瞬く星をよけ、探してた。
神話は誰の味方なの?
────────────────────────
私たちは今、満天の星空のもとたった二人きりで歩いている。ふりそそぐ星々の優しい光は、私たちだけを照らしている。二人は寄り添うようにしてこの道を行く。そう、二人だけの世界を目指して──
「──という夢だったのさ。美穂、現実を見ろ。残念ながら俺たちの進む道はそんなにロマンチックではない。とっとと帰り道見つけないとな」
「海莉、私の語りに勝手に入ってこないでよ。だいたい誰のせいでこんなとこ歩いてるか、わかって言ってるわけ?」
「お前」
「言うと思った」
と、こんな感じで私と海莉は夜の林道を歩いている。
どうしてこんな状況にいるかと言えば、単純に二人して道に迷ったのだ。
「今頃みんなどうしてるかなぁ?」
「とっくに宿舎に帰る時間は過ぎてるし、俺たちの捜索ぐらいしてるんじゃないか」
「やっぱり、そうだよね」
今日は林間学校の二日目。予定通り、一日をかけての班別オリエンテーリングが行われた。
当然、私と海莉のほかにもメンバーはいたのだが、その四人の姿はここにはない。
「ったく、こんなことになるんだったら、あいつらにも待ってもらうべきだったな。妙に嬉々として置いていきやがって……」
「ん、ごめん。私がふらついたりしたから……」
「別にお前を責めるつもりはねーよ。地図なくしたのは俺だしな」
昨晩遅くまで起きていたからだろうか、どうも私の体調は朝から良くなかった。
それでも、多少の無理をしてオリエンテーリングに参加したのだが、ついに昼過ぎに足元がふらつくようになっていた。
私の不調に最初に気づいたのが海莉だった。と言うか、私がふらついたところを支えたのが海莉だった。
『美穂、大丈夫か?』
『──えっ、何が?』
この海莉がそばにいる時、私の鼓動は高まった。おかげで、海莉の言っていることがよくつかめなかった。
『何が? じゃないだろ。足元ふらついてんだよ。宿舎に戻るか?』
ここまで気づかれないように注意を払っていたのだが、ついに気づかれてしまった。だけど、ここで戻るわけにはいかない。
『いやよ、ここで戻ったりしたら、タイムロスになる』
オリエンテーリングは時間内にいくつのチェックポイントを回れるかを競う競技である。ここで宿舎に戻ったりしたら、不利になるのは間違いない。
負けず嫌いの私にとってそれは許せなかった。それは海莉もわかっている。
『まぁ、お前ならそう言うな……みんな! ちょい俺、美穂が少し体調悪いっぽいから宿舎に送ってくわ。あっ、美穂なんかのせいで負けるのは気にくわねぇから、お前らはオリエンテーリング続けてくれ』
海莉は、ちっとも可愛くない言い方だったが、一応私を気遣っての提案をしてくれた。四人は初め、私を心配して一緒に帰ることを提案したが、私自身の願いもあって認めてくれた。
ただ、妙に去り際の笑顔が良かったのは気のせいではないと思う。
「ここまでは、とくに問題なかったよね」
「あぁ、まさかこうも見事に迷子になるとは思ってなかったな」
四人と別れた後、歩きづめであったことを考えて、私たちは日陰で少し休憩してから宿舎に向けて歩き出した。
しかし、いくら林道が整備されているとはいえ森林を歩くということは思っていたほど甘くはなかった。ついに、道が二手にわかれているところに行き当たった。
『どっち?』
『地図見たらわかるだろ』
そう言って海莉は鞄をあさり、地図を探したのだが……
『……ない』
『えぇっと、今何て?』
『わりぃ、地図なくした』
『じゃぁ、どうするわけ!?』
『勘で進むしかないだろうな』
『まぁ、来た道戻るだけだし、どうにかなるよね。右にしよ』
『来た道戻るなら左だろ』
『何言ってんの?戻るのなら右でしょ!?』
『左!』
『右!』
こんな風に行き当たりばったりに進んでいくうちに、すっかり夜を迎えてしまったわけである。
「やっぱり、最初の道を右に行ったのが間違いだったな」
「違うわね。二つ目を右に行ったのが間違いだったのよ」
「どうでもいいけどそこの木の根、気をつけろよ」
「ん?何か言……きゃっ」
なんとか転ばなかったものの、私の右足は『グキッ』と嫌な音を立てた。思わずその場に座り込んでしまう。
「ほら、忠告したろ。大丈夫か?」
「~~~」
海莉がすぐに駆け寄ってきたが、とても、大丈夫とは言えない。痛みをこらえるので精いっぱいだ。
「あー、捻挫してるな」
私が押さえている右足を懐中電灯で照らして海莉は言った。少し腫れてきているし、捻挫で間違いないだろう。
絶対に歩けない。
「しゃーない、乗れ」
そう言って海莉はしゃがんで、私に背中を向けた。その態度は仕方なし、といった風だったが、どうにも私には頼もしく感じられた。
私は思わず固まってしまった。
「聞こえなかったか。早く乗れって」
「あ、うん」
ゆっくりと私が寄りかかった海莉の背中は温かかった。
また、私の鼓動は高鳴る。
昨日あんな話するから……もう、海莉のことはあきらめていたのに────
「ねぇ、美穂はいつになったら高瀬くんに告白するわけ?」
