『「何があっても、私の事をずっと愛してくれる人だって、そう信じてるんだ」
一週間程前、浅草のデートで彼に言った言葉を、私は何度も思い返しました。
私は確かに彼の前でそう言いました。けれど実際は、彼の事を信じきれていなかったのです。
だから勝手に一人で不安になり、勝手に動揺し、現実逃避し、苦悶することになったのでしょう。
所詮は私の言葉も嘘だったのです。それを裏付けるかのように、たった一つの光景を目にしたことで、私の心は実に簡単に揺らいでしまいました。
風にあおられた蝋燭の炎のように揺らめいて、消えてしまいそうになりました。
この言葉が本物であるのなら、こんな風に揺らいだりはしないのです。やはり、私の言葉は嘘であり偽物だったのです。
そんな偽物の言葉を吐いてしまった彼に対して、私は罪悪感でいっぱいになりました。
申し訳が立ちませんでした。信じているだなんて結局は戯言で、最後には疑っている。そんな自分が嫌になりました。
ある日、公園で彼は言いました。自分ではなく、ミクという名の女の子の方が好きだと。
初音ミク。その人は私の学校の生徒会長であり、その日は彼女もそこにいました。
彼女によれば、私は彼の二番目でした。本命が彼女で、私は彼にただ遊ばれていただけ……、恐れていた事が実態となって私に襲いかかりました。
信じられませんでした。今まで、彼は浮気なんて絶対にそんな事しないだろうと思っていました。
水と油のような組み合わせ、とでも言うのでしょうか。どうしても“彼”と“浮気”の二つは混ざり合わないのです。無理矢理に混ぜた所でいずれまた分離してしまう程、どうしてもそれは私の中ではくっ付きません。
彼が浮気性であるという性が本物であると誰かが断固として主張するならば、私はそれを全力で否定し、反論するでしょう。
でもその確かな自信も、彼女と彼のキスを目の前で見た瞬間に儚く崩れていきました。
私は二番目だったのだと完全に確信させられました。
私は彼の二番目……遊ばれていただけ……彼女の言葉が脳裏に焼き付いて離れません。
彼は一度も、私に本当の感情を向けてはくれていなかったのです。
遊園地に行った時も、私を抱きしめてくれた事も、キスをした事も。
全て偽物の感情だったのでしょう。本当の感情だと信じていたのは所詮は全て幻想だったのでしょう。
そして何より、私が忘れられなかったのは、彼の言葉でした。
彼女の事が好きで、しかも一番であると、私の目の前で告白したのです。
やはり私の存在なんて、彼にとってはただのお遊びにすぎませんでした。
否定したかったのですが、それが出来る精神力などもうありませんでした。
それに悲しいですが、彼が私ではなく初音ミクを取るのは、当然と言えば当然の事かもしれません。
初音ミクと私を比べれば、皆誰しもが初音ミクを選ぶはずでしょう。それは、人が呼吸をするのと同じくらい、自然の道理です。
彼女に比べたら、何もかもが劣った私を選ぶ者がいるわけないのです。それは彼も同じだったようです。
ただそれでも、彼だけには私が一番だと言ってほしかった……。
嘘でもいいから、言ってほしかった……。
彼の隣に、寄りそっていたかった……。
たとえそれが演技だとしても構いません。それでも彼に、もう一度抱きしめてもらいたかった……。』
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