UV-WARS
第二部「初音ミク」
第一章「ハジメテのオト」
その11「間奏」
「というわけで、今度の土日は、一泊二日で大洗で海水浴です」
「テト姉、山にしようよ。そっちの方が涼しいし、荷物も少なくて済む」
「どこに泊まるのよ」
「テントとか、車の中とか」
「君は実にバカだなあ。桃ちゃんの親戚の家なら、タダで泊まれて三食付くのよ」
「その分、その民宿を手伝うんだろ」
「朝の五時から八時と夜八時から十一時の間ね」
「俺は寝ていたいな、その時間。家で動画を作りたいし」
「テッドさん、スイカ二個付けますよ」
「スイカねえ」
「じゃあ、マスクメロン二個で」
「どうせなら、夕張メロンがいいなあ」
「くっ、善処します…」
「自分が車、持ってるからって、言いたい放題だな」
その会話はノートパソコンのスピーカーから流れていた。
ノートパソコンの前に背広姿の男が座っていた。
男の表情は神経を磨り減らして胃炎を患っているように暗く冴えないものだった。
ノートパソコンを挟んで若い男がパイプ椅子に座っていた。
「はあ」
男はため息を吐いて頭を抱えた。
「こんなありふれた日常会話を上に報告したら、怒られるだけじゃなく、左遷だな」
若い男が反論した。
「課長、お言葉ですが、内容にいささかも改竄の痕跡はありません。私がリアルタイムで聞いた内容そのままです」
「だから、余計に信じられんのだよ。あの年齢不詳の『若作り女』は最初、打ち合わせと称して研究所を孫娘と出ている。で、向かった先が若作り女の従弟の家で、打ち合わせ内容が海水浴だとか、部長に報告できると思うか?」
「しかし…」
「ああ、解ってる。君の仕事は完璧だ。この件では、君に非はない。高性能な盗聴機を提供した購買部の連中が欠陥品を掴まされた訳でもなかろう」
「では、この会話の内容に問題はないと…」
「そうは言わない。あの若作り女が何らかのジャミングを施したと考えるほうが筋が通る」
「何も遮蔽物のない海の上で、ですか?」
「理屈は知らんよ。だが、ここ最近、研究所は動きが活発だ。すでに資材の購入だけで一億の大台を超えている。しかも、件の博士はご機嫌で、若作り女と孫娘の三人で新しい発明に夢中だそうだ」
「そう考えると、いくら季節とはいっても、海水浴の話は考えにくいですね」
「とりあえず新たに盗聴器を追加して、君はジャミングの可能性を探せ。こちらはさらに情報収集を進めて、博士の新発明について迫ることにしよう」
「あれがジャミングだとしたらすごい技術ですね」
「まだわからんよ。案外、盲点を突いた枯れた技術かもしれん」
背広の男はノートパソコンを閉じた。
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