「せっかく、いろいろ考えていただいて、残念ですけど」
ミクさんは、そう言って、笑った。

「は?」
オサカモトさんは、いぶかしげに彼女を見返す。
「どういう意味ですか?」
2人の間に、少し、気まずい空気が流れた。

ミクさんがさりげなく、でもハッキリと言い放ったので、れおんさんは思わず2人の顔を見やる。

「どういう意味って、その通りの意味です」
ミクさんは続けた。
「“リンリン・はっちゅーね”に関しては、この間の“ガチャ”の商品で、お仕事は終わりにしましょう」

納得がいかない調子で、オサカモトさんは聞き返した。
「どうしてかしら。何か、私たちのプランに、気に入らないところでもあるんですか?」


●そういう流れができているの

ミクさんは、静かに続けた。
「まず。“はっちゅーね”は、別に世の中を動かそうと思って、作っているドールじゃないの。人形が好きな人に、ホントに喜んで、育ててもらいたい商品なのです」

彼女はほおずえをついて、にこやかに続ける。
「それから、リンちゃん。彼女が“はっちゅーね”を好いてくれて、そして、彼女のファンの男の子たちも、同じように“はっちゅーね”を好いてくれる。いま、せっかくそういう流れができているの」

ミクさんは、さっきソラくんが運んでくれたエスプレッソのカップを手にとった。
「そしてそれは、別に、次のステップに繋げるための、準備期間では、ないはずよ」

オサカモトさんは、首をかしげた。
「よく、言ってることがわからないですね。あなたのお話だとなんだか、大ヒットなんかしたくない、という風に聞こえるんだけど」
彼女はそう言うと、先ほどレオンさんに見せた、商品のアニメ化の企画書を手にとって、また机に広げた。
「私たち、月光企画には、ヒットを生み出すプランも、ルートも、そして資金もあるんですよ」

ミクさんは、エスプレッソをごくんと飲んで、カップを机に置いた。
そして、ニコリと笑って言った。
「ヒットの道具じゃないんです。“はっちゅーね”は、私の商品です。そして、リンちゃんは、私の大事なお友達です、から」


●どこにいるの?

その頃。

りりィさんのお店「星を売る店・上海屋」で。
学校の帰りに、お店に立ち寄ったレンくんと、りりィさんが話していた。

「ねえ、どこにいるのかしら。もう4日目になるの?」
「うん。親も心配し始めてましてね。そろそろ、ホントに探さなくちゃ、って」

そういうと、スマホを取り出して、画面を眺める。
「あいつから、毎日、LINEで連絡はあるんですよ」
「あら、そうなの。どこにいるの?」
レンくんは、眉をしかめて答える。
「ええ。それが、“友達のとこにいる”の、一点張りで…」

「リンちゃん、学校は?」
「この前の土曜日から出ていったんで、この月曜、火曜と休みになってますよ。僕が連絡してます、とりあえず、風邪をひいたって言って」
レンくんは困り顔で言った。

「LINEでは、彼女、いま何をしてるっていってるの?」
「それが、何か仕事がらみとか言って、よく要領を得ないんですよ」

りりィさんは、腕を組んだ。
「仕事って、例の“リンリン・はっちゅーね”の件かしら?」
彼女は、目をつぶって考えるようにつぶやいた。

「何かヘンね。なにか、後ろでからんでるような感じがするなあ」"o (-_-;*)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

玩具屋カイくんの販売日誌(243) ミクさんと“はっちゅーね”

“はっちゅーね”へのミクさんの意見は、はっきりしてるみたいです。

閲覧数:86

投稿日:2014/07/13 12:58:36

文字数:1,395文字

カテゴリ:小説

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  • enarin

    enarin

    ご意見・ご感想

    おはようございます、それでは本編コメント、書かせて頂きますね♪

    ミクさんvs月光企画、ミクさんが”しっかりした自分の考えを持って、引かず、且つ、なぁなぁまぁまぁで終わらせない”姿勢、日本的な気質ではなく、海外的気質ですね。日本だけなんです、”中庸を尊び、はっきりさせずに相手を傷つけず、更に持ち上げていい感じにしよう”、と。謙遜文化、お殿様文化が悪い形で引き継がれているので、どうしようもないんですが…

    > そういう流れができているの
    > 準備期間
    > ヒットの道具

    これは、”大手で協力してアニメ化させれば一気に盛り上がる事を約束する”、『電通』との契約をハッキリ断った、クリプトン社の姿勢で正解でした。

    ”電通経由で1つのアニメ作品にボカロを結びつければ大当たりして2,3と繋がるかもしれないけど、大きく儲かるのは電通だけ。そして作品固定になるため、ファンでありクリエイターは度外視される”、だった。それではない、クリエイターを大切にし、アニメ化させない方向を取る事が、今の大成功に繋がった頃は明かです。

    ただ、契約担当者さん、契約を断った前後の日々、酒を浴びるように飲んだ、とのツイートが…(T^T)

    リンちゃんの事が心配です。行方、そして、いつもの生活が戻る事を切に願っております。

    ではでは~♪

    P.S ”萌え神様”のご感想、感謝です! とても参考になりました。pixivでは、友人に書いた原稿をそのまま切って、1つを長めで投稿してますが、他3サイト(メクる、小説家になろう、taskey)でも同作品を連載し始めました。こちらは”校正”を加えて、もう少し短めに切り、1日1つで投稿してます。特に大きなシナリオ変更はないですが、少し”表現の変更”、”状況説明の追加”とかを加えました。

    冒頭は、オリジナルでは逆にいつもこんな感じに始めてます。

    ○メビウス~→終盤キーパーソンを出して、意味不明でシナリオに大きく関わる場面で始める
    ○デイライトガン&ムーンライトガン→シナリオでは唯一ここだけの”ほのぼの喫茶店”場面で始めるが、最後に怖い注釈を入れる
    ○萌え神様→最初に強烈なH(シナリオに大きく関係する意味合いを含めて)を入れて、引きつける

    あと、第1試験=モデルの仕事、以降、シナリオパートもありますが、かなーりHになっていきます。

    2015/07/05 08:56:32

    • tamaonion

      tamaonion

      enarinさん、感想を有難うございます!

      >”中庸を尊び、はっきりさせずに相手を傷つけず、更に持ち上げていい感じにしよう”、と。謙遜文化、お殿様文化が悪い形で引き継がれているので


      なるほど。謙遜、お殿様 の文化というんですね。一種のヨイショ文化なんでしょうかね。
      和を持って貴しとなす、の悪い側面なのでしょうか。


      >電通経由で1つのアニメ作品にボカロを結びつければ大当たりして2,3と繋がるかもしれないけど、大きく儲かるのは電通だけ。

      そういう事もあったのですか、ボカロに。情報通ですね。
      ホントにマスメディアはやったらやりっぱなし。それでも、ヒットへの欲望をもってしまう人も多いのですよね。


      >ただ、契約担当者さん、契約を断った前後の日々、酒を浴びるように飲んだ、とのツイートが…(T^T)

      あ、それは私も知ってました。そうか、その話だったのですね。

      マスメディア経由でなく、良い作品がそれを必要とされるところに届く仕組み。
      そういうのができるのは、いつのことでしょうね。


      >冒頭は、オリジナルでは逆にいつもこんな感じに始めてます。

      いろんなパターン、とても面白いですね。ウーム、いろいろある訳ですね
      テクニックというか。教えてくれたパターンを意識して、これから読んでいきたいと思います。

      ぜひまた、感想を聞かせてください!
      それでは、また。

      2015/07/06 22:25:01

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