1月4日 石の日

「カイト、ちょっと遠回りして寄り道していくよ」
 そんな事を言ってマスターが足を運んだのは、町の中にひっそりと佇む小さな神社だった。

「三箇日も過ぎたし、今日は人がいないねぇ」
「そうですねぇ、寒いですしねぇ。あ、マスター、足元気をつけて」
 言いながら、そっと手を引く。今日は晴れ間が見えているけれど、昨日まで降っていた雪がしっかりと積もっている。日陰になっているところは凍ってもいるので、うっかり足を滑らせるとたいへんだ。ありがとう、と微笑んで、マスターはゆっくりと歩いていった。

「それにしてもマスター、どうして神社に? つい3日前に初詣に行ったばかりなのに」
 がらんがらん、と大きな鈴を鳴らしてお参りを済ませてから、僕はマスターに首を傾げてみせた。3日前、元日にも、マスターは僕を連れてお参りに行ったのだ。あの時はもう少し遠くの、大きな神社だったけど。人がものすごくいっぱいいてびっくりした。お祭りの時みたいに屋台もたくさん並んでいた。
 うん、とマスターは僕の手を引いて、神社の入口、鳥居の側の、狛犬の像に歩み寄った。
「今日はね、『石の日』なんだって。『1(い)4(し)』の語呂合わせなんだけど、お地蔵様とか狛犬とか、そういう『願いがかけられた石』に触れると、願いが叶う日なんだって」
 ふふ、と笑いながらマスターは僕を見上げて、何だかちょっぴり楽しそうに、繋いだ手を持ち上げて狛犬に触れた。
「さぁ、カイト、何を願う?」

 マスターのお正月休み最後のこの日、神社を後にした僕らは当面の食料をどっさり買い込んで、丸々と膨れ上がった買い物袋を抱えて帰路に着いた。
「流石にちょっと買い過ぎたかな……神社、先に寄っておいて正解だったね」
「確かに、この大荷物で寄り道は大変ですね……」
 苦笑を交わしながら歩きつつ、僕は気になっていた事を訊いてみる。
「ところで、マスターは何をお願いしたんですか?」
「ん? ……作りかけのあれとかそれとか、今年こそ完成させられますように、って」
 あは、と添えられた笑みは、こころなしか引き攣っていた。視線もはっきりと僕を捕らえることはなく、気まずそうに明後日の方を見る。なかなか曲が完成せずに僕に歌わせられないことを、マスターは気に病んでいたらしい。
「いいんですよ、マスター。ゆっくりで」
「いや私が聴きたいの、カイトの声で。……なかなかまとまった時間がなかったり気力が湧かなかったりで、先延ばしになっちゃってるけど……」
 うぅ、と俯いた視線を、振り切るように前へ向けて、マスターはもう一度微笑んだ。
「だから、願掛け。ゆるぎない強い意志を、ってね」
 それはやっぱり、どこか引き攣った、苦笑めいた笑みだったけど。

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日めくりKAITO <1/4>

とても自分に突き刺さる話←
ちなみに書いたのは4日の夜で、石の日の話を知ったのもその時なので、私は願掛けできてません……w

記念日ネタはこちらのサイトを参考にさせていただいてます
→ 今日は何の日~毎日が記念日~ http://www.nnh.to/

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投稿日:2015/01/06 00:07:07

文字数:1,146文字

カテゴリ:小説

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