「ねえ、絵の個展ってどんな感じなのかな」
レンくんが、カイくんに聞く。
「じつは、僕も個展っていうものに行くの、初めてなんだ。楽しみだね」
カイくんが答える。

土曜日のお昼過ぎ、カイくんと、レンくん・リンちゃんの兄妹は、電車に乗っていた。
3人はみんなで、雑貨店「つんでれ」で開いている、絵の個展を見に行くのだ。

カイくんの店・キディディ・ランドで人気の雑貨、「クリエイター・シリーズ」。
その絵の作者の1人、重音テッドさんの展示会なのだ。
カイくんが売り場に置いた、展示会のお知らせのはがきを見て、常連客のレンくんが、
「これ、面白そう。いっしょに行ってみようよ」
と、頼んだのだ。
好奇心旺盛な、妹のリンちゃんも、加わった。


●作者のファンになっちゃった!

「つんでれ」では、オーナーのテトさんが出迎えてくれた。
店の中の小さなスペースに、絵本の絵や原画が、いろいろ紹介されている。
貼り絵風のものもあって、思わずカイくんは見入ってしまった。

レンくんは、絵本を手にとって
「きれいな絵だなあ」
と感心して眺めた。
「ボク、ぜひテッドさんに会ってみたいなあ」
「いま、あいにくテッドは用事でちょっと席をはずしてるんですよ。ごめんなさいね。もうじき戻ると思いますよ」
テトさんは、済まなそうだ。
レンくんは、作者のテッドさんの、ファンになってしまったようだ。

リンちゃんは、絵よりも、売り場の雑貨に興味がある。
「つんでれ」は北欧小物の雑貨店だ。
フィンランドやデンマークの、木のおもちゃや小物がいっぱい並んでいる。
リンちゃんは赤い帽子をかぶった木製の小人が、とても気に入った。
展示会そっちのけで、手に取って遊んでいる。


●おいしいクッキーでひと休み

テトさんは3人に、お茶とお菓子をサービスしてくれた。
「このクッキー、おいしいね!」
リンちゃんがほおばる。
「これは、お客様のルカさんの手作りクッキーなんです。きのう、展示会のために差しいれしてくれたんですよ」
テトさんが笑って言う。
「へえ、ルカさんの...」カイくんも食べてみる。
「クッキーの中に、魚のまぐろのパウダーが入っていて、健康にいいそうですよ」
4人は、ルカさんのクッキーを食べ、ルコ坊のブレンドしたコーヒーを飲み、話に花が咲いた。

●夕陽とブラックコーヒー

しばらくすると、用事を終えたテッドさんが帰ってきた。
「どうも、お久しぶりです」
「いつかは、ありがとうございます」
カイくんとテッドさんは、挨拶をかわす。
いつか、彼はカイくんのお店で、千代紙を買ったことがある。

「あら、レンくんはどこ?」
テトさんがあたりを見回す。
せっかく会いたがっていたのに、店内にレンくんとリンちゃんの姿が、ない。
「帰っちゃったのかしら?」
「いや、2人のカバンはここにありますよ」
カイくんが椅子の上を指さした。

そのとき、レンくんとリンちゃんは、店の近くの坂の上の、ガードレールに座っていた。
2人で、夕陽の差す街を見下ろし、「まぐろクッキー」を食べていたのだ。

紙コップに入れてきたコーヒーを飲み、クッキーをかじる。
「夕陽がきれい。それにコーヒーはブラックにかぎるわね」
リンちゃんが言う。
(こいつ、大人ぶっちゃって)
レンくんは思う。ずっと「つんでれ」にいたかったのに、リンちゃんが一緒に外で食べよう、といって誘ったのだ。
「夕陽見て、つぶやいたりして...。ひょっとして“中二病”?」
「いま、何か言った?」
うっとりしていたリンちゃんは、きゅうにコワイ顔でにらんできた。

いえ。何も言ってないよ...(゜ー゜;A

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • 作者の氏名を表示して下さい

玩具屋カイくんの販売日誌 (25) リン・レンとカイくん、個展を見る

絵の個展って、入るのちょっと勇気がいりますが、友達と行くと平気ですね。
初めての人にも結構親切に、応対してくれるみたい。

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投稿日:2009/10/03 13:00:58

文字数:1,514文字

カテゴリ:小説

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