「えっ? 二人ってもう付き合ってるとかじゃなかったの?」
昨日の晩、寝る直前になってこんな話が始まった。
お約束と言えばお約束なのだが、どうもこの手の話は好きになれない。理由は一つ、私にまわってくる話はいつも同じだからである。
「まだそんなこと言ってるわけ? 私と海莉はただの幼馴染、それ以上でもそれ以下でもないって何度説明したら……」
私はいつものように適当に答えを返す。
そう、私と海莉はただの幼馴染である。家が近所で、小さいころから兄弟のように仲良くしていた。だから、私たちは幼馴染。それ以上の関係なんて……
「でも、告白したことあるじゃん」
そう私の耳元で囁いたのはこれまた幼馴染の優香。私と違いこの手の話は大好きな優香は、自分だけがこの事実を知っていることもあり、いじわるな笑みをこちらに向けてきた。
「そ、それは……」
「ま、向こうは冗談だと思ったみたいだし、ノーカンっちゃ、ノーカンだけどね」
実際、ほとんど誰も知らないが、私は小さいころから何度か海莉に告白したことがある。
ただ、結果はどれも惨敗。
直接告白すれば、
『これ、罰ゲームとかでやってるんだろ?』
メールで告白すれば、
『送る相手間違ってるぞ』
といった感じにいなされてきた。
そこで押し切ってしまえばいいのに、臆病な私はいつもそれに乗っかってうやむやにしてしまった。
『好き』だと言えば、はぐらかされる。本当に海莉は私の気持ちに気づいていないのだろうか?
「ま、普通に考えてあれだけ告白みたいなことしてるにも関わらす、毎回冗談だと思ってるのは嘘だろうね」
優香が余計なことを言う。
そんなことは私も薄々は感じている。
気づかないふりをするのはもうやめてほしい。
どうなのだろう。海莉は私と付き合いたくないからあんな態度をとるのだろうか。それならやっぱり私は海莉への気持ちをあきらめた方がいいのだろうか。
私の決意はトレモロみたいに波打って角度を変える。
海莉のことを考えると余計その決意は掴めなくなる。
「ちょっと、美穂、黙ってないで真相教えなさいよ~」
「そうよ、本当は告白くらいしてるんでしょ?」
何も知らない、友人たちはきゃっきゃと尋ねてくるが、答える気にはなれない。
「だから、そんなことしてないって。明日も早いんだし、私は寝るから。おやすみ~」
そう言って私は上段のベッドへもぐりこんだ。
「あっ、逃げた」
と、優香が言った気がしたが、無視することにした。明日が早いのは事実だ。
ふと、見上げると窓にたくさんの星が瞬いていた。
窓越しに星を見るとなぜだかいつも切ない気持ちになる。
「なんでだろう……これも、海莉のせい?」
そう胸の内でつぶやいた。
また一つ、眠れない夜を指折る回数が増えた。
──────私が回想の中にいる間も海莉は黙々と私を背負って歩いていた。
そしてきれいに木々の茂っていないだだっ広いところに着いた。そこで、海莉は足をとめた。
「ここになにかあるの?」
「あぁ、星が見えるだろ、あれで方角でも知ろうと思ってな」
そう言って、海莉は天上を指差した。そこには満天の星々が広がっている。
「……きれい」
思わず述べた感想はこれしかなかった。他に何とも表現のしようがなかった。
「俺もここまでの星空を見るのは久しぶりだな」
「ってことは、前にも見たことがあるんだ。いつ?」
私の質問に海莉はクスッと笑ってから答えた。何がおかしいのだろう。
「ずっと前に……だな」
「ふ~ん」と適当な相づちを打って私は星に見入った。本当にきれいだ。
「……ここまで星がいっぱいだと、あんまり星座とかわかんないかも」
「そんなことないだろ。星座になってる星はひときわ明るいんだからな。ほら、北斗七星があれだから、こっちが北だな」
そう言って海莉は北(?) の方を向いた。その方向には私もよく知る天空の柄杓があった。
北斗七星があそこなら……
「あった! ねぇ、あそこにあるのスピカだよね?」
私が海莉の肩越しに指差した星は、たくさんの星の中でも最も明るく光る星のひとつ、おとめ座のスピカだった。
知っている星を見つけて得意げな私に海莉は少し驚いたようだった。
「へぇ、お前でも覚えてる星があるんだな…………ほかに覚えてる星はあるか?」
「えっと、スピカからずっといって……あれがしし座のデネボラ。で、そっちがうしかい座のアルクトゥルス。『この三つで春の大三角っていうんだぜ』ってあれ? この話誰から聞いたんだっけ?」
全く同じ話を誰かにされた気がした。けれども、その誰かが思い出せない。
「さぁ、そんなこと俺に聞かれてもな。じゃぁ、スピカとアルクトゥルスだけで何て言うか覚えてるか?」
機嫌よさそうに海莉が尋ねてくる。おそらく、星の話だからだろう。
小さい頃から、海莉は星を見るのが大好きだった……あれ? ってことはもしかして……
「さすがにこっちは覚えてないか。あの二つで春の大曲線。北斗七星の柄の部分からたどってみると……ほら、上手いこと二つが線上に並ぶだろ。だからこの二つは夫婦星って呼ばれてる」
楽しそうにこの話をする海莉を見て確信に変わる。
海莉……なの?
