かわいらしいテディベアが、テーブルの上におかれている。
横目でそれをちらりと見て、リンは深くため息をついた。オーディションがあった比からいつか、そろそろ結果がきてもいいころだ。やっと、終わったのだ、と言う実感がわいてきた。
メイコの名前で登録してあるはずだから、メイコのところに結果の通知が届いているのだろうか。今からメイコの家に行ってみようか。いや、そんなことをして、もしも悪い結果だとしたら、メイコはひどく落ち込んでいるだろうから、そんなことはしたくないし…。
悶々と考えをめぐらせていると、携帯電話がバイブレーションを始めた。ブブブ、ブブブ、と音を鳴らしながら小刻みに震え、テーブルの上で少しずつ動く。携帯電話を取り、開くと、新着メールが一件。
メールの内容は、いつもと変わらない。『活動拠点に集合』。
急いで携帯電話と財布をかばんに放り込んで、パーカーをきて、帽子を乱暴に取り上げると、かばんを持ち、部屋を飛び出した。
すぐに鍵を忘れたことに気がついて、部屋に戻ってくることになったが…。
「皆、早い」
リンが部屋についたころにはすでに全員が緊張した面持ちで、正座してリンを待っていた。
メイコがかばんから封筒を取り出し、ゆっくりといった。
「まだ私も結果は見てないわ。いい、どんな結果でもポジティヴにね、自棄になったりしないでよ」
「わかってるよ、めーちゃん。早くあけて。ドキドキして、息が止まりそう!」
カイトが音をあげたので、メイコは少し困りながら、封筒から紙を取り出すと、一度つばを飲み込んで、折りたたまれた通知容姿を開いた。
「よ、読むわよ」
「うん…」
空気がなくなってしまったように、息苦しくなる。
「『この度は…』」
「結果だけ読んで!」
「『今回の結果は、合格です』」
「合格!? 不、って抜けてないよね?」
「大丈夫よ、私、まだ目は悪くないもの!」
「二人とも、落ち着いてっ」
あわてようがものすごいメイコとカイトをなだめながら、ミクは先ほどからしきりにきょろきょろと辺りを見回している。
「どうしたの、ミク姉」
「いや、ドッキリカメラかな、って」
「皆もうちょっと自分に自信を持とうよ!」
最終的に突っ込みを入れたのはリンだった。常にボケ担当のリンに突っ込まれたのでは、世も末だ。
どうにか荒くなった鼻息を整え、全員で冷静になって話し合った。
「不合格の間違いじゃない。ドッキリでもない。じゃあ、どういう手違い?」
「ひとつ後のバンドと間違ったんじゃない」
「そうかも。なれた感じだったよね」
「送り返す?」
「そうしようか」
「皆まだ混乱してるの! 手違いを前提とするの、やめようよ!!」
「あ、あぁぁ…」
微妙な感じで頷いて、封筒を置くと、一度深呼吸をした。
息を整え、落ち着くと、ルカが言った。
「手違いではありません。私たちの実力です」
「そうかな、本当に?」
「ええ、私たちの実力が認められたのです」
ぱぁぁっとミクの表情が明るくなって行って、最後には顔を真っ赤にまでしていた。
そして、ルカがその続きを読み上げた。
「『つきましては、テレビ出演の日時を…』」
どんどんと現実味を帯びていく、『合格』の二文字の重さに、やっとリンも気がついたらしく、次第に言葉少なになっていった。
「兎に角、これで、一山超えましたね」
「本当。もうこんな思いはしたくないわ。寿命が五年は縮んだわね!」
「俺、八年」
「あ、じゃあ、私十年!」
「競りじゃないんだから」
やっとカイトが突っ込みをいれた。なんだかしっくり来る。やはり、リンが突っ込むよりも、カイトが突っ込んだほうが、慣れている分、安心できるらしい。
「次も、がんばろう」
誰からともなくそんな言葉が聞こえた。
「勿論」
誰、ではなく、誰もが、そう微笑んで答えたのだった。
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