!!!Attention!!!
この話は主にカイトとマスターの話になると思います。
マスターやその他ちょこちょこ出てくる人物はオリジナルになると思いますので、
オリジナル苦手な方、また、実体化カイト嫌いな方はブラウザバック推奨。
バッチ来ーい!の方はスクロールプリーズ。
――あれは、いつのことだっただろう。
拭き掃除をしていた時、誰かに押されたようにバランスを崩し、私は・・・同じクラスの女の子にぶつかってしまった。謝る声はきっと、ぶつかってしまった彼女の耳には届いていなかったのだと思う。
顔を上げた瞬間に勢いよくバケツから放たれた水は、私の胸元に直撃して飛沫を上げた。汚れた雑巾を洗っていた水だったから、埃や砂や・・・いろんなものが混ざった嫌な臭いがする。
衝撃とひやりとした感覚は、服で隠されていたはずの肌を直に撫でた。全身ずぶ濡れだ。
飛び散った水のせいで前髪からポタポタと滴り落ちる雫を呆然と見つめる。彼女は、その向こうで笑っていた。
『きったなーい。でも、上条さんにはお似合いだよねー』
消え入りそうな謝罪の言葉は、自分の耳にしか入らない。
見ている皆が笑っている。心配そうに見ている人たちがいるけれど、誰も声をかけてこない。でも、それはそれでいい。だって誰かが私を庇ったら、庇ってくれたその人にまで迷惑をかけてしまうから。被害が自分だけなら、自分が我慢すればいいだけのこと。自分の身から出た錆だから、自分で何とかしなくちゃ。
――ずっと・・・ずっとそう思っていた。
私がドジだからいけないのだと。私が皆と違うから、何もできないから、すぐに人を苛立たせてしまうから・・・だから、全てはそんな私の責任。そう思って、隠し続けてきた。
私がいけない子だから、皆はそれをなおそうとして怒ってくれる。いじめという形に見えるかもしれないけれど、それはきっと私がちゃんと受けなければならないことだから。私が誰かに言ったら、彼女たちが怒られてしまう。それが嫌で、ずっと隠していたつもりだった。
隠せていたはずだったけれど・・・やっぱりあの人に隠し事なんてできるわけもなかった。
『律は、人に優しすぎるし・・・自分に厳しすぎるね』
いつだって私の味方で、ヒーローだった。大好きで大好きで、いつも一緒にいられることがとても幸せだった。何も言わなくても全てわかってくれるあの人が・・・そして、司くんが一緒にいてくれるだけでよかった。
『律』
名前を呼んでくれるだけでもよかった。あの人と司くん、二人がいるだけで私は強くなれる気がしたから・・・ううん、生きていく力をもらえたから。
――なのに、どうして行ってしまうの。
『さよならだ』
告げられた言葉は優しすぎて、涙が溢れる。それはもう二度と会えないという宣告。
『律のこと頼む』
追っていく背中が徐々に遠くなって、胸が締め付けられるように痛い。
ねえ、どうして二人とも私から離れていくの。私のどこかが悪いならちゃんとなおすから、お願いだから行かないで。どうしてみんないなくなってしまうの。大好きな人たち、みんな・・・私から離れていってしまう。
私がいけない子だから、神様は私が幸せになることを許してくれないの?
じゃあ、どうしたらいいの。どこをなおせばいいの。自分ではわからないよ。全てが全て、いけないような気がしてしまう。
どうして・・・どうして私はいつも何もできないの。一人何も知らず、ただ守られて生きていくことしかできないなんて・・・そんなの嫌なのに。それなのに、二人がいないと私は駄目になってしまう。私はきっと生きていけなくなる。それとも、神様はそれを望んでいるの? いつまで経っても変わることを恐れて前へ進めない私だから、この女はもう駄目だと諦めてしまった?
「――さん・・・っ、司くんっ!!」
叫ぶ声は酷い有様で、辺りに響くこともない。
ずっと私を見守ってくれていた人が二人ともいなくなってしまったら、私はどうやって生きていけばいいんだろう。誰の手をとって歩けばいいの。誰の背中を道標にして歩いていけばいいの。一人は嫌だよ。怖いよ。いらない子だって言われてもいい。ダメな子だって思われてもいい。気に入らないところがあるならどうにかしてなおすから、叱っても罰を与えても構わないから・・・!
「一緒に、いてよ・・・っ・・・!」
生暖かい涙が頬を伝って落ちていく。
私が佇んでいる空間はどこまでも真っ白で、果てが見えない。自分の体すら見えないほどの濃霧に紛れてしまったかのよう。それは、暗闇よりも怖かった。見えているのに何にも届かないような気がして。誰も、もう戻ってこないような気がして。自分の声さえ響かずに消えるこの場所は、何だかとても怖かった。本当の闇の色は、きっとこんな色をしているに違いない。
誰でもいい。誰か、助けて。
涙が次から次へぽろぽろと零れ落ちる。それがわかるだけまだマシかもしれなかったけれど、それを拭おうとする手が全く見えないのは更に恐怖を煽った。まるでこれから歩む道のようで。私は、本当にこんな道を一人で歩いていけるんだろうか。
「・・・・・・無理、だよ・・・」
確かに呟いたはずの言葉が、自分の耳には届かなかった。今この場所で佇んでいる私は、きっと震えている。見えないけれど、一歩も動けないままで寒さに震える子犬みたいに違いない。
過保護な家庭でぬくぬくと育ってきた私は、飼いならされた犬猫と同じ。飼い主がいなくなってしまえば、食べるものにもありつけず、何もできないまま死んでいく。だって、彼らがいない世界は広すぎて怖い。知らないものは全て恐怖を育ててしまう。
私と出会って、私に接して、変わってしまう『人』が怖い。そして私は、そんな変化が怖い。変わりゆく街並みも、人の感情も、何もかもが怖いの。あの人が変わってしまったように、皆きっといつか変わってしまう。司くんだけは変わらず一緒にいてくれたから・・・だから耐えていられたのに。
――もう、疲れたよ。
その場にへたり込む。思いのほか、地面は冷たかった。今太腿を濡らしたのは涙だろうか。じわりと広がる濡れた感覚。
堪えていた声が漏れそうになったその時、どこからか声が降ってきた。
『――な』
はっとして辺りを見回すけれど、真っ白な闇は私を包み込んでいて何も見えない。誰の声だったのだろう。とても優しい声。男の人だったような。
「つかさ、くん・・・?」
『 』
尋ね返すと微かに返ってくる声。さっきより微かにしか聞こえない。それなのに、何て温かくて優しいの。
弱音ばかり吐いている私を今までどおり導いてくれるというの?
「司くん・・・」
呟いた瞬間、腕を引っ張られて抱きしめられた感覚がした。ぎゅっと抱きしめてくれる・・・その温かさに、安堵の涙が溢れてくる。司くん・・・司くんだ。
頭を撫でてくれる手に目を閉じ、もう一度開くと、真っ白な闇が晴れてきた。徐々に色がついていく世界。その時はじめて、これが夢だったのだと気が付いた。
きっと、もう目が覚める。急に何かに引っ張られるような感覚を覚え、私はそれに意識を委ねた。そこに、大切な人たちがいることを願いながら。
→ep.40
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