「…はぁ…はぁ…なんとか…逃げきれたみたいね…。」


 ルカたちはがくぽの攻撃から逃れ、草むらに隠れていた。


 「ははっ…さしものがくぽも、あれがまさか閃光弾だとは思わなかったみたいだな…。」

 「いやだれも思わないから。」


 レンの的確な突っ込みはスルーされ、ルカは冷静に状況を整理し始めた。


 「とにかく、がくぽの能力は戦闘向きの攻撃力の高い戦闘力…一人一人立ち向かったんじゃ、負けは確定ね。とりあえず、戦いの先陣は私が切るわ。カイトさん、卑怯武器で援護お願いね。」

 「了解。」

 「がくぽはやたらと意志が強いから、「脱力砲」もミクの「Dark」も通用しないでしょうね。ミクは「Light」と「Vivid」、それに…「Solid」をフル活用して戦って頂戴。めーちゃん、いいわね。」

 「しょうがないわね。」

 「めーちゃんは遠距離からメイコバーストを撃って。出力全開で。でも、無理はしないでね。またショートしちゃうよ。リンとレンは、私が合図したらロードローラーの武器をとにかく撃ちまくってちょうだい。がくぽは恐ろしく迅い…あの迅さは天然のものよ。生半可な弾数じゃダメ。フルスロットルでお願いね。」

 『OK!!』

 「いい?奴を倒すには一瞬たりとも気を抜かないこと。前線で戦うのはミクと私だけ。ほかの皆は後方支援を願いね。とにかく、まだ私達は死ぬわけにはいかな―――――」


 そこまでいって、突然ルカはかっと目を見開き、二本の鉄鞭をとりだした。


 「巡音流乱舞鞭術、龍旋鞭!!」


 高速回転が与えられた鞭は、天空まで伸び、急降下してルカの後ろの地面を砕いた。

 すると突如、


 「くっ!!」


 うめき声がして、がくぽが後方に飛び退った。


 「がくぽ!?」

 「いつの間にそこに…!!」


 ミクたちが恐れおののく中、ルカは飛び出して鞭を構えた。がくぽもまた、鞭がかすった腕をさすりながらも、不敵に笑って楽刀を構えなおす。


 「さすがでござるな、ルカ殿…!確かルカ殿の音波術は『心透視』とかいう心を読む術だと聞いたが、相手の動きを予測することもできるのでござるか…!」

 「バカにしないでよ。これでもこの町の用心棒なのよ、私は。」


 ルカは話しながらそっとミクに目配せ。


 (ミク、行って!!)


 ミクがうなずくのとほとんど同時に、ミクの髪の色、目の色が薄い金色に変わった。


 「『Light』!!」


 叫んだ瞬間、ミクの姿は消えた。さらにその次の瞬間には、がくぽの目の前で超高速の連打音が鳴り響いた。


 「ぐっ!?」


 がくぽが呻き、思わず体勢を崩す。その隙を、ミクは見逃さなかった。


 「はっ!!」


 裂帛の気合いとともに、ミクが高速で突っ込んで一撃を加えた。即座に離れまた一刺し。再び離れて今度は後ろから一刺し。

 目にもとまらぬ超高速のヒット・アンド・アウェー!!止まぬ連打にがくぽは防戦一方だ。


 (よし、行ける!!)

 「はああああああっ!!!


 今度は正面から突っ込んでいく。それも用意しているのは拳ではなく、貫手。がくぽを刺し貫くつもりなのだ。

 「やった!」


 リンが嬉しそうに叫んだ。

 だがその瞬間、がくぽが突然楽刀を鞘に収めた。


 (!?あれは抜刀術の構え!?)