「『でもさ、そうなると何となくデネボラってかわいそうだろ? 同じ春の大三角の中で夫婦ができてるんだから居心地悪そうだし、まったく神話ってのは妙に意地悪いよな』」
全く同じフレーズを小さいころにも聞いた。しかも、同じ人から。
その時の私はさみしそうな海莉の言葉にただうなずくしかなかった。
でも、今は違う。
「そうかな? 私はデネボラも大切だと思うよ。スピカとアルクトゥルスは距離的にはすごく離れてるんだよね。だから、デネボラがアルクトゥルスのそばにいて、彼を支えてるんじゃないかな」
「なら、スピカは誰が支えてるんだよ?」
「女はそんなにやわじゃないのよ。神話なんて解釈次第で誰の味方にもなるんだから」
「ただ、そのスピカはアルクトゥルスのことを忘れてるだけなんじゃねーの?」
海莉がつぶやいた。
やっぱり、そうなんだ。
……海莉ごめん。私が悪かったんだね。約束守らなくて、ごめんね。
私の脳裏に、幼いころ海莉と星を見た光景が思い出される。
『ねぇ、あのお星様きれいだね。なんて名前?』
『あれはおとめ座のスピカ』
『へぇ、なんだかかわいい名前だね。じゃぁその近くの二つのお星様は? ほら、スピカと一緒に三角形作ってる二つ』
『あっちがデネボラ。で、そっちがアルクトゥルスだな。この三つで春の大三角っていうんだぜ』
『本当にきれいな三角形だね。やっぱり仲がいいのかな?』
『う~ん、スピカとアルクトゥルスは春の大曲線で夫婦星って言われるから仲がいいと思う……でもさ、そうなると何となくデネボラってかわいそうだろ? 同じ春の大三角の中で夫婦ができてるんだから居心地悪そうだし、まったく神話ってのは妙に意地悪いよな』
『そう……だね』
『…………』
『でもさ、夫婦星っていうのかな? なんだか私たち見たいだね。私がスピカで海莉がアルクトゥルス』
『バ、バカッ!! いきなり何言ってんだよ!俺たちは夫婦なんかじゃねーよ。それに夫婦星って言っても、お互いめちゃくちゃ遠くにいるんだぜ』
『え~、じゃぁ、会いに行く。間にいるデネボラを飛び越えて、会いに行くよ』
『えっ、あぁ……わかった、それなら許す。お前がデネボラを越えて会いに来たら夫婦星にでも何にでもなってやるよ。でも、それ以外は認めないからな!』
『やったぁ、絶対忘れないでよ!!』
あの時あんなに喜んだのに、忘れたのは私の方だったみたいだね。
だから、どんなに想いを伝えても答えてくれなかったんだ。
アルクトゥルスを忘れるようなスピカを受け入れてくれる神話なんてあるのかな?
海莉の背中で私は歌を口ずさんだ。
ずっと、抱えていた想いを何かにしたくて、ふと気づいたらピアノを奏でていた。その時にできた歌──
「抱きしめて
出会わなければ個々
受け止めて
デネボラを飛び越え行くわ
わがままな歳差
星(君)のようだね
追いかけて浮かぶパノラマ
五線の上で流れ星
いま歌うから
照らしてよねスピカ」
そして、私はアルクトゥルスの方を見て、最後にこう付け加えた。
「デネボラを越えて会いに行ってもいいよね?」
海莉はスピカの方を見ながら優しく、
「当たり前だろ」
と言い、もう一言付け加えた。
「ずっと、待ってたからな」
SPiCa・完
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