暑い。
当たり前のことを口に出すことを、僕はあまり好いていない。
けれども、今、このときは少しでも沈黙の中に居たくなかった。
「暑いねぇー。」
隣で目の前の水面を眺めながらつま先を濡らしている彼女が、うんざりしたように呟く。
日焼けの痕を嫌う今時の女らしく、彼女の肌は白い。
それだから、目立つ。
冷たいペットボトルの炭酸を飲み干す喉に、プラスチックを掴む白く細い手首に、首筋に1つだけ残った赤い痕に。
僕の目が吸い寄せられて。
河川敷というよりも川岸、蒼く澄んだ水に飛び込みたい衝動に駆られる。
上がった体温を隠したくて、隠したくて。
「事故、だよね?」
彼女が僕に投げかけた言葉は暑さを切り裂いて僕の体温を下げる。
少しの安堵と、大きな落胆。
「そうだよねぇー、私とレンが恋人同士なんて考えられない!」
僕だって、そう思ってた。
でも、脳裏には彼女の笑顔と体の線と―なにより、『欲しい』という感情が張り付いて離れない。
「なぁ、せっかく来たんだから泳ごうぜ。」
「え、私水着も何も着てないよ?」
「いいじゃん、どうせ宿まで近いしさ。せっかくこんなきれいな川、向こうに戻ったらないぜ?」
「ちょっと、レンッ・・・・うわぁっ!」
白い手首を掴んで蒼いはずの水に飛び込む。思ったより冷たくて、蒼くない。―透明な水のなかで空気の泡がはじけて消えた。
ぼおっとした頭で酸素を欲して、冷たい世界から外へ出る。
「はっ・・・ぷはぁっ!」
「なっ・・・けほっ、なにすんのよ!」
「ははは、ごめん。」
彼女の正当な抗議を受け流して、笑う。
「あー、もう最悪。こうなったら泳ぐしかないじゃない。」
「そのつもりだったんだけど?」
今度は抗議じゃなくて、水しぶきが飛んできた。彼女の笑顔が透明な液体でかき消される。
僕は笑って、持ってきていたゴーグルを彼女に投げて渡した。
それから、ずっと泳いだ。楽しい時間。僕がもう二度と戻らないと思っていた、トモダチとしての彼女との時間。
楽しい、楽しい。自分に言い聞かせるようにはしゃいで、笑って。
「あー、楽しい!」
彼女の言葉には心の底から同意したいが、心のどこかがそれを否定する。
また、このまま?
「ちょっと!レン、どうしたの?」
「いや、別になんでもないんだ・・・。」
気取られないように、分からないように。楽しそうに、僕は僕自身を作りあげる。
「ならいいけどさ・・・、向こうのほう行ってみようよ!」
「あんま遠く行くなよー!」
僕の言葉をあまり聞かないで、透明な水に飛び込んで行った彼女を追って、僕も熱から逃げるように飛び込む。
ゴーグル越しの水中は、まるで楽園か天国のように美しい。
「はっ・・・、オイ、どこいったよ・・?」
僕より先に飛び込んだはずの彼女の姿が見えない。酸素がいらない体でもあるまいに。
「オイ、オイッ!?」
最悪の結末―彼女が溺れているという可能性に気が付いたのは、その3秒後だった。
肺を熱い空気でいっぱいに満たして、透明な楽園へ飛び込む。楽園?―エデンは死者だけのものではないはずだ。
蒼いはずの水は透明に澄んだまま、ゴツゴツした岩肌を見せている。
熱い日差しが差し込む水中はまるで天使のお迎えのような美しさ。
彼女を向こうにはやりたくない、その想いだけで酸素を欲しなくなる体で深く、深く楽園へ潜っていく。
白い肌が、一瞬だけ視界でチラついた。
「!?」
びっくりして酸素が口からボコボコと音を立てて泡になり消える。
もっと、もっと深く。彼女を見つけた、見つけたんだ!今、確かに!
希望が湧いてきた心の中に比例するかのように、水中が一層綺麗に輝いた。
金色の水に浮かびあがる、彼女の白い肌。
酸素が漏れ出すのも構わず、がむしゃらに水をかいて白い手首をつかんだ。
最後に僕が楽園で見たのは、少しびっくりしたような彼女の顔だった。
無理やり水中から立ち上がった彼女を引き寄せて、腕の中に抱いた。
「ぷはあっ・・・げっほ、ど、どうしたのレン・・・?」
すこしだけ焦ったように上目使いに僕を見上げる彼女の体温は、昨日より冷たい。
「ごめん、今はこのままで・・・このままでいさせて。」
きょとんとした顔の彼女の顔を肩にうずめさせて、背中に太陽を感じながら。
もう、戻れない。自分の気持ちに気が付いた時点で戻れる訳もない。
それは、昨日の夜に僕が自分の身をもって体感した事実だ―彼女の首に痕をつけた瞬間から。
僕は、自分自身の手で、楽しい時間と美しい楽園からの追放を望む。
「好きだ・・・。」
そして、事故なんかじゃない、2回目のキスをした。
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