 ルカは驚いた。その軸の崩れた体勢からの抜刀術など、スピードも威力も乗らないはずだ。

 ミクはそこにお構いなしに突っ込んだ。

 がくぽが目を見開き、楽刀を滑らせる。

 抜きはらわれてミクを斬らんと―――しなかった。

 なんとがくぽは、抜刀を途中で止め、柄頭でミクの貫手を受け止めたのだ。


 「えっ!?」

 あまりの驚愕に、ミクは思わず動きが止まった。

 がくぽが狙っていたのはこれだったのだと、ミクが気付いたのはがくぽの攻撃を受けた後だった。


 「破っ!!」


 がくぽの奇声とともに、楽刀の柄頭がミクを襲う。

 とっさに腕で防御するミク。しかし何メートルも吹き飛ばされた。


 「くっ…!!『Solid』!!」


 髪の色が灰緑色になったミクが叫ぶ。辺りの地面が削られ、すべてを断ち切る人斬り音波ががくぽに迫った。

 その時だ。がくぽが叫んだ。


 「楽舞剣術参の太刀!『葱刈』!!」


 そして楽刀を横薙ぎに振りぬいた。

 ぱぁん!!…と、何かがはじけるような音がして、音波が払われた。―――そう、すべてを斬り裂く『Solid』の音波が、である。


 「うっ…うそ…!?」


 ミクはショックで棒立ちになってしまっている。がくぽは楽刀を地面に突き立て、勝ち誇った様な顔で解説しだした。


 「今放った楽舞剣術参の太刀『葱刈』…これは特殊な振動を楽刀に与え、ミク殿の六種類全ての音波を弾く斬撃を繰り出す技でござる。この技の前では、『Solid』も無意味に等しい…!!」


 がくぽはミクに歩み寄っていく。思わず後ずさりするミク。


 「大体データを見て思ったのでござるが、ミク殿は謙遜するくせして自分の力に自負が強すぎる。だから技を破られたとき動揺が激しいのでござるよ。もう少し心を落ち着ける技を、学ぶことでござる…な!!」


 話し終わると同時にがくぽが突っ込んだ。慌てたミクは咄嗟に、


 「『V…Vivid』っ!!」


 あらゆる技をはじき返す絶対防御の音波、『Vivid』を二連発で撃ち出した。

 一発目ががくぽに直撃。がくぽは吹き飛ばされながらも、その勢いを利用して反撃できるだけのスペースを作り出す。

 二発目が迫る。がくぽは低く構え、突っ込んで楽刀を横に薙いだ。


 「『葱刈』!!」


 鋭い音とともに、『Vivid』が斬り裂かれ、硬直しているミクに斬りかかろうと突っ込んだ。

 その時だ。


 「くらえ巡音流乱舞鞭術極意!!『蛸足雁字搦め』!!」


 ルカの鋭い声とともに、八本の鞭ががくぽを包み込み、縛り上げた。


 「ぬぅっ!?」


 驚愕のがくぽ。見れば、辺りをメイコ、カイト、リンとレンが3方向から囲んでいるではないか。


 「ミク、おいで!…ふふっ、ミクに構いすぎたわね。その間に配置はばっちり済ませてもらったわ。今すぐ刀を捨てれば、殺しはしないわよ。」


 ルカの言葉に、しばらくがくぽは無表情のまま天を仰いでいたが、突然ルカに向き直り、笑みを浮かべた。


 「いいだろう!楽刀を捨てれば…良いのだなっ!?」


 言い終わったと同時に、楽刀が宙を舞った。あろうことか、雁字搦めにされてほとんど動けない状態から、手首のスナップだけで楽刀を空中に放り投げたのだ!!


 「!!みんな、撃って――――!!」


 ルカの声と同時に、


 「メイコバ――――――――――――――――スト!!!!」

 「くらえ!!ネルネル・ネルネ製『手榴弾マシンガン』!!!」

 「ロードローラーフルスロットル!!バ―――――ストショット!!!!」


 メイコ達の3種類の武器が、がくぽに襲い掛かった。

その時だ。


 「はああああああああああっ!!!」


 突如、がくぽが叫んだ。その声に共鳴し、宙に浮いていた楽刀が急降下。ルカの鞭を切り裂いた!!


 「なっ!?」


 ルカが驚愕に満ちた表情をする。まさか、蛸足雁字搦めから逃れるだなんて!!

 その一瞬の間に、がくぽがとった行動―――――



 「壱の太刀『酒瓶割』!!」


 メイコバーストを薙ぎ払い、


 「弐の太刀『氷塊砕』!!」


 手榴弾を次々叩き返し、


 「肆・伍の太刀複合『柑橘芭蕉落』!!」


 ロードローラーの武器を連撃で一瞬にして破壊した。

 四面楚歌からの全武器破壊。恐ろしいほどの超人技を、がくぽは簡単にやってのけたのである。

 自慢の武器を叩き落され、絶望に打ちのめされているメイコ達。仲間の渾身の一撃が叩き落される様子を目の当たりにして、恐怖が再燃したミク。

 さしものルカも、震えが止まらなくなった。


 (無理だ…こんなやつ相手に…勝てるわけが…!!)


 楽刀を構えなおしたがくぽが、にやりと笑う。


 「くくく…いいぞその顔…拙者はそういった恐怖に満ち溢れた顔が大好きでござる。さて…まずはルカ殿!お主から最初に斬らせていただく!!」


 抜刀術の構えから、がくぽはルカの首を狙って突っ込んだ!!思わず目をつむるルカ。終わりだ。誰もがそう思った、その時だった。




 ――――――――――ズドンッ!!!!




