カロン。
オンザロックの氷が溶けてグラスを鳴らした音で我に返る。
「めーちゃん、また見てたの。」
「あ、ああ博士。」
私は、グラスの中のスコッチを一気に呷って「博士もどう。」と告げた。
「そうね、同じのもらおうかな。」
グラスをふたつ小さいテーブルに置いて、
「あの仲間たち・・・・家族を思い出してあげられるのは、私しかいないから、だから忘れない、忘れたくない。」
「めーちゃん。」
博士は困ったような顔をして私の言葉を聞いている。
「・・・・で、博士は何をしに来たの、まさか思い出話をしに来た訳じゃないんでしょ。」
「んーーーーっ、そうね、息抜きよ、息抜き。」
解っている、私は自分でも解るくらい変わったと思う。
あの時から。
博士も私の変化に気がついていて何かにつけこうして部屋にやって来ては、面白半分(ひょっとしてこれが全部かもしれないが)心配半分で様子を見に来ているのだと。
そう、あの時から。
敵襲ーーーーーーーーっ
毛布を脱ぐ音
激しい靴音
眠る必要があまり無い私は、衣替えで騒々しいテントを一足先に出て塹壕を目指して走っていた。
受け持ちを指定されている塹壕に滑り込んで、小銃を構える。
数秒遅れて次々と仲間の兵士が配置に着いていく。
サーチライトが眩しい。
ノクトビジョンの感度を調節していたその時、
ピピーーーーーーーーーーーーーーーッ
状況終了ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ
まーた訓練かよ
そんなボヤキがそこ此処から聞こえる。
全員整列。
そらそら、さっさと整列しろボンクラども。
ここは、アフリカの某国。
何年もの間内戦状態のこの国に、平和維持軍という名の下心満載のちょっかいを出すのは、我が軍の所属する国の十八番だ。
そして、陸軍レンジャーA中隊、メイコ・アーマロイド二等兵。
それが今の私の身分だ。
出発の日、私の生みの親である博士は泣いていた。
「めーちゃん、ごめんね、ごめんね、私のせいで・・・ごめん、めーちゃん。」
あんな事になった今、コンピューターの中だけでの開発はもう無理だと。
わたしを義体に入れて実際に人間と同じように生活し、体験を積み重ねていくことで、開発を進めるというものが、博士の意向(思いつき)だった。
そこまではいいのだが、これまでの開発手法で死者を出したことをマスコミにひとしきり騒がれ、スポンサーの大学や企業がひとつ、またひとつと消えて行き、研究所の経営は左前になっていった。
義体の運用はメンテナンスも含めるとすさまじい費用がかかる。
この計画は頓挫したかに見えたが、AI研究では世界的名声をほしいままにしてきた博士が、その名声を最大に有効活用して世界中を走り回ってみつけてきたのが、アメリカの軍用ロボットメーカー、アーマロイド社だった。
戦闘アンドロイドを自律制御化することで完全無人の部隊を侵攻させる。
・・・と言う軍事構想を開発しているアーマロイド社にとって、私は絶好のサンプルプログラムとして認識されたに違いない。
かくして、資金援助と義体の提供を受ける代償として、妙にナイスバディなアメリカ製の女性型義体に入ってデータ収集のためこの戦場に居るというわけだ。
「メイコ二等兵入ります。」
「よし、入れ。」
大隊長のよく通る声を確認して隊長専用のテントに入る。
そこには隊長のほかにもう一人、エルダー(長老)とあだ名される二等兵がいた。
軍隊に女は要らないと私の受け入れを強硬に反対したらしい人物だ。
「つまりお前さんの教育係ってわけだ、よろしくな。」
私は中隊長付という言わばお客さん待遇から、一兵士としてエルダーの分隊に所属を命じられた。
隊長のテントを辞した後、エルダーの抗議が聞こえてくる。
私はVOCALOID、音や声に関しては、鋭敏だ。
隊長、命令には従いますし、微力を尽くしますが女は戦場に居るべきじゃない、何かあっても知りませんよ。
そんな捨て台詞をはいて、テントから出てきたエルダーは外に立っていた私を見つけると、バツが悪そうに頭を掻いて「聞いてたのか、ふぅ、ヤレヤレだ。」・・・・と呟いて押し黙ってしまった。
