私はただの一夏の噂だった・・・。


夏祭りの明かりがゆらりと見える季節。

「裏山の小道のトンネルの向こうに古びた屋敷があって、そこに夜な夜な首を吊った女の子の幽霊が出るみたいだぜ・・・」

「おい、マジかよ、行ってみようぜ」

好奇心で立ち入る人達。
軋む階段、揺れる懐中電灯。

「おいおい、やっぱり出るわけないだろう?」

「そうだな・・・帰ろうか?」



ここに居るのに、誰も気づいてはくれないや・・・。



私は死んでない!!

でも、なぜあの人達は気付いてくれなかったの・・・。



夜な夜な立ち入る人達、みんな私に気付くことはない。


なぜだろう・・・。
私にはここに居る意味が分からずに、そして帰る場所も思い出せずにここにいた・・・。

・・・止まった針は埃かぶって、時が止まっている。

そしてまた立ち入る人達に「ここに居るよ!!」と声枯らして叫んでも、気付いてはくれず・・・。


明日という朝日が窓に写りこんでも、私はここにいます・・・。



季節を束ねた、虫の声、夕立。
流れた灯篭、神様の悪戯のよう・・・。


迷い込んできた灰色の猫を「あなたも私が見えないの?」と言って撫でてみる・・・。

・・・するりと抜けた手は虚しく空を掻いた。



私・・・死んでたのかな?と過去の糸を手繰ってみても、些細な辛いことも家族の顔も思い出せなくて・・・。

遠くに見える家並みの明かりや、打ち上げ花火を見上げ今をごまかす。



ある日の昼下がり。

幽霊屋敷の少女の噂も薄れ、立ち入る人も少なくなった。
私自身、私が幽霊なのか、生きているのか分からなくなっていた・・・。



「今年はあの子の初盆ね・・・」

この屋敷に昼から立ち入る人がいた・・・。

「・・・!?」



お母さんだった。



私に泣きながら語りかける様に線香に火を点け、私の大好きな食べ物をお供えしていく・・・。

少しずつ涙と共に少しだけ思い出した。



私あの時に・・・。

漂っては薫る線香の煙と一緒に、姿は透け、やがて消えゆく・・・。


意識は影法師になった 。


誰も見つけてはくれなかったけれど、私の記憶の片隅にあるかつての淡い日々の、一部となって残り続ける 。

もう切らした向日葵の歌に蝉しぐれも亡き。



夏の匂いだけ残る屋敷に、少女はもういないだろう。



六月初めに生まれ、八月終わりに遠退いていった私の噂話・・・。


ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

幽霊屋敷の首吊り少女

トーマさんの「幽霊屋敷の首吊り少女」を自己解釈化しました。


いや~、すっかりピアプロではお久しぶりになりました。

今まで同人誌を作ろうというコラボ活動をやっていて、リアルでは忙しくて、曲の自己解釈や二次創作はモチベーションが上がらなくて・・・。

とにかく書けませんでした。

この歌で、廃墟に立ち入る表現がありますが、絶対に素人が面白半分で廃墟に立ち入ることは危険ですのでやめて下さいね。・・・特に深夜。

あ、ごめんなさい。中学生の頃廃墟マニアだったんです(え?

まあ、とにかく読んで頂きありがとうございました!!

閲覧数:609

投稿日:2012/08/29 09:01:02

文字数:1,034文字

カテゴリ:小説

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  • Seagle0402

    Seagle0402

    ご意見・ご感想

    なんだか切ない話ですね…
    曲も聴いてみようと思います。

    2012/11/23 22:56:10

    • 駄駿(Dashun)

      駄駿(Dashun)

      ありがとうございます!!
      原曲の方がはるかにいいですよw

      2012/11/25 11:45:16

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