 「…え?」


 首に何の衝撃も感じないのに、地面を揺るがす轟音に疑問を感じたルカは、そっと目を開けてみた。

 ―――――そこにあったのは、灰色の二本の棒のようなもの。がくぽはそれに遮られて、後方に飛び退っていた。

そしていきなり、その二本の棒は碧い焔を噴出した。


 「ぬおっ!?」


 がくぽのみを弾き飛ばした碧い焔は、ルカたちをあっという間に包み込んでいく。そして広場いっぱいに広がったと思った瞬間、轟音を立てながら焔は上空へと消え去った。


 防御姿勢を取っていたがくぽが、薄目を開けて様子を見る。ルカたちの姿は忽然と消えていた。


 「ふん…また逃げよったか…だがこんなもの気配を追えばすぐに…っ!?」


 がくぽは気配を追おうとして愕然とした。先ほど逃げられた時には感じられた気配が、全く感じられなかったのだ。

 衝撃のあまり呆然と立ち尽くすがくぽ。しかし、ふと我に返り、地面を強く蹴りつけ、踵を返して歩き始めた。


 「くそっ!!…逃がさん…逃がさんぞ…!!!」


 がくぽは荒々しい足取りで、去っていった。





 そこから少々離れた茂みの中に、ルカたちはいた。焔に包まれたまま、上空から降ろされてきたのだ。


 「た…助かったぁ…。」


 レンが深い息を吐いて座り込む。他の面々も緊張の糸が切れたようで、肩で息をしている。


 「でもいったい誰が―――――」


 ミクがそこまで言った時だった。



 『―――――まったく、一年ぶりにこの静かな町でゆっくりしようと思ったら、この町も騒がしくなっておるとは思わなかったぞ。』



 『!?』


 突如6人の脳内に直接響いた、得体のしれぬ声。―――――否、正確に言えば、ルカだけはその声に聞き覚えがあった。


 「あ…あああ……!!」


 ルカが上を向いて声を震わせている。一同がその方向を見ると、そこには皆が見覚えのある『生き物』が浮かんでいた。

 それは、一匹の灰色の猫であった。だがただの猫ではなかった。二本の尻尾。その尻尾と、両足に揺らめく碧い焔。額の三日月模様。そして碧眼。

 ふわりと降り立ったその猫は、六人に向かって笑いかけた。


 『久しぶりだな、諸君。吾輩は、猫である。』


 ルカが少し喜びに満ちたような顔で叫んだ。



 「ロ…ロシアンちゃんっ…!!」



 そこに現れたのは、一年前ふらりとヴォカロ町に現れ、ルカたちと心通わせて旅立っていた、ロシアンブルーの猫又・ロシアンであった。
 

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

紫色の騎士と鏡の音 Ⅲ~猫又ロシアン、降臨!!~

ロシアンと一緒に(時間限定で)帰ってきたぜええええ!!こんにちはTurndogです。

ついにあの猫又が帰ってきました!
「…って、誰よこの猫?」という人は、最初に書いた話『猫から見たボカロ』をご覧ください。
http://piapro.jp/t/0MUr

あ、そうそう。わからない漢字あったら言ってくださいね?文字数減らすために結構むずい漢字使ってるんで。
とりあえず絶対聞かれるであろう漢字を書いておきましょう。

酒瓶割→さかびんわり 氷塊砕→ひょうかいくだき 肆・伍→し・ご
柑橘芭蕉落→かんきつばしょうおとし 葱刈→ねぎがり

他にもあったらジャンジャン言ってくださいね。

次回!!ロシアンがついに本気出します!!

閲覧数:514

投稿日:2012/04/08 16:26:28

文字数:4,655文字

カテゴリ:小説

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  • しるる

    しるる

    ご意見・ご感想

    きたーーー!!ww
    ロシアンもさることながら、ターンドッグさんきたーーーーww

    この文章だよ!!これを私は待っていた!!ww


    がくぽつよっ!!ww
    がくとう…ほしいなww←え

    2012/03/28 14:09:03

    • Turndog~ターンドッグ~

      Turndog~ターンドッグ~

      待っていただいてたことがこんなにうれしいというのを今初めて知った…(嬉泣)

      ええもうこの武士強すぎるんですよ。おかげでロシアンがさらに強くなるっていうねwww

      がくぽー。しるるさんが楽刀貸してほしいって―。

      がくぽ「ほほう!?いい度胸だな!!拙者に立ち向かうとは一刀両断してくれr」
      しるる'sがくぽ「まてい!!筆者とルカ殿には指一本触れさせん!!」

      激☆突!!!!

      …ほっておきましょう。

      2012/04/02 14:42:52

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