ホテルに戻り暫くすると夕食の時間になった。プレイヤー8人がラウンジに集まり、思い々々に料理を口にする。

「は~…幸せ~…。」
「ゲルニカにもご飯を欲しいのだが。」
「かしこまりました。」
「へ~ぇ、和食もあるんだ…。」
「貝ばっかりじゃなくて野菜を食べなさい!」
「説教すんな!」

私は…と言うと何を取って良いのか判らず、野菜サラダ、ご飯、お味噌汁、焼き魚と言った定食みたいなメニューになっていた。皆で食べるご飯はあったかくて、いつもより味が判る気がした。と、ずっと部屋に置きっ放しだった携帯がブルブル震えた。メール…お兄ちゃんからだ…。

『どうして眼鏡掛けてない』
『他の奴に触らせるな』
『触られて喜んでたのか?』
『あんな服を着るな』
『人に見られるなといつも言っただろう』
『どうして言う事を聞かない』
『皆お前を気持ち悪いと思ってるぞ』
『早く帰って来い』
『早く帰って来い』
『早く帰って来い』
『早く帰って来い』

何十件も分刻みで送られて来ていたメールに思わず立ち上がった。体がブルブルと震えて喉まで吐き気が込み上げる。

「浬音ちゃん…?どうしたの?」
「あ…あの…ごめんなさい!!」

堪らなくなってラウンジを飛び出していた。無我夢中で走って、非常口から外へ倒れ込む様に出ると、胃の中の物を全て吐き出してしまった。喉が焼ける様に熱くて、耳鳴りがして、頭が殴られた様に痛かった。

「う…!げぇっ…!」
「浬音ちゃん!」
「ちょ…真っ青だよ?!」
「誰か医者呼べ!水持って来い!」
「大丈夫?!」
「ご…め…ごめんなさ…ごめんなさい!ごめんなさい!…私…私…気持ち悪いって!
 お兄ちゃんが…お兄ちゃんが…!」
「ごめん、浬音ちゃん、メール見た…でも、あんなのおかしいよ!浬音ちゃん全然
 気持ち悪くも、変でもないよ?」
「あれは兄貴の方が気持ち悪いわよ。」
「すいません、ちょっと…通して!…浬音!浬音大丈夫か?!」
「…密さ…!密…さん!密さん!密さん!密さん!」
「大丈夫…大丈夫だ。お前は悪くない…悪くない…。」

密さんは服が汚れるのも構わずに私を抱き締めて、何度も『大丈夫』『悪くない』と繰り返した。他のプレイヤーの皆も『大丈夫』と言いながらそっと背中を撫でてくれている。

「ごめんなさい…ごめんなさい…!」
「謝らなくて良いから、ね?」
「部屋戻って、ゆっくり休んで来い。」
「浬音、立てるか?辛いなら抱いてくから…。」
「だ…大丈…夫です…!」
「…掴まってろ。」

密さんは私を抱き上げると、プレイヤーの皆に浅く頭を下げその場を後にした。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい

DollsGame-30.彼岸花-

暴力は悲しみしか生まない

閲覧数:132

投稿日:2010/07/30 03:14:13

文字数:1,092文字

カテゴリ:小説

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