!!!Attention!!!
この話は主にカイトとマスターの話になると思います。
マスターやその他ちょこちょこ出てくる人物はオリジナルになると思いますので、
オリジナル苦手な方、また、実体化カイト嫌いな方はブラウザバック推奨。
バッチ来ーい!の方はスクロールプリーズ。
「――オイ、おっちゃんの話聞いてるかい? VOCALOID・・・KAITO」
「え、あ・・・はい・・・」
しわがれた声に我に返ると、おそらく来てくださった警察官の中では一番偉いだろうと思われる男性が俺の顔を覗き込んでいた。私服であることから、刑事・・・捜査員なのだろう。眉間に皺を蓄えているその人は、白髪まじりの・・・・・・外見から言えば、少し柄の悪い頑固そうな人だ。年齢はもう定年間近といったところか。
その人は、凄みがあるものの、優しさを滲ませる声で話しかけてきた。
「お前さんの主人はそのお嬢ちゃんで間違いないな?」
男性の視線の先には、俺が支えているマスターの姿。あまりのショックに気を失ってしまったマスターは、俺の腕に身を任せたままだ。
「はい・・・」
小さく応えると、男性は頭を掻いて一つ息を吐き出す。そして、どこか苦々しい表情でマスターを見つめた。俺自身もそれに倣うようにマスターに視線を落とす。
「そうか、律ちゃんもこんなに大きくなったんだなぁ・・・そりゃ俺も年をとるはずだ」
無理をして笑ったように思えたその男性は、騒然とする辺りを見回して何やら指示を飛ばしていたが、そんな声を真剣に聞く余裕は・・・残念ながら俺にはなかった。隆司さんとあの男があんなことになって、マスターもこんな風に気を失ってしまって・・・俺にはもう、どうしていいのかわからない。全てが裏目に出てしまったのだ。
何を考えればいいのだろう。どう行動すればいいのだろう。こんな時、俺が人間だったならその答えはすぐに出たのだろうか。
俺は、何もできなかった。俺はマスターに、何も――何もしてあげられない。
事実を認めたくない気持ちが目をかたく閉ざす力に変わり、視界が黒に染まる。慌しい警官たちや野次馬の声がはっきりとは耳に入らず、まるで木々のざわめきのように届いている。そんな中、頭を撫でるその感覚にふと目を開いた。
優しいその手の感覚が隆司さんのようだったが、もちろんあの男を追っていった隆司さんがここにいるわけもなく、その手の先にいたのは・・・先ほどから俺たちを気遣ってくれる強面の警官。
ぐしゃぐしゃと俺の髪をかき乱し、男性はふっと元気付けるように笑った。強面に深く刻まれた皺が、男性の中の優しさをよく表している。ぽんぽんと俺の頭を二度ほど軽く叩いて手を離した男性は、事故のあった踏切の方を見つめて口を開いた。
「言っておくがな、お前さんが気に病むことじゃないさ。
起こっちまうことはどれだけ足掻いたって起こっちまうもんだからな」
おっちゃんもできればこういうもんは見たくねぇな、と軽口とも取れる言葉を吐き出して笑った男性は、返答のない静かな空気を嫌うように眉を下げて頭をかく。
慰めようとしていることぐらいは俺もわかっているが、どうしても元気に返事をする気分にはなれなかった。寧ろ、男性の言葉を聞くたびに腹の底へと苛立ちが募っていくようにも感じられる。声を荒げたところで、それが八つ当たりにしかならないとわかっているから抑えられているようなものだ。もしかすると、一見何を考えているのか知れないこの男性が、俺の逆鱗に触れるか触れないかというぎりぎりの距離を保っているからなのかもしれないが。だから、なのだろうか。不思議と、男性の言葉は筐体に響いた。ともすれば、そんなことはわかっていると悪態をついてしまいそうな言葉ばかりだったが。
ため息混じりに俯いた俺を見てどう思ったのか、またもや男性の手が頭を豪快に撫でた。
「終わったことを悩むのはやめときな。
悩むなら結果を受けてからにしねぇと、アンタの大事な人も迷うことになるからな」
今度こそ文句を言ってやろうかと思ったというのに、開いた口からは文句の一つも出てくることはない。その言葉には、文句を言わせず、俺を頷かせるだけの力があったのだろう。
笑みを浮かべた後で警官の顔に戻った男性は、何やら鋭い指示を飛ばしていた。何を言っていたのかはもちろん俺の耳にはほとんど聞こえていなかったが。
普通捜査官がこういう場に来るものではないと勝手に思い込んでいたが、そうではなかったのだろうか。案外頭の片隅は冷静なようで、そんな疑問が浮かんで消えた。
「――オイ、VOCALOIDの坊主! 賢いやり方は頭冷やして状況をしっかり把握してから考えな」
強面の彼は動こうとしない俺に少しおっかない声で言い、「おっちゃんに言えるのはそれだけだ。こっちのことは任せて家で待ってろ」とやわらかく笑った。「おっちゃんが後で連絡してやる」と、俺を元気付けるように付け足して。
――それから、どうやって帰ってきたのだろう。