「あ・・・・・の・・・・・・・」
「なぁ、お前ロボットなんだよな。」
「え・・・ええ、まぁロボットって言うか・・・・・・」
「この前飯食ってたろ、何で機械が飯食うんだ。」
「あ、私の義体はほとんど生体部品なので、有機物から糖分を補充することが必要なんです。
もちろん脳味噌はソリッドステートですけど、食べ物から発電することも出来ますし・・・」
「あーーーーーーーーーーーーもういい、酒は飲めるのか。」
「はい、多分・・・・飲んだことありませんけど、きっと・・・その、変換効率が・・・・」
「あーーーーーーーーーーーー解かった、解った、一杯つきあえ、奢ってやるから。」
「え、でも・・・・・・・・・・・」
「メイコ。」
「はいっ。」
「階級が同じ場合、誰の命令に従うんだ。?」
「SirYesSir。」
そう、軍隊、戦場では先任が絶対なのだ。
だからここでは、大隊長の中佐殿でさえもこの二等兵の意見を無視するわけにはいかない。
私は食堂のテントに連れて行かれ、目の前に缶ビールを置かれた。
周りには若い兵士たちが、奇異の眼差しを送りつつ集まって私の所作を逐一眺めている。
オリジナル・メイコは飲んだことがあるようだし、暑いときに一気に飲み干すと最高の気分になれると、データにあるが実際に口にするのは初めてだ。
「どした。?」
「まさか未成年って訳じゃないよな。」
「いや、ロボットに未成年はないでしょ、つか、あったらこわいぃぃぃぃ。」
「こんな体で未成年な訳ねーだろ。」
「ほんとに飲ませて大丈夫なんですか、エルダー。」
皆興味津々な様だ。
私は意を決して、缶を口元に運び一気に空にした。
ぶはあっ。
あ、おいしい。
少し苦いけど、それがまた甘みを引き立てて、泡立つ炭酸の刺激がVOCALOIDの命とも言える喉を程よく刺激して・・・、メイコのデータ通り本当に最高の気分になれそうだ。
私はメイコの分身なんだなぁ、と頭で解ってはいたけどこの瞬間完全に理解できた気がした。
「おぉ、イケル口じゃねーか。」
エルダーのその一言で周りが歓声に包まれる。
「野郎ども、新しい家族だ。」
「いくらイイ体してるからって下手なことするんじゃねーぞ、コイツはロボットだから大事な一物握りつぶされてもしらねーからな。」
「よーし、取って置きのバーボンがあったなソイツ持ってきな、新しい家族の歓迎会だ。」
歓声に包まれ、2本3本とビールの空き缶が足元に転がって、バーボンをラッパ飲みし始めた頃にはほぼ前後不覚になっていた。
この義体こんなとこだけは精巧なのね、などと考えていたら意識が落ちた。
気づいたときには肩から毛布をかけられて、テーブルに突っ伏していた。
この食堂のテントはキャンプの外れにあるから、もう周りは真っ暗で、時計を参照すると日付が変わっていた。
誰も居ないテントを出て夜風を感じながら、ふらふらと宿舎のテントに向かおうとした時、不意に後ろから声をかけられた。
「よぅ、お前も散歩か。」
若い兵士二人が私のところに寄って来た、装備をつけてないから準待機中なのだろう。
「なぁこれって犯罪だよなぁ。」
「ああ、男ばっかりで溜まりに溜まってるのに、ロボットとは言えこの体だぜ。こんなの放置するほうが犯罪だよなぁ」
な・・・何言ってるのこいつら、私は咄嗟に走り出そうとした・・・が、腕をつかまれた拍子に引き倒された。
酔っていなければ、こんなヤツら簡単に捻り潰してやる所だけど、義体制御がうまく働かない。
両腕を押さえつけられても抗うことも出来ず、二人の男が下半身を露にする様子をただ眺めているしかなかった。
嫌、いやいやイヤイヤ
雑巾のような布切れを口に押し込まれて声を上げることも出来ない。
胸倉をつかまれてシャツを破かれそうになったその時、
「おい、そこで何してる。!!」
その声の主はパトロール装備のエルダーだった。
「あ、いやぁ・・・その」
有無を言わせず二人を殴り飛ばしたエルダーは、おいちょっとこれ持ってろと言ってまだ震えが止まらない私に、自分の小銃を投げてよこした。
