますカイトはだらしなく床に身を預けた。
身動き一つせずこのまま溶けてしまいそうだとカイトが考えてると、突然首筋に冷たい感覚が走った。
「わひゃあっ!?」
情けない声を上げて身体を起こして振り返れば、レンが冷水の入ったペットボトルを持ってカイトに差し出していた。
「はい、少しは涼しくなるよ」
「あ、ありがとう…」
カイトは戸惑いながら、それを受け取る。
手にひんやりとした感覚が広がり、それだけで暑さが和らいだ気がした。
レンは先程まで座っていた場所に戻り、蓋を開けて中の水を飲んだ。
カイトも蓋を開いて、冷水を口から体に流し込む。
体の内側から冷える感覚に浸っていると、じわじわと汗が滲み出てきた。
するとすぐ側から風が流れて来て、滲み出た汗でそれがとても涼しく感じられた。
風が来た方を見れば、レンが団扇を持ってカイトに向かって扇いでいた。
「クーラーが無くても、十分涼しいでしょ?」
そう無愛想に言う黄色い弟を、カイトはつい可愛いと思ってしまった。
「…なにニヤついてんのさ」
そう言って睨みながらも扇ぐ手を止めない辺りが、レンらしいと言える。
「いや、可愛i「アイス天日干しにすんぞ?」
「すみませんでした」
調子に乗った発言を見事に一蹴され、怒気を含んだ言葉を投げつけられた。
こうやって優しくされてるのに不満はないし、レンの機嫌を損ねるのも得策ではない。
そう考えてカイトはまた床に寝そべり、黙ってその優しさに身を委ねる事にした。
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