本当は隆司さんのこともあの男のことも、気になっていたはずだった。あの後どうなったのか、本当に無事なのか――。
状況を確認したかったのに、結局何も考えられないまま戻ってきてしまったらしい。気付いたら俺は家の前にいて、いつの間にか負ぶっていたマスターは、まだ目を覚ます気配がない。
玄関先には女性がいて、俺たちを見つけた瞬間に血相を変えて駆け寄ってきた。もしかしてずっと外で待っていたのだろうか。俺たちが出てからかなり時間が経っているはずだが。
長い髪を靡かせて、彼女は心配そうな表情で俺を見つめる。
「酷い顔をしいてますね・・・大丈夫ですか?」
穏やかなその声は、彼女のマスターである隆司さんを思い出させる。自分の顔が歪むのがわかったが、どうすることもできなかった。言い表しようのない感覚が筐体中を襲っている。そのせいだろうか・・・妙に熱いのは。それとも、擬似感情の奔流にショートしかけているのだろうか。
「・・・すみません」
自分の耳にも入らなかった小さな謝罪の言葉。だが、ルカさんはそれすらも聞き取ったらしく、やわらかな微笑みを浮かべた後、「お話は中で」と玄関の扉を開けてくれた。
優しく促してくれるルカさんに続いて家の中を進む。マスターをベッドまで運び、自分たちはリビングへ。そして俺は、崩れるように椅子に座り込んだ。疲れを知らない体のはずなのにも関わらず、俺の筐体はこれ以上ないだろうと思えるほどの疲労感を伝えていた。筐体はそこら中から悲鳴のような軋みを上げていて、もう動きたくもない。それを察してくれたのか、ルカさんは何も言わずにココアを入れて俺の前に置いてくれた。
じっと俺が話し出すのを隣で待っているルカさんは、本当なら自分から尋ねたいのだろう。聞きたいことは山ほどあるはずなのだ。一緒に行ったはずの隆司さんがいないことも、何故マスターが眠っているのかも・・・全てわからないことばかりのはずなのに、何故俺を責めないのだろう。何故俺だけ無事なのだと尋ねないのだろう。俺だったら、尋ねてその答えを聞いたら・・・おそらく黙ってはいなかったはずだ。
「どうしてですか・・・? どうして何も・・・・・・いっそ、責めてくれれば楽なのに・・・」
どうしてと繰り返しそうになった時、視界から突然ルカさんが消えた。その後で、乾いた音と衝撃があったことに驚く。
視線をルカさんの方へ戻せば、彼女は俺を打った手を戻しながら真っ直ぐに俺を見据えた。
「――いい加減になさい」
その表情には、いつもの優しい微笑みは浮かんでいない。厳しさだけが、見えた。
言葉は一言だったが、『あなたはまた自分が楽になることだけを考えているのですか』と言われたような気がして目を見開く。
厳しさだけが見えるその表情・・・しかしそれもほんの数秒のことで、すぐにいつもの微笑みにかき消された。
「あなたがそんなに取り乱してどうします?
私の前でだけなら弱音を吐くのも構いませんが、
あなたがそんな状態でいて一番影響を受けるのは・・・あなたのマスターなんですよ」
優しく諭すような声色に、導かれるようにマスターの部屋の方へ視線を向けた。
そうだ、俺だけが辛いわけではない。何も聞かされずにここで待っていたルカさんだって辛いだろうし、何より自分の目でその瞬間を見てしまったマスターが一番辛いに決まっている。
今は、マスターには俺とルカさんしかいないのだ。
ぐっと歯を噛み締めたところで、ふと頭を撫でられた。
「今は構わないですよ。律さんが起きるまでは、私があなたの支えになります」
ルカさんは「ですから、私の胸で泣いてもいいですよ」と付け足して冗談っぽく笑う。優しさが、胸を打った気がした。
彼女自身は冗談のつもりで言ったのだとわかっていたのだが、泣けないにも関わらず、俺は何故だかルカさんの肩に頭を預けて目を閉じていた。何故だったのか、自分でも本当にわからない。気付いたら俺はそうしていた。ただわかることは・・・泣くことができたなら、俺はこの時、本当に泣いていただろうということだけだ。
「ちょっとだけ・・・」
「えぇ、わかっていますよ」
体温というものはわからない――寧ろ自分も彼女も本物の命を持たないものだからわかるわけがない――はずなのに、頭を撫でるルカさんの手はとても温かく感じて、気持ちが不思議と落ち着いた。
俺は弱い。どうしようもなく、弱い。だが、こんな俺でもマスターに影響を与える環境の一つであることにかわりはない。良くも悪くも、俺の行動はマスターに影響を与える。隆司さんがああしていつも余裕を見せていたのは、おそらくマスターを護るためだ。俺もそうありたいと思っていたのに・・・もう忘れるところだった。
それに、何もまだそうと決まったわけじゃない。だから・・・もう少ししたら、全て話そう。おそらくルカさんも心配だろうから、それだけは伝えておかなければ。向こうで何があったのかを全て――。
→ep.40 or 40,5
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