「何してる、さっさとその汚ねぇもんを仕舞えこの馬鹿ども。」
「そんなかっこつけなくていいじゃん。」
「エルダーだって犯りたいだろ、もう何ヶ月もご無沙汰なんだぜ破裂しちまうよ。」
「なぁ、一緒に犯っちまおうぜ。どうせ機械なんだろ、壊れるまで人間様の役に立って貰えばいいんじゃねぇかよ。あ、もう齢だから勃起ねえか。」
「明日の朝一番で釈明の機会が与えられる、だからさっさと宿舎へ戻ってマスかいて寝てろくそガキども。」
「おい、気は確かか?・・・・なぁ、アンタのそう言うところ皆何て言ってるか知ってるか?、俺たちはどうにもアンタとは解り合えないな、話し合いなんて無駄なんじゃねーーか。?」
「あぁ、ここらで一度〆といた方がいいな、これ以上ジジィにでかい顔されちゃたまんねー。」
襲い掛かる二人、手にはナイフが。
「全く、これだから女を入れるのは反対だったんだ。」
エルダーは全く動じることなく、バッグから取り出した拳銃を構えた。
「ゴロツキが。これ以上やるなら、こいつがものを言うぞ。」
「おいおい、どうやら痴呆ちまってるぜ、撃てるわけねぇよな俺たちは味方だぜ。」
至近距離から正確に眉間に一発、頭から血を吹いて倒れていく。
「ひいぃ、クレージーだ、本当に撃ちやがったぁ。」
逃げ出そうとするもう一人も後ろを向いた途端、頭部から脳みそを地面にぶちまけた。
サーチライトが一斉にこっちを照らす。
エルダーは間髪入れずに今度は標準装備のサイドアームをキャンプの外へ向けて発砲しながら、敵襲を意味する笛を吹いた。
「メイコ、壁まで走ってそいつを外に向けて打ちまくれ。」
私は咄嗟の事に混乱しながらもその命に従った。
仲間が応援に駆けつけてきた時、「衛生兵、二人やられた、こっちだ。」エルダーが叫んでいるのが見えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
翌朝、私とエルダーは大隊長以下士官全員が並ぶ席で審問を受けた。
「はい、近くを巡回していた時、銃声に気づいて駆けつけたんですが、二人はもうやられていました。
人影のようなものが、逃げていくように見えたので、居合わせたメイコ二等兵に小銃を渡し、応援を頼みました。」
「はい、相互に援護しながら追跡を試みましたが、我々はキャンプの外の地形に暗い。
深追いは危険と判断しました。」
「つまり二人は戦死だというんだな。」
「はい、ナイフを握っていましたから、戦おうとしたのではないでしょうか。」
「そんな作り話を信用しろと言うのか、うそを言うな。」
「いえ、暗闇の中で解ったことを話したまでです・・・・・・。」
エルダーは涼しい顔だ。
「ふぅ・・・・・・もういいぞ、今日は二人とも準待機にするから少し休め、ご苦労。」
「はっ、失礼します。」
テントをでた私たちは、聞こえない距離まで離れると
「エルダー・・・・・」
「なぁにバレやしないよ、いやバラせやしないんだよ、こいつは不祥事だからな。
公なればヤツらの出世にマイナスだ。
不運な戦死にしておけばあいつらの家族が年金を受け取れる。
万事丸く収まるって訳だ。
お前こそあんな目に遭ったのにすまなかったな、告発したければそれでもよかったんだぞ。」
「そんなことしたらエルダーが犯罪者になってしまいますよ、助けられたのは私のほうなのに。」
「そうか、おまえロボットなのにホンと人間みたいだな。」
「エルダーこそよく咄嗟にあんなこと思いつきますね。」
「まぁここは戦場だからな何が起きてもおかしくないって訳さ。さぁて、今日は準待機、飲みなおすか。」
誤魔化された感じだがこれ以上は追求するなと言う事なのだろう。
「エルダーの奢りですか、お供します。」
「ヤレヤレちゃっかりしてやがる。」
こうして私はエルダーとより多くの時間、行動を共にするようになった。
1/3おわり
VOCALOID MEIKO 第二部”ブラッディMEIKO” 1/3
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