9
――曲が終わって、荒い息をつく。
他のメンバーはともかく、客席からの歓声は、俺の耳にはあまり届かなかった。
のどを鳴らして、ふるえそうになる両手を握っては開いて握っては開いて、落ち着かせようとする。
なんで、こんなに緊張してるんだろう。
……そんなの、考えるまでもない。
次が、あの曲だからだ。
もちろん、あの曲ももう飽きるくらい練習しているし、何度も何度もステージで演奏している。余程のことがなきゃ、失敗なんてするわけない。
だけど、問題なのは失敗するかどうかじゃない。
この曲は、彼女が納得できるクオリティでなければならない。
失敗しないのは当然。その上で、上手だというだけではない“なにか”を――コピーバンドとアーティストを分けるものを――表現できなければならない。
そういう意味で、この曲は試練と言うに等しい。
「えーと、次の曲は……」
ボーカルの声が、エコーと共にライブハウス内に反響する。
少し高めで芯の強い声だった彼女とはまた違う、ややハスキーで、それなのに力強くも感じる声。
ようやく出会った、彼女に匹敵できる歌声の持ち主。
「……このバンドを結成するきっかけとなった、メンバー全員にとって思い出深い曲です」
そう言って、ボーカルが仰々しい仕草で俺の方を指す。
「曲紹介は、リーダーから」
「……もう、五年前になります。親友が俺に遺してくれた、最初で最期の曲です」
顔をあげると、真っ暗な客席には人々がひしめき合っている。
その奥、客の一人と目が合う。
他の観客と違うのは、その雰囲気だ。ライブハウスの熱狂に染まることなく、その女の子は静かにステージを見てきている。
いや、あれは……俺を見てるのか?
そのつり目がちの瞳に、記憶の奥底がうずく。
まさか。いや、でももう――。
混乱する俺を知ってか知らずか、女の子は柔らかなほほえみを浮かべた。
俺をいたわるような、慈愛に満ちた――。
「みーくん?」
「っ! 悪リ」
急に黙ってしまった俺を心配してか、ボーカルがマイクを離して声をかけてくる。
あわてて謝り、改めて客席奥の女の子がいたところを再度見るが、そこには誰もいなくなってしまっていた。
にやっと笑みがこぼれる。
――そこにいるんなら、ちゃんと聴いてろよ。……みく。
「……聞いてください。Ghost Rule」
fin.
ゴーストルール 9 ※2次創作
第九話こと、最終話
ここまで読んで下さった皆様、ありがとうございます。
読んで下さった皆様の心に、なにか感じるものがあれば嬉しいです。
それが「曲とは違うよね」だった方々には、もう平謝りするしかありません。ひとえに自分の未熟さ故のものです……。
そして、楽曲を作曲、公開してくださったDECO*27様にも、最大の感謝を。この曲がなければ、この話は生まれることすらありませんでした。感謝してもしきれません。
こうして更新の最後に思い返してみると、みーくんの家庭環境についてもっと掘り下げて、みくとの出会いによって、それとの向き合い方がどう変わったのか、を書いた方がよかったのかな、と思ったりもします。
このままの話の流れでそれをやると、八話と九話の間をダラダラやることになるので、もっとうまく構成ができていればエピソードを挟み込む余地ができてたかな、というのが反省点でしょうか。
でも、みくの状況的にはどうあがいてもハッピーエンドにならなさそうな話にしては、すっきりと終えられたかな、と思います。
いつもの如くですが、次回更新予定はありません。
またオリジナル物につまづいたら、もしくは物語がふくらんでしょうがない楽曲に出会ったら、またここにやってくると思います。
その際は、もしよければまたおつきあいください。
また、例によっておまけがあります。
興味のある方は、前のバージョンをご覧下さい。
今回のおまけが一番苦労した気がします。おもに思いつくかつかないか、という点において。
一部例外はあるものの、毎度、物語を書ききってから、おまけ書くならなんだ? とあらためて考えているので。
誰から頼まれた訳でもないのに、なぜおまけまで必須としてしまったのか……。
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ピノキオPの『恋するミュータント』を聞いて僕が思った事を、物語にしてみました。
同じくピノキオPの『 oz 』、『恋するミュータント』、そして童話『オズの魔法使い』との三つ巴ミックスです。
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僕は悪い子だ...HNLC0036「君のおもちゃになってたまるか」
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失い果てて獲得していた残骸は
凍てついたざわめきを呈し煌めいた
始まったばかりの 痛みをただ見守って
終わらない心操 復讐をただ見つめていて
ありふれている日常に 既に 擦り切れていた
...Tuesday Anonymous
出来立てオスカル
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ご意見・ご感想
ganzan
ご意見・ご感想
あけましておめでとうございます。挨拶の時期が微妙でしょうか(--;
唐突ですが今回の話、めっちゃ好みです。とりあえず1話目で一旦止めておくつもりだったのが、つい全部読んでしまいました。
8話目、軽口の会話や、言葉もなしに「こつ然」とした別れからは、ドロドロな悲劇ではなく、線香花火的な切なさを感じました。効きますね、こういうのって。
9話目、主人公のバンドがどれくらいの地位なのか、そこがどういう舞台なのか、伏せられたうえで、始まりなのか終わりなのか曖昧な感じの締め方もすごく好きでした。最後のセリフでゴーストルールのイントロと一緒にエンドロールが流れそう。
タイトルと内容の絡め方も面白かったです。
しかし、周雷文吾さんの話に出てくる家族には割と毎回ビックリさせられてます。こんなことする奴ホントにいるんでしょうか!?…いるんでしょうね…。私が単純なせいか、このあたりで主人公側にガッツリ感情移入してしまうのです(みく側です。みーくん側はお母さんちょっと可哀そうでした)。この「ストレスの作り方」というか、読み終えて毎回上手だなぁと感じています。
主人公らの過去はチラリと匂ってくる程度でしたが、おそらく相当な胸糞(言葉悪くてすみません)なんじゃないかと気後れしてしまい、知りたいような、知りたくないような気分です。ゴーストルールの歌詞が如何にもですからねぇ。
> 路地裏から大通の向こうまで響くくらいの声。なのに、誰もこっちを見てくる人なんていなかった。
ここで「あっ」と気付いてしまい、鼻息を荒くした後でちょっと後悔しました。美味しいところのネタバレを見てしまった、みたいな…。あまり勘ぐって読むのも困りものですね。純粋さを補充したい。
これまでの小説より速いペースで読めるなー、と感じてましたが、説明文で書かれていた「会話劇にしよう」という個所で妙に納得しました。大きな違和感もなく、色々と想像で補ってしまうのも含め、むしろ馴染みやすかったです。
私が書籍の小説よりノベルタイプのゲームを多く読んでいる(?)せいかも知れませんけど(^^;
それでは、これからも応援しています。
2017/01/17 00:04:42
周雷文吾
>ganzan様
さらに遅いタイミングであけましておめでとうございます、文吾です。
>今回の話、めっちゃ好みです。
>ドロドロな悲劇ではなく、線香花火的な切なさを感じました。
一言で言うと、「予想外」
切なさを目指したのは確かなんですが、なんだかんだ、うまくいかなかったかも、というのが自分の評価だったので(汗)
「Alone」と「メモリエラ」を経て、ただ悲しいだけではないものを模索した結果なわけですが、そう言っていただけてよかったです!
>周雷文吾さんの話に出てくる家族には割と毎回ビックリさせられてます。
言われて気付く衝撃の事実。ワンパターンすぎるだろ俺……!
登場人物をしぼった結果、主人公のストレスの原因を考えると、親がヒドい、というパターンが作りやすい、という身も蓋もない理由ですかね……。
気を付けねば(苦笑)
>主人公らの過去はチラリと匂ってくる程度でしたが、おそらく相当な胸糞なんじゃないかと
たぶんそうですね(苦笑)
原曲で補完できる、というのもありますし、なにより「それ書いたらまた胸クソ悪くなるだけじゃね?」という理由で詳しく書きませんでした。みーくん側ならともかく、みく側だと解決しようがありませんし。
>ここで「あっ」と気付いてしまい、鼻息を荒くした後でちょっと後悔しました。
そこ、読み返してろくに伏線っぽいのがなかったので、最後の最後で追記したとこなんです。
ネタバレ前に気付いちゃって「あぁ?」ってなること、自分もよくあります(笑)
毎度、メッセージありがとうございます。
またここにお邪魔するときはご覧いただければ幸いです。
それではまた。
2017/01/22 